魔法少女考── イザナギ計画──
魔法少女と毎晩セックスしてる。そこに愛はない。
これほどにも退屈な交尾があるのかとすら思う。行為の前バイアグラを服用するとき、すごく嫌な気分になる。どうして、好きでもない女の子と、毎晩毎晩機械のように交尾をしないといけないのか。だが仕方がない。これは仕事なのである。
近頃、いよいよ魔法少女と妖魔との戦いも激化してきて、毎日のように殉職者が出るようになった。しかし人員補充しようにも、魔法少女になるための資質には、後天的な努力ではなしに先天的な才能、要するに遺伝が関わってくる。そこで政府は考えついた。遺伝でしか魔法少女が生まれないならば、魔法少女にポンポン子を産ませればいいじゃない、と。
要するに産めよ増やせよとかいう、原始的な慣用句に、政府の高潔かつ聡明な官僚たちは膝を屈したのである。ちなみに彼らはこの極秘計画に、“イザナギプロジェクト”という名をつけていた。多少なりとも神話に詳しい人ならすぐに由来が分かるだろう。イザナギの、黄泉へ堕ちた妻イザナミが、「一日に1000人、人を殺してやる」と夫を脅したのに対抗して、イザナギが、「では私は一日に1500人の子を産ませよう」と返したという、あのエピソードが元ネタである。初めて知った時は、「まさか古代人たちも、こんな人口爆発が起きるとは思って無かったろうに」といった風に、どうでもいいところにばかり目をつけていた。が、今思い返してみると、問題点はイザナギの無責任極まる発言の方にある。「一日に1500人の子を“産ませよう”」、そう、自分では腹を痛めることなどないのである。産みの苦しみなど知らないくせに、何を勝手に、そんな大言壮語を吐いているのだ。別に、産む側だけじゃない。種を仕込む側だって、結構つらいのである。
とはいうものの、僕なんか、まだマシである。僕の相手の子は、大人しく、僕に対しても気づかいして、なるべくあっさりと終わらせようとしてくれる。しかも、顔やスタイルもいい。しかし、僕の同僚には、もっと酷い目にあってる奴もいる。丸太のように太った、脂肪の塊と毎晩抱き合ってる奴、自分の妹そっくりの顔をした娘と、毎晩抱き合ってる奴、殿方の首を絞めないと、興奮出来ない子と、毎晩抱き合ってる奴。
特に、大変な思いをしているのはTさんという方だ。この人は本当にすごい。どれだけえげつない子をあてがわれても、愚痴一つ言わず仕事をこなす。まあ、理由はあるのだが。一つは、彼の素晴らしいプロ根性。そしてもう一つは、彼が元々似たような仕事――AV男優をやっていたことである。
この、種付けの役目を任されるのは、主に公務員である。国が極秘で進めているプロジェクトだからである。外部の人間に委託するなんてことは基本行われない。独身で、精力十分な奴をこっそり抜擢し、夜な夜な「残業」をさせているのだ。勿論その分の給料は支払われない。逆に大切な子種を奪われるばかりだ。
しかし、Tさんは例外である。近頃は、この仕事をやり続け精神を病むもの、若くしてEDに陥るものが沢山ですぎた。ゆえに仕方なく、信頼できる外部の人間、口が堅く、愛国心に溢れ、精力旺盛なものを、極秘で募集したのである。Tさんは、そうして集められた人たちの一人である。天職とも言われていたAV男優の仕事をやめ、国家のため毎日精を出しているTさんの自己犠牲の精神には、全く敬服せざるを得ない。外部の人間には口止め料代わりに賃金もでるが、男優の仕事と比べればずっと安い。ただ純粋に、人類との平和の為に命懸けで戦っている、魔法少女の力になりたい。その一心で彼は、この毎晩毎晩訪れる虚無的な性交に、打ち込んでいるのだ。
いや、ことによるとTさんにとって、それは虚しい行為ではないのかもしれない。実際、聞くところによるとTさんは、少女一人一人に慈愛の念を込めながら彼女らの体を抱いており、慣れていない子でも苦痛と恐怖が最大限和らぐよう気を配っているらしいのである。実際Tさんはいつも清潔感を気にしており、身なりも垢ぬけていて、見苦しさがない。柔和な笑顔を絶やすことなく、誰に対しても明朗な態度を取り、また、自己犠牲の精神も持ち合わせている。この仕事に就いた当初の時点でTさんは、自分の上司に、「なるべく、他の種付け係の人から嫌わているような子たちを、僕へと優先的に回してください」と、頼み込んだらしい。本当に、見上げたプロ根性である。よほどこの仕事に、やりがいを感じているのだろう。故に同僚である僕たちも、抱かれる魔法少女たちも、Tさんのことを嫌うものは誰一人としていない。皆彼に対し、自然な尊敬の念を抱いているのだ。
だが、みんながみんなTさんのようにはなれない。中には、この仕事の虚しさに、心をへし折られてしまったものもいる。元同輩のIなどは、その典型だ。
思うに、Iは真面目過ぎたのだ。実際彼は仕事においても非常に実直で、365日無遅刻無欠席。けっして器用な方ではないが、溢れんばかりの情熱と真面目さで仕事をこなす、そういう誠実な人間だった。彼が種付け係に選ばれたのも、そんな彼の真面目さを信頼されてのことである。だが、思えばこれが悲劇の始まりだった。
Iは一年間で、5人の魔法少女を妊娠させた。上々の結果だと、当初上司も喜んでいた。しかし、一つ問題があった。
――まるで呪いでもかかっているかのように、男の子ばかり産まれてくるのである。
女の子が産まれてくれば、まだいい。彼女らは魔法少女の訓練施設に入れられ、厳しい訓練を受けながらも、国家による丁重な保護を受けることが出来る。もし魔法の力に目覚めなかったとしても、魔法少女関連の専門職に就くことが出来る。それらの仕事は大抵高給取りであり、彼女らはエリートとして裕福な暮らしを送ることが出来る。
しかし男に産まれてきてしまえば、官製の孤児院にまとめて収容される。残念ながら、魔法の力を扱えるのは思春期の「少女」だけなのである。男の子は、一生魔法の力に目覚めることはない。そして孤児院はしばしば低予算であり、彼らは粗末な宿舎の中で、施設の職員に育てられることなる。妖魔による被害が増えてきたせいで、近年社会では親を殺された子どもがしばしば孤児院に引き取られいるのだが、これは職員の不足など施設の環境の悪化を招いている。例えばこの前など、過剰な労務のストレスに耐えかねた若い女性職員が、男の子を虐待してしまった事件が取り沙汰されていた。これを聞いたときは僕も、身をつまされる思いになった。やはり僕のやっていることは、世の中に不幸をまき散らす行為なのでは?そもそも、誰がこの仕事をやって、しあわせになるんだ?そんな疑問を何度も抱いたことがあった。
そしてそんな僕を板挟みにするのは、父の存在であった。父は素朴だけど、深い愛国心の持ち主であり、僕が国に仕え民衆に奉仕する公務員になったことを喜んでいた。そんな父はしばしば、仕事に精を出す僕のことを褒め、励ましてくれる。しかしその度僕は、複雑な気持ちになる。
(父さん、確かに僕は、国のため、人々のためになることをしている。でもね、これは果たして正しい行為なのか?未成年の傷ついた女の子を、妊娠させる仕事だなんて……)
正しいに、決まっている。決まっているはずなのだ。確かに僕たちのしている行為は、道徳にもとるかもしれない。しかし、妖魔に人間が滅ぼされてしまったら、もう元も子もないじゃないか。結局、仕方がない。不幸の温床である。最終的にIは、男のばかり産まれてくる現実に、嫌気がさし精神を病んだ。アイツは真面目過ぎたせいで、僕のように、自分の中で折り合いをつけることが出来なかったのだ。笑い飛ばしておけばよかった。未成年の小娘と毎晩やれるなんて、最高じゃないか!こんな風に虚勢でも張っておけばよかったのだ。しかしアイツにはそんなこと出来なかった。結局アイツは良心と使命の板ばさみとなり、心を病み、最後には退職してしまった。今では回復し、新しい仕事に就いているのが不幸中の幸いである。だが、生活は大変なようだ。なんて言ったって、この前五人も孤児院から「養子」を、引き取ったのだから……。
皆、頑張ってる。僕たちだけじゃない。僕たちなんかより遥かに強い痛みと恐怖を感じているであろう、魔法少女たちだって、頑張っている。僕はこの前処女の子を抱いたが、彼女は破瓜の激痛にも声を出すことなく、淡々と事務的に行為を終わらせていた。僕の方が驚いてしまうくらいの胆力だった。
そう、みんな一生懸命やってる。でも、やっぱり、これは後ろめたい行為だ。政府は発覚を心の底から恐れあれこれ手を打っているようだが、それも当然である。バレたら、非難轟々だろ。僕だって考えたくない。間違えなく僕も、Tさんも、Iも、ヒトデナシのレッテルを貼られるだろう。誰だって、異常だと思うだろう。考えることすらイヤだろう。自分たちが当たり前のように享受してる平和な生活が、無数の虚しい性行の上にあるというのは。
いや、だが、時に思う。人類なんて、そんなもんじゃないかと。
冗談めかしてさっきは非難したけど、イザナギのあのエピソード、あれはこの真実を、如実に表してはいないか?どれだけお行儀よく取り繕っても、結局人間ってのは無数のセックスの積み重ねの上の存在だし、自然界はそういう風に回っている。クジャクの羽が美しいのも、ライオンのたてがみが勇ましいのも、結局はそこに帰結する。より良いメスとヤりたいがためである。
そしてそれを心の何処かで知っているからこそ、僕はこれだけ文句を言いながらも、狂うことなくあの虚しい作業に従事できるんじゃないか。時にそう思うこともある。そして出来ることならば、世の中の人々も、あのイザナギの言葉に、理解を示してくれないだろうか。結局、なんて言ったって、セックスは大事なことだよ。
というわけでして、皆さんもう、四の五の言ってないで、ヤリまくっちゃってくださいよ。お堅い建前、並べてないでさ。どうせ誰も、この快楽には、本能の命令には逆らえないんですから。別に恥ずかしいことでも、悪いことでもないんです。むしろ、世のため人のためになることなんです。種付けしてくださいよ。ただ、腰を振りまくってくださいよ。未成年の少女だろうが構いません。妊娠適齢期、何歳だと思ってるんです。さあ、孕ませてください。聖人君子ヅラなんて、もう見飽きたんですよ。これが自然の摂理。もう人口増やさないと、この社会立ち行かないんですよ。さっ、さっ、気兼ねなく。あなた方が頑張ってくれれば、僕らの仕事も少しはラクになるでしょうし……
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