4.参:百年に一度


「成る程……。お前は『おやじさん』に選ばれたのか」


 全てを話し終えたと共に、ベルテナが呟いた。


「ああ、そうだ」


 「おやじさん」は有名である。俺はその事に少し違和感を覚えながら答えた。

 ベルテナはほくそ笑み、ザクロウを見る。

 俺もザクロウを見ると、ザクロウは完全に構えていた。


「そして、トンテナ様の仇でもありて候……。斬る!」


 ザクロウは刀を抜く!

 刹那、俺の目の前に刃が現われた。

 ザクロウは居合い斬りの達人。

 一般教育を受けて育った俺には、到底彼の斬撃を避けられないのだ。

 いや、俺のみでは無い。恐らくここにいる全員が対応できないはずだ。

 ということは……終わりだな。

 俺は死を覚悟し、眼を瞑ろうとした。

 その瞬間。


「おい!」


 ベルテナの声と共に、ベルテナのものらしき剣がザクロウの刀と俺との間をすり抜けた。

 と思うと、金属がぶつかる音が響き、ザクロウの刀は宙へと飛んでいた。


「この者が死んだら……どうするんだ!?」


 ベルテナはそう言いながらザクロウに刃を向ける。


「その際は、俺が王となろう!」


 ザクロウはそう言いながらベルテナの刃を払い、今度はベルテナに襲いかかった。

 ザクロウの刃は眼では追い切れないほどの速さでベルテナを吹っ飛ばし、今度は俺に向かう。

 俺はその動きを見切った!


<グレスファスをしてアステルトをして下さい>


 何か行き成り、声が聞こえた。

 それはメテンの声ではなく……そうだな、機械音のような声だった。

 勿論意味は、分からない。

 だが……方法が分かった。

 俺は瞬時にザクロウの刀を避け、刀の柄をそっと、捕まえた。


「お前には無理だ。ザクロウ」


 ベルテナは起きながらそう言った。

 とてもホッとしたように。


「何…だと…!」


 ザクロウは振り返る。

 それと同時に俺はザクロウの刀を落とさせる。


「こいつは、王の器だ」


 ベルテナが言った。

 ザクロウは刀を拾おうとした体を止め、ベルテナを直視した。


「百年に……一度のな」


 百年に、一度……。

 ベルテナの声が俺の心に響く。


「ふふ~ん。さっきのは流石だったよ!」


 空気を読まず、メテンは俺に脳内で話しかけてくる。

 が、俺はそれを無視し、それよりベルテナの言葉の真意を察していた。

 そこでふと気がつく。

 これは……認めるということなのか!?


「キタカタ・ケイセ。俺はお前を認めない」


 一方ザクロウは、そう言ってこの場を去って行った。

 俺はそれをただ傍観するしか無い自分を恨む。


「慶世。いや、慶世国王。俺達は皆トンテナを良く思ってないんだが、あのザクロウは違うんだよ。あいつは誰よりもトンテナ国王を敬愛している。だから例えどんな理由があったにせよ、あいつとこれ以上話さないでくれ」


 ベルテナは苦笑いをしながら俺に話しかけてきた。

 恐らくベルテナも仲間と俺を考えてのことであろう。

 だから俺は承諾した。

 俺が答えると、ベルテナは安心したように、


「それじゃあこれより俺たちは、慶世国王を認める、いいな!」


 と言った。

 この場にいた全員が「応!」と声を張り上げ立ち上がり、俺が国王であることを認めた。

 勿論なぜだかは分からない。ひょっとしたらまだ、信用されていないかも知れない。

 だが俺は……清々しいスタートを切ったと信じたかった。


 さて、スタートを切ったところで俺は一先ず安心……したかったが次の瞬間、俺は早速困らされることになる。


「上様、凶報がやって参りました」


 そう、アルティナがやって来たのだ。

 アルティナは先程の通り、そのスザァとかいう伝令統括役みたいな人物。今まで沢山の情報を伝えてきたはずだ。

 そのアルティナが俺にわざわざ上様とか言って伝えること、そして凶報と言えることというのはかなりの凶報である。

 それに勘づきながら俺は、話を聞くことにした。


「一つ、アルシィジナが本隊を連れて来ました。総勢、八万で指揮官は天才国王・ジブラ。前より手強いです」


 はっ八万だとぉ!?

 俺はそれがどれ位の強さなのか正直分からないが、とりあえず驚いてみた。

 しかも国王自らがお出ましとは……どういう魂胆なんだ?

 だが。

 「一つ」って今最初に言わなかったか?

 ってことは二つ目があるってことだ!

 そう気付いた時、アルティナがまた口を開いた。


「二つ、チレ全地方領主が裏切り、我が国家は九カ国へと分裂しました上、ザクロウ殿が消息不明に!」


 なっ


「何だって!!!!!?」


 そう、裏切り。そして有力な重臣の損失である。

 その時俺は、驚きを隠せなかった。

 確かに普通ならこうなる。それは知っている。

 だが俺は油断していた。

 今まで上手くいっていたからである。

 これはただ呆然と立ち尽くすしかあるまい……そう思っていると、隣にいたリュウが囁いてきた。


「お前の本で二つとも解決しろ」


「どうやって…?」


「お前はもうすでに五百ページまで読んだだろう? それを生かせ」


 え……。何でそれを知ってるんだ?

 それに驚いているとリュウは彼の作戦を話し始めた。


「それじゃあまず……零ページを開いてみろ」


 そんなこと言われたって分かんない。

 っていうか零ページって何だよ?

 そう思っているとリュウが言った。


「まさか…知らないのか?」


 呆れられる。

 確かに当然かも知れない。俺は何回にも分けて五百ページまで読んだのに、零ページの存在には気付いていなかったのだから。


「ふう。じゃあまず最初に、零ページが開けるということを知れ」


 零ページって言えば良いのか?

 俺は「零ページ」と言ってみた。

 すると……本の零ページが開く。

 その二ページに渡った零ページ、零点五ページには、ルトアというドラゴンの説明があった。


「えっと…条件は…」


 と見ると……


「さっ最初から使用可能!?」


「ああそうだ。こいつは巨大だからここでは出現させるなよ。その上凶暴で強いしな……。にしてはお前はルトアか」


 と、リュウが失笑した。

 っていうか「お前は」か?

 まさか他の奴もこれ使っているのか?

 それで零ページが違う……と、そう言うことなのか?

 俺はそこまで思うと、ふとこんなことを考えた。

 まさかお前じゃ無いよな!?

 まあ……違うか。


「そして今回手に入れる目標は軍師だ」


 俺はその生物を本の中で見た気がした。

 確か八十何ページかだったはず…


「八十七ページだ」


 八十七ページを開いた。するとメレルターという軍略家が載っている。

 そのためには…軍略の書が必要。


「軍略の書は異世界にある。五十八ページだ」


 五十八ページを開くと、ミシアという精霊が載っていた。

 異世界へとワープできるらしい。

 そして条件。宝石を手に入れる。

 っていうか異世界へとワープか……ひょっとしたら俺の世界へも。

 と、期待しながらふと気付いたことを言う。


「お前……詳しいな」


 リュウは笑ってこう答えた。


「ああ」


 意外とあっさりだな。

 というか使っている可能性が上がった。

 まあ多分……? 俺のためだろうけど?

 そうしとこう。うんうん。


「おいベルテナ!」


 となると宝石が必要である。

 俺は宝石を手に入れるため、ベルテナに宝石店の場所を訊くことにした。

 ベルテナは少し名前で呼ばれて戸惑っていたが、すぐに答えてくれる。


「何だ? ……じゃなくて何でしょうか?」


「この辺に宝石店はあるか!?」


「?」


 そして戸惑いながらベルテナは。


「何だか知らんが今地図書いてやる。待っててくれ」


 有り難いことにそう叫んでペンを走らせてくれたのであった。

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