4.弐:チレ国会議
「てめえ……いや、お前が慶世王か……」
金色に輝いている彼の眼は俺を友好的に見ていて、彼の服装はアザリガのような魔法剣士らしい服装をしていた。
内側が黒、外側が紅のマントを纏い、金色のバッチを右胸に付けている。
これが恐らく正装なのだろう。
「俺の名前はアンコル人のアスケープ=ベルテナ。トンテナのことを良くは思ってなかったが、お前よりは信用できる、と思っている。慶世国王、俺達を信用させる切っ掛けを作ってみろ」
ベルテナと呼べと言っている。
ベルテナは外交顧問兼総まとめ役だが、戦闘にも参加しているらしい。
いやというか、仕事をすっぽかして参加している。ということらしいのだ。
つまり、本当の外交顧問と言うべきなのはそこにいる少女なのだろう。
「あ……こんにちは。私は外交顧問補佐役、勇希と申します。えっと、ベルテナ様がお世話になります。宜しくお願いします」
勇希は俺が目を向けると、そう挨拶してきた。
勇希……明らかに日本人であろう彼女は、青髪のツインテール。完全に日本人ではないであろう格好をしていた。
完全に確信した。
異世界に来た、と。
「勇希ちゃんって外交やあることに関しては結構な有力者だよ? 外交政治に関しては結構な実績を持っているみたいだし」
横から完全に可愛くなくなってきたメテンが話しかけてくる。
でもまあ、それは使える情報だ。このベルテナって人を差し置いて先に紹介するということはベルテナより外交上手なんだろう。ついでに言うと名前も含めボーイッシュであるという謎の萌え要素あるし……。はい採用。
無論、何が採用なんだ? という質問はやめてもらおうか。
唯普通に彼女の存在を認めたのだ! それ以外は何も言わない!!
とりあえずそんなことを考えていると、あの例の少女ミータが咳払いをして話し始めた。
「わしゃ別にええけど! わしゃミータ。アンケ人じゃけぇ、ラストネームやらはない!」
ミータは少々嬉しそうに言う。年は十歳で、彼女は広島弁っぽい謎の方言を喋っているらしい。この世界にも広島弁みたいな方言があるのか? と俺は驚いてみる。
……。
っていうかそれ以上何も言わないのか?
「うん。役職とかは君が知っているってことになっているからね」
メテンが補足してきた。
え……じゃあ俺はそういうことが確認できずに自己紹介を聞くことになるのか!?
「大丈夫だよ☆ 僕が説明する」
猫であるメテンは、その明らかにない胸を叩いてそう言ってきた。
というか台詞に☆を入れるのが、どう考えても自分はふざけているよ……っていうアピールにしか感じないんだが。まあちゃんと教えてくれるんだろうな?
「勿論!」
じゃあ彼女の役目は……何だ?
「それはね。――内政顧問だよ~」
内政顧問……か。外交、つまり外政とは真反対の仕事を担当しているということだ。
その俺の頭の中での会話はそこで終わったと同時に、一人の青年が手を上げて立ち上がった。
「はい! 私は内政顧問補佐役、アドリアン。簡単に言っちゃえばミータ様が仕事をほっぽり出して突撃してしまって行方が不明になってもいいように、いるような者で御座います!」
勇希と同じ……か。
「っていうかこの補佐じゃない人達。全員さっきの戦いに出撃してたよ?」
メテンが更に言ってくる。
なるほど。補佐がその仕事をやっている、と。
というか逆に補佐じゃない奴らはサボっているって訳か。
「あ、オーガルとかは違ったよ」
まだ知らないが、まあそういう奴らは良いのだと思う。
っていうかじゃあ補佐じゃなくちゃんとした顧問にした方がいい……んじゃないか?
それを理解し、ミータの隣の侍らしき男を見た。
彼は次は自分だと確信し、自己紹介を始める。
「某、ザクロウと申す者。アンケ人であり、トンテナの一の従者で候。貴様がトンテナ様の敵だというのなら、斬って参り候!」
本当に構えた。苔色の髪をした白い和服を着た男だった。
にしては何でも候を付けると侍になれると思い込んでいると見える。
つまり、侍ではない。侍の真似事をしているのだ。
というかオルタみたいに「トンテナの鶴」とか呼ばれてないんだから一の従者って言えるのか言えないのか分かんねえし……こりゃ怪しいとこだな。
そう思い、俺は彼を軽視する。
しかし、彼の鉄色の眼はその軽視を簡単に失わせた。
そうだな、これは……殺気だ。
そう気付いた時、俺は必死に弁明することを選択した。
「あ! いやいや。敵じゃないけど!」
全然弁明できてない。そうは分かっている。
だがお優しいことにザクロウは構えを解いてくれるらしい。
俺はホッとするが、メテンがこう忠告する。
「まだ全然信用されてないよ。残念なことに」
そりゃ、そうなるよな。
それぐらいは分かっている。
ところで、こいつの役職は?
俺はメテンに訊いてみた。
「君、当たり前のことを訊くんじゃ無いよ。彼は言わば国王代理、国王がいなくなった後を任されているんだよ」
なるほど……ね。
だから一の従者と言えるのか。
つまりだ。本当はザクロウが王になるべきなのだ。
それを、俺がとった。
恨まれても仕方ないな。
一応のところ理解は出来た。ということで次の男を見る。
「儂はオーガル・マケンドである。戦術を担当し、勿論軍事顧問である。そして、エスル人である」
明るい茶髪の明らかに年配である人物がそう言った。
金糸雀色の瞳を持った軍略家のような男だった。
が……何だ?「である」ってどんだけ使うんだ??
にしてはこの人物、結構使える。わざわざ自分の役職を名乗ってくれるとは。
よし採用だ。
俺はまた面接官のように相手を評価する。
その対象であるオーガルは、黒いマントを着けながら次の奴を見た。
彼女は緋色のロングへアに若草色の瞳。少し濃い朱色と銀色の兜に鎧。
まさしく中世の女騎士だった。
「我が名はアルティナ。アンケ人なのでラストネームなどは有りません。お見知りおきを」
礼儀正しい口調のアルティナは、そう言うと去って行った。
彼女は俺も少し見とれてしまう程、結構な美人だった。
「おい!」
アルティナは俺のこの言葉を無視して本当に去って行った。
「彼女はスザァである。仕事があるのであろう」
オーガルが言った。
スザァ? 何だそれ。
「全く……君の語彙力には呆れるよ。まさかこの程度の言葉で自動翻訳機能が対応できなくなっているとは」
メテンが急に話しかけてきた。
まあ何か、色々面倒くさいから自動変換機能……とかいう奴は無視するとして。
スザァって何だ?
「伝令統括役、みたいな感じ……って言っとけば分かるかい?」
俺は納得する……気がした。
すると、今度はそのアルティナの隣にいた男が言った。
「俺の名前はオーテル*マスケルド。鉄砲撃ちだ! 右目の傷は古傷だが。まあ宜しく頼むぜ!」
このオーテルという人物は傷をつけた右目を閉じたままにしている。
すでに失明しているのだろうか。
彼は黒髪に黒眼、どう考えても日本人のようだった。勿論名前からして日本人ではないのだが……ザクロウのように後ろに髪を束ねていたのだ。これは最早日本人と錯覚するほかあるまい。
「彼の役職は、兵士統率顧問。そしてそこにいる無言の子が市民統率顧問兼兵士統率顧問補佐、レアだよ~」
メテンが補足説明する。
っていうかそこの無言の幼、じゃなくて少女。全く存在感が無かったのだが!
俺はメテンによって気付かされ、その人物にも眼で挨拶する。
しかし、彼女は首をすくめただけで何も言ってこなかった。
俺は彼女に話しかけようとする、その時だった。
「以上がチレ重臣。それに六媒師、そして各地の地方領主が居て、今までは活動していた」
ベルテナの一言。まるで彼女は存在していないような発言であった。
俺は彼女の方を見る。彼女は何も不服とも感じてないようで、俺の視線に気付いても少し俺を見ただけで、すぐそっぽを向いた。
これは……ほっておけという合図なのだろうか。
俺はそう察してみて、気になったことをベルテナに訊いてみることにした。
正直、この名前で合っているか不安なのだが……ええいままよ!
「ベルテナ。地方領主たちは?」
「ああ。彼らは今回、呼んでいない。まずは側近で、ということとしているからな」
やはりか。やはり地方領主はここにいない……。
というか、地方領主はただ地方の統率をしているだけなのだろうか?
「地方の統率だけでも充分大変なんだよ? 言ってしまえば、その地方の王なんだから」
メテンが脳内で説明する。
確かにそうだ。
じゃあ、国は地方ごとに区分しないと統率出来ないほど大きいのか。
「そちらの自己紹介をやってみて貰いたく候」
俺がそんな感じで考えていると、ザクロウが言った。
相変わらずの候文であるが、俺はひとまず軽く自己紹介をやってみることにした。
「ああ。俺の名前は北形慶世。今、チレ国王になろうとしている者だ」
まあ全て自分の意思では無く、無理矢理なのだが……ということは言うのはよしとこう。何か話がややこしくなりそうだ。
それにしては……メテンがこういう時動かないんだな。
そう、メテンは俺に憑依しないどころか、俺と会話すらしないのだ。
次、リュウである。
「俺はリュウ。今は慶世の護衛役だ」
「リュウだと!」
オーガルがリュウという言葉に反応し、思わず構える。
全員もそれと同時に殺気を俺からリュウに移した。
リュウは危ない。
俺はその危機感を感じていた。
俺は一瞬リュウに危機感を覚えてしまう。
――とりあえず気を取り直して、オーガルに訊いてみよう。
ここは威厳を持って、王らしく低い声で。
「どうした?」
よし、成功!
俺のその声は、完全に俺が思い描いていた声だった。
これによって、少しは怯えるだろう!
そう思えたのだったが。
オーガルは、完全に俺の言葉を無視した。
「それで……お前はなぜ国王として動こうとした? トンテナ様はどうした?」
その流れを断ち切るように、ベルテナが訊いてきた。
冷たいその声から、まだ俺を信頼していないことが伝わってくる。
――仕方ない。
ここは全てを話し、少し俺への理解をしてもらおうか。
無論、俺が住んでいた世界からこちらに来た、という話は口止めされている。
だから俺は……「おやじさん」と会ったあの時からの経緯を、話したのだった。
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