第4章 チレの統一に向けて

4.壱:チレ国王として

 演説が終わり……俺は会議をすると言われている部屋に向かっていた。

 その途中、俺は例の猫の妖精に呼びかけてくる。


「おいお前。どんだけ意味不明な人間に俺を仕立てるつもりだ!?」


「あくまで『おやじさん』の命令だよ~」


 ……。

 「おやじさん」、か。

 その言葉を聞いて、「おやじさん」の存在が……改めて分からなくなった。

 まあ、取り敢えず。


「お前、名前何という?」


 訊いてみることにした。

 猫やらなんやら――色々な呼び方があった。

 でも、訊いてみることにした。

 すると猫は少し迷って、こう言った。


「メテンタアカウトストレイヤ・ミルタオースメルシクステーン・ブレスインクグロス(略)だよ」


 ――ん?

 ちょっと待てよ。

 その反応が顔に現われていたのか、その猫はまた言った。


「メテンタアカウトストレイヤ・ミルタオースメルシクステーン・ブレスインクグロス(略)だよ」


 一言、言わせて貰う。

 長えよ! あと長えよ! 

 愛称とかないのか?

 すると、猫は


「メミブナクスタルトイアウナでもいいよ」


 と言った。

 は?

 思わず口に出そうになるその言葉を俺は、自分でも驚くほどの力で自制する。


「メテンタアークエンジェルスネグーラチカ・ミネルヴァオラクルメラククエーサー・ブレスインクグロブスタータンブルウィードアンベル・ナチュラルボーンウエルストリアンスターゲイザーデイノコッカスラディオデュランス・クルスドラグノフルシファーチクンルト・スシスシスーダンスガードオシュガーサイクルトンォクスィザ・タンアンカウーストワイライトテトラヒメナ・ルミナスエンドゲームスタディアーサオ・ドレッドノートアンジークフリート・イルミナティトリニトロトルエンルルルルル・アンドロギュノスリントヴルム・ウィッチクラフトワルキューレ・ナノセカンドンドランゲタザゥヴベンマルディグラトリア。それが本名」


 あ、そうか。

 その頭文字を繋げてそのメミブナ何ちゃらかんちゃら何だな。

 理解した。がな……。

 俺は結構記憶力ある方なのだが、やはり覚えられない。


「じゃあ……どうするか」


 相手のあだ名を考える。意外にも難しいことだと思い知らされる。

 俺はそこまでフレンドリーな方じゃない。だから人とそこまで仲良くなったことが無いのだ。大体例え仲良くなった人に向かっても俺はあだ名で呼ぶような真似はしない。作るつもりもない。そういう男なのだ俺は。だからこそこの猫の呼び名を考えるのは凄く大変だった。


「メテンタアークエンジェルス……何だっけ?」


 俺が猫に訊くと猫は呆れたような声で。


「まだ憶えられないのかい? メテンタアークエンジェルスネグーラチカ……」


 と、呪文のように自分の名前を唱え始めた。

 とりあえずメテンタアークエンジェルスネグーラチカ……。ここまで憶えた。そして無論、ここから憶えるつもりもない。

 じゃあここから作るか……。そう思い至って、色々のパターンを作ってみる。


「アークエンジェル、メアネチ、メカ、メテンタ、ネグーラ、チカ……」


 こうすらすら考えられるのも、特技の一つ。

 俺は一瞬、その特技が誇らしくなってくるが、全然良い案が出てこないのに驚愕もしていた。

 そう作っていくうちに、段々と最後の方もあやふやになってくる。

 そして気付けば、メテンタアークエンジェルス以上思い出せなくなっていた。


「アークエンジェルスはまず除くとして、メテンタ……いや」


 メテン、メテ、メ、メア、メス、メル……。

 あ、この中だったら。


「メテンにする」


 これは我ながら妙案である。響きが良いし呼びやすい。

 俺は自画自賛をしながらこの名前に拍手する。

 うん、それが一番だ。

 メテンも何も言ってきてないし、そういうことにした。


「一人言かね? ケイセ国王」


 そんな俺の目の前に謎の男が現われる。

 オレンジっぽい茶色の短髪に完全なオレンジの眼、服装はまさに貴族だった。そんな男だった。

 彼は……俺の瞳をしばらく見つめていた。


「何だ? 何か俺の顔に付いているのか?」


 俺は訊いてみる。

 しかし奴はその言葉を無視し、


「お前がケイセか」


 それだけを言ってきた。

 俺は頷いたが、奴は知っていたようだった。

 そして奴はまた、俺を見つめてこう言った。


「俺はブルスク。宜しくな」


 ――ブルスク、か?

 俺は確認をとろうと声を出そうとしたが、奴の眼に萎縮してしまった。

 奴の眼はまさしく、百戦錬磨の男の眼だったのだ。

 そして俺が萎縮したのを見ると、奴は……ブルスクは何もしないまま、どこかへ行ってしまった。

 俺はとうとう、何も言わないまま。

 そんな俺を不憫に思ったのかどうなのか、メテンはブルスクが去った後、こう言った。


「さっきの人、凄かったね! 思わず萎縮しちゃったよ!!」


 俺を励ましているのか? だったらやめとけ。

 お前笑顔でブルスクを見てたじゃねえか。

 俺はそれを知っている。

 だからそう思った。


「テヘッ☆ バレてた?」


 やはりだ。

 「おやじさん」も、こいつも、絶対俺の心の中を読み取れる能力か何かを持っている。

 俺はそう考えた。


「せいか~い」


 案の定、奴は答えてきやがった。

 全く、気味が悪いものだ。


「でも奥底までは分からないけどね。第二底意から先は僕達には読み取れないんだ」


 メテンのその補足説明は、正直言って分からなかった。

 何なんだ? 第二底意って……。

 いくら考えても、分からなかった。

 数字が……分からなかったのだ。

 偶然か必然か。それに気付いた瞬間、俺の足は動きを止めた。


「え?」


 俺の意志ではない。恐らくメテンだ。

 そう考え、メテンに訊いてみた。


「そうだよ。僕が止めた」

「なぜだ?」

「分からないの?」


 分からないの? ……と言われてもな。

 俺は頭をかいて、前に進もうとする。

 やはり無理だ、足が動かない。

 メテンに教えてもらうしかないか。

 結局、その結論に辿り着いた。


「おい、メテン」


「その口調、やめた方が良いよ」


 俺の言葉をさえぎって、メテンはそう言った。

 そして、重ねて言う。


「ここでやるんだよ。会議は」


 その言葉と同時に、扉が開かれる。


「待っとったよ、ケイセ国王」


 藍色のロングヘアの、ミータとかいう少女のその言葉から。

 俺にとっての第一回。チレ国会議は始まった。

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