3.漆:ケイセ国王誕生

 さて、まずどうやってチレに行くか。

 俺たちは最初それに悩まされた。

 何せこの世界は地図が無いのだ。


「大丈夫じゃよ」


 それについては「おやじさん」が解決した。

 「おやじさん」はリュウと俺たちを同じ円の中に入れると何かを唱え始めた。


「先に行っとれ」


 その「おやじさん」の声と共に蒼い閃光が見えたと思ったら、見たことの無い街に到着していた。


「チ…チレだ」


 レトウスが言った。

 リュウ以外の人物は皆驚いていた。

 アニメや漫画じゃあるまいし、こんな簡単に着けちゃうもんなのか?

 俺は驚きながらも一つのことに気付く。

 街が…静かなのだ。


「いつもこんな感じなのか?」


 と俺が訊いた。するとアザリガが言った。


「いや、違うぜ。慶世、よく見ろ」


 俺はアザリガが指さす方向を見た。

 そこには…

 攻められている…城があった。


「どうやら俺たちがいない間、丁度二時間ほど前にアルシィジナがやってきたようだ。こちらとは反対方向から来たらしく早く避難が終わったらしいが、問題は攻めてきた方の街の避難だ。現在チレの重臣全てがそこの救援に向かっている」


 オルタが蒼い水晶を見ながら言う。

 オルタの水晶は何でも分かる…みたいなことも付け足しておこう。


「くっ。正面から救援に向かうぞ!」


 なぜかレトウスが最初に言った。

 チレに一番と言っていいほど苦しめられていた、レトウスが。

 そして彼の一言を聞くと、六媒師は動いた。


「行くんだよ!」


 アカリがまず先頭をきった。

 アリナが次。

 ロウトウがその次。

 オルタがその次。

 レトウスがその次。

 アザリガが後方に立った。

 俺はその六人を追いかける。


 リュウはというと、逆方向へと去っていった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 アルシィジナ…。チレの隣国であるその国は、国王をジブラとしてから無敗の記録を持つ。

 また過去チレと仲が良かった記録を持っており、昔は交友的であったという。

 しかし今は違う。とある事件を境に、アルシィジナとチレは仲を悪くしたのだ。

 そして遂に今回アルシィジナは攻めてきた。無敗の王が束ねるその国と戦うことが俺の初陣になるとは…俺は冷や汗をかくのであった。


「はああああ!」


 まず最初に俺の目に飛び込んで来たのは藍色の髪の少女であった。

 年齢はトンテナと同じ…というところであろうか。

 ロングヘアで巨大な刀を振り回す武将。


「おお! オルタ! 参ったのか」


 彼女はそう言った。

 何か訛っているような口調である。


「六媒師を取り戻した」


「ほう? ほいでトンテナ国王はどうしたんかいな?」


 そう訊くとすぐに察したようだった。


「なるほどのう。お主が新たな国王なんか?」


 なぜ分かる!?

 察し良すぎだろ!


「うん、さっさと城に戻れい! 後は頼むぞい!!」


 バッタバッタと敵を倒しながら、その少女は叫んだ。


「そこの新たな王! 貴方のお手並みも拝見させて貰うじゃけん! 宜しゅうな!!」


 俺は答えようとしたがオルタたちに連れられて、走って城に入った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「はあはあはあ」


 俺は息が切れていた。

 あそこから全速力で駆けてきたのである。


「どうする? 慶世国王」


 オルタはもう俺が国王だと認めているようだった。


「どうするって…?」


 俺は戸惑いながら言葉を発す。

 俺は戦場を眺めながらエレベーターに乗った。

 というかエレベーターあるのか…。

 俺は思わず心の中でツッコミを入れる。


「アルシィジナのこの猛攻から俺たちを救えたら、国王として認められるだろうが、お前如きで出来るのか?その大仕事が」


 待ち時間、オルタに忠告を受けた。

 俺は知っている。この戦いで勝つのがどれだけ難しいのかを。

 だからすぐにYESとは答えられなかった。

 そう思っていた時、ロウトウが俺に話しかけてきた。


「大丈夫じゃよ。我ら六媒師がいる限り…」


「負けることはない…か」


 そうだ。知っている。俺にはチート級の能力が五つ…いやオルタ含めて六つあるのだ。

 大体「おやじさん」が…


「お主の本は全人類を超越するためにあるもの。お主が後に最強になる」


 と言っていたし、俺含めてチートが七つあるのだ。なら勝てる。

 俺は自分で自分を励ました。

 しかし…心配は取れなかった。


「フッ。フフフ」


 オルタが笑った。

 その時!

 タイマ…。

 不意にその言葉が聞こえた。

 そして…何かを思い出した。


「タイマ。お前って…」


「僕? 僕は普通の人間じゃないよ」


 謎の二言を不意にこの時思い出す。

 どこか、懐かしかった。

 戦場で、聞いた気がする。

 そこまでは分かったが、その時、その二言をそんな気にしてはいなかった。


 チン


 エレベーターが止まり、天守閣に辿り着いた。

 にしては異世界の城だとは思えない構造である。

 SFに出てきそうな…と、表現に困っていると。


「行け」


 オルタは俺の背中を押した。

 仕方なく俺は色々と考えながらその「場」に着いた。

 司令塔である。


「これより、指令を行う!」


 オルタが言い、その声に司令塔の全員が反応する。

 全員が瞳に希望の光を宿したのが見えた。


「はい!」


 余程信頼があついのであろう。

 オルタの呼びかけで、皆の動きも活発になっていた。


「えーこちら司令塔、こちら司令塔。これよりオルタ様から、指令を受けます」


 全員は通信機器で皆に呼びかけている。

 そしてオルタが通信機器を取った。


「俺の指令では無い。次代国王の、ケイセ様からの指令だ」


 そう言い、俺に渡してきた。


「へ?」


 俺は驚いたが、その後瞬時に何をすればいいか理解した。

 まさか…指揮は俺がするのか。

 なぜか上にあるレーダーを見た。

 なるほど。

 全ての情報はこのレーダーから見られるのか。

 しかもRPG風に映されているため分かりやすい。

 だとしたら現在HPが少ないのは…


「ザクロウ殿を周囲にいる兵士十数名で囲め! 其処をオーテル殿部隊が援護射撃!」


「お前が誰だかは分かんねえが…まあ従うぜい!」


 にしては素直に聴いてくれるな。まるで戦略シュミレーションゲームをやっているみたいだ。無論これは夢では無い。痛いから。


「ミータ殿は其処から西に5m進め!」


「うん! 分かったけんにな!!」


 ミータはどうやら先ほどの少女らしい。

 彼女もこれまた素直に聴いてくれた。


「オーガル殿は今すぐに司令塔に! 君にも指揮の手伝いをして欲しい!」


「分かりましたぞ!」


 さあて。これで少し陣形を立て直すことは出来た。

 あとは…


「ベルテナ殿が中心部の援護に当たれば勝てる!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それからも大変だった。相手も(俺にとっては)中々のやり手で、何回も追い詰められた。


 だが、数時間の戦いの後に結局勝利出来たのであった。


「ふう」


 そう俺がため息をつくと、「おやじさん」が入ってきた。

 彼は勝つのが当たり前だと言うような態度で俺に迫った。

 彼の細い瞳の中からは…何も読み取れなかった。

 そして…こう言った。


「では…出番じゃな」


「え?」


 「おやじさん」は可愛い灰色と白の子猫のような魔物を召喚した。

 その猫は俺を見るなりその蒼い眼を俺に近づけてこう言った。


「テヘ♪」


 俺は意味が分からないままそいつに取り憑かれた。


「そいつの言うとおりにしろ」


 「おやじさん」はそう言い、その場を去った。

 何もかもいきなりすぎて分からない…だが、ここは流れに身を任せる方が賢明であろう。

 俺は一先ず信じてみることにした。


「フフフ~ン。君は僕に操られる程度だってこと…恥ずかしく思わないのかにゃ~?」


 まあ俺の髪の中に入っているこいつの第一言がこれだった、ということで俺はすぐに信じて後悔したのだが、もう遅かったのである。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「トンテナ国王の演説です」


 会場に…司会の声が響き渡った。

 会場にはライブ中継らしきものも回っていた。

 そう、これはチレ全土…場合によっては他の各国にも知れ渡る。

 それを承知なのかどうか知らないのだが、俺の体はトンテナ国王演説場所に立った。

 辺りが…チレ国中が…ライブが放送されている場所が…騒然となった。


「俺の名前はケイセ・キタカタ!! 世界を壊し、創造する者。王名は無い。無いが、今日からこの国の主になることは事実だ。そして…」


 俺のこれらの一言は…皆を一々騒然とした。

 俺にとっては壊す…だとか創造する…だとかそういう色々な恥ずかしい言葉だらけなのだが、しかし、それもこれほどでは無かった。

 この一言に比べたら…。


「世界を壊すため…手始めに、世界征服をする!!」


 は?

 そう全員が思ったことであろう。

 実際に俺もそう思った。

 猫のあの化け物…俺に何言わさせてやがる!?

 俺は思わずそう思う。

 すると猫の奴はこう言った。


「いや~ね~、『おやじさん』が作った台本にはそう書いているんだよ」


 「おやじさん」めええ! 何俺の人格が疑われることをするんだよ!!

 そう思いながら俺は次の言葉を言った。


「世界征服と言っても…お前らを支配するつもりは無い。そして平和を目指すことを此処に宣言しよう! そうだな」


 俺は一つ間を置いた。

 その間に俺と猫は「文脈がおかしい!」だの「何で中二病チックなんだ!」だのということについて自分の中で言い争いをしていた。


「全ては明日のため、未来のためである。その為にお前らは俺を支援して欲しい。裏切らないで欲しい。そして…我を信じろ!」


 そして…演説は終了した。

 誰も拍手をしなかった。

 だが俺は、無言で退場した。

 そう、これがケイセ国王の誕生だったのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る