4.肆:作戦開始!
書かれた地図を頼りに俺は宝石店に向かった。
しかしその道中、誰かが待ち伏せをしていた。
「誰だ!?」
俺が呼びかけた先には……ザクロウとその仲間がいた。
俺は笑って見せ、こう呼びかける。
「ザクロウ、どこに行ってたんだ? 戻れ」
「俺はお前を認めはしなくて候……いや、認めはしない!」
ザクロウ達は……刀を抜いた。
あくまでやり合うつもりか。
俺は苦笑いをする。
「今は無駄だ。後でな」
そう言って俺は、逃げ出した。
ザクロウはただ愕然と俺を見つめているようだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
まあそんなこんなで疲れてきた。
もう走りたくない。だが、後ろには敵のアルシィジナ軍が迫っている……。何か乗り物が無ければならないな。
俺は何か方法を考えてみる。
まず、エレベーターがあるんだから鉄道があるのも当たり前な気がするし、バスがあっても良い気がする。
しかし今の状況を考えると、例えあったとしても今は乗れないだろう。そういう結論に辿り着いた。
「そうだ。今チレにアルシィジナが迫っているんだ。なら市民が避難し、交通機関も麻痺させているのは当たり前だ」
市民や金、勝利のことを考えると勿論そういうことが起きる。
ならそれ以外で考えようとすると、意外にもそれは難しいものであった。
そう思った瞬間閃いた。こういう時こそあの本だ! 偶然だかリュウが意図してやったんだか分からないが、乗れる物を既に手に入れていた。自分の千分の一の速さを出すと手に入る、レトウというウルフ!
「二十八ページ、レトウ、召喚!」
そう言うとレトウが出てきた。
灰色の毛をしたどうにも狼のようなウルフ。
そいつは出現するとすぐに頭を下げてこう言った。
「何なりとお申し付けください、我が主」
何というか。レイスより礼儀正しいというか、結構レイスとは真逆な感じがした。
イケボ……っていうの? あれだ。
「ではすぐこの地図が指し示す場所へ!」
「はっ!」
掛け声と同時にレトウは瞬時に地図を記憶し俺を乗せ、わずか十秒で四kmの道を抜けた。
その上俺に空気抵抗がないのである。原理が何だか分かんないが、本当にないのだ。
つまりは……何かすげえ!
そう思いながら宝石店の中に入った。
「いらっしゃ~い」
主人が話しかけてきた。
「おお、王様じゃあありやせんか? こないだの放送、見ましたぜぇ! 俺は宝石店主にして魔法使いのオ! プリエルスっつうケチな野郎で!」
主人、プリエルスは焦げ茶の髪のオッサンにして、ノリは何かアレだという変な人物だった。
アレとは? と皆は考えるだろうが、俺は特に他のラノベ主人公みたいに頭が良くない。そう、語彙力不足だ。
ついでにプリエルスは赤い帽子を被っている巨体の人物。
その上周りには、宝石が生き物のように舞っていた。そう、まさしく宝石使い。宝石の能力を使ってどうたらこうたらする人物である。
俺はそんな彼に百ペソほど出し、
「宝石をくれ!」
と、懇願してみた。
しかし!
「ちょっとアンタ。からかってるんじゃあ無いだろうなあ!」
急にプリエルスは商人のような口調をやめ、低く乱暴な口調を使い始めた。
「これじゃあ宝石買えねえぜ! たとえ王だとしてもよお!」
俺はその声にキョトンとする。
どういうことだろうか。
<はい。ペソは日本円でいう零点二円です>
俺がそのまま考えていると、どっかからか声が聞こえてきた。
メテン……じゃない声が。
――え?
俺はすぐに理解が出来なかった。
そして二秒くらいが過ぎやっと理解が終わった。
その時俺は王としてどれだけの失態をしたかを気付き、頭を抱えた。
「えええええええええ!?」
ってことは…二十円!?有り得ん!
二十円で俺は宝石を買おうとしていたのか―――――!?
あー! 俺は王として、何という失態を犯したのだーー!
俺は思わず自暴自棄になり頭を壁にぶつけまくった。
痛い。
そう思いながら頭をぶつける。
「バーカバーカ。この国の王なんだから、通貨のことぐらい知っときなよ~」
メテンがからかってくる。
うるせえ!
俺はそう脳内で叫びながら脳内でメテンを殴る。
そう、あくまでも脳内で。
「えーコホン。大丈夫ですかい?」
プリエルスの声で、俺は気が付いた。
そうだな。そういえば俺は買いに来たんだった。
そう思って、今俺が持っている全財産を渡した。
勿論これは、全てリュウから貰ったものである。
「ここに二十億ペソある。だから何個かくれ」
「はいOKですよ」
プリエルスは即答し、適当な宝石を渡してきた。
交渉成立である。
じゃあ、と俺は溜息をつきながら店を出る。
「ちょおっと待った!」
店の戸を閉めようとする俺を、プリエルスが呼び止めた。
今「はいOKですよ」って言ってただろうが!
そう俺は思いながら見つめる。
「いつか勝負しましょうぜ。俺と」
それだけのために呼び止めたの……か。
俺は呆れながら去り際に一言答えた。
「ああ。いつか……お手並み拝見させて貰おう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それからが凄かった。レトウの速さは速く、一瞬にして城へと戻ったのだ。
だが、それでももうすでに遅かったみたいで……。
悲報、アルゼンチナ軍我が城の包囲ほぼ完了。
俺がまず着いた時に聞いた言葉は、この一報だった。
「くっ。トンテナ様のような戦略家がいれば!」
軍事顧問のオーガルが言う。
オーガルは戦術の指揮は得意だが、戦略は苦手なのだ。
「他に誰か報告することはあるか?」
俺は玉座に腰掛け、例の会議場で皆に問いかける。
皆……と言ってもザクロウはおらず、代わりに他の者共、六媒師らがいるのだが。
まずはその人たちの自己紹介を聞こうか……と思っていると、外交顧問補佐役の勇希が立ち上がった。
「アルシィジナ軍に使者を送ってみましたが、一向に退く兆しは無かったようです。また、同盟国のボレディアはパーロールに攻められているということで、恐らく援軍は来ないかと」
やはりそうだよな。というかそのアルシィジナ軍に向かった使者は殺されなかったのか。
俺は何かあるあるの結果だと思っていた結果では無かったため、少し奇妙に思う。
「はい! 市民の避難誘導は完了しました。あと精鋭部隊をそこに待機させましたし、基本的に安全です!!」
次に報告したのは内政顧問補佐役、アドリアンだった。
というかそういうのの仕事は市民統率顧問がやるべきじゃ……? と思って例のレアという影の薄い少女を見ると、彼女は頷くのみだった。
「北はアドリアン君、南はレアちゃんがやったんだよ」
メテンが何か言ってくる。
何でお前がわかるんだ? という質問は野暮だからやめておこう。何となく分かる。
「うん、やめておこう」
メテンもそう言うことだし。
さて。では報告も終わったらしいし、俺のターンだな。
「では、相手との兵力差とか教えてくれないか?」
「はい」
そう応答したのはスザァのアルティナだった。
アルティナは会議場にあるホワイトボードらしきものに書いていく。
「敵が八万に対し、味方は裏切りもあり、七万五千。約五千の差があります。更に敵将、ジブラは無敗の軍師。まず、勝機はないとも言えるでしょう」
いきなりの勝てない宣言……か。
「敵は大きく分けて三部隊で行動をしています。ここは各個撃破で行った方が確実と……」
「待て待て! それだったら残り二隊が城を攻略する!!」
アルティナは「ですよね……」と言いながら言葉を失う。
俺はそれ以外に作戦が出ないことを確認すると、皆は答えなかった。
「やっぱり……手に入れるしかねえな」
俺は六十八ページを開け、宝石を五つ置く。
「ミシア、召喚!」
そう叫ぶと、宝石は光の塊へと変化し、その光の塊は妖精の形へと変化していった。
全員がそれに軽快する中、俺は微笑みながらそれを見た。
光は、レスターという妖精のミシアに変化した。
召喚、成功だ。
「こっんっにっちは~。ミシアだし~」
彼女(性別あるか分かんない)は微笑んだ。
俺は……作戦をこいつに説明した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺が立てた作戦はこうだ。
「六媒師は、ミシアと共に異世界に行き、その間に俺たちは時間稼ぎをするだけ。簡単だろ?」
世界三五二四号、不滅の異世界。そこには魔神何ちゃらが存在する。
そいつは確か軍略の書をドロップするはずだ。
だからそれを使ってこの軍師を召喚し形勢を逆転する!
それが内容であるのだ。
「確かにな。仕組みは簡単だが……」
「皆も知ってるとおり、異世界は危険だ。お前らでいけるか?」
リュウが全員の声を覆うように叫び、六媒師らはその言葉を聞き、微笑んだ。
「ああ、勿論だ。お前程じゃねえが、俺らは強いからな」
そんな中、レトウスが答える。
他の皆もレトウスに同意した。
「なら、作戦……開始だ!!」
全員が叫んで応える。
こうして俺の一声によって、簡単簡潔過ぎる作戦は……開始された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます