4.伍:ポッシブルミッションズ!アルゼンチナ軍との対峙Ⅰ

 アルシィジナ軍総大将にして皇帝、ジブラ・アルシィジナ。

 彼が今回指揮をしているのは彼である。

 そして彼の指揮により、戦況はアルシィジナ方の有利になっていた。


「ケイセ王、か……。トンテナが死に、その様などこの馬の骨とも知らない王を選んだのがチレ方の敗因だな」


 そしてジブラはニヤリと笑いながら、また家臣らに別の合図をした。


「上様ああああ~~~~!」


 そこに一人の家来がやってくる。


「ん? どうした、ドステル」


「それが…街の方で爆発があってねえ」


 そのドステルという家来は、宝石屋を指さした。

 ジブラは、そこを見つめた。

 確かに爆発が起きている。


「内乱か?」


「さあねえ?」


「それでは、調べてこい」


 ジブラは更に相手の情報を得るべく、ドステルにそう指示した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その宝石屋では、俺とプリエルスが闘っていった。


「おい。どういうつもりだ?」


 俺は彼に訊く。


「俺はですね~、どうも弱い王が嫌いなんでさ。なんでね、強いか弱いか勝負で確かめましょうかと思い、呼びましたところなんで」


 俺は魔法を持っていない。ゆえに先程の連続爆発技もレイスが居なければ死んでいただろう。

 俺は、弱いのだ。

 その事実を悟った瞬間、あのリュウの寂しそうな顔を思い出していた。

 俺に頼み込んだ……あの時の顔。

 そうだ。あのリュウたちのために……負けるわけにはいかないんじゃねえか!

 零ページ…

 不意に思い出した。そのルトアというドラゴンを…


「その上凶暴で強いしな…」


 そう……リュウのこの言葉が、俺の動きを早めた。


「零ページ」


 零ページと零点五ページは初召喚であるからか、カラフルになった。

 俺は次に正面を見て、本を持った手を振り下げながらこう叫んだ。


「ルトア、召喚!」


 周りにある全ての光が、まるでブラックホールに吸い込まれるように集まってきた。

 それと共に大爆発が発生する。

 間違いない。こいつはヤバい奴だ!

 俺はそれを確信しながら思わず爆発から逃げる。

 炎と黒煙が舞う中、そのドラゴンは現れた。

 紅蓮のドラゴンが…


「俺を……召喚した新たな主よ。お主はまだ、小さいな」


 そりゃあ高校生だからな。前の奴より立派じゃ無いだろうぜ。だが!


「だが! お主を気に入った。いざ共に闘おうぞ!」


 どうだ!

 俺はプリエルスに笑って見せた。


「ほう。こりゃたまげましたなあ」


 思った通りの反応だ。

 これは……勝った!

 俺がそう思った時……。


「ならこちらも…」


 プリエルスは明らかにヤバそうな色の宝石を取った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 異世界へと行った六媒師は、異様な魔物を倒し続けた。


「ここら辺に、霊の気配を感じます」


 そうアリナが言うとレトウスが


「じゃあ召喚だ!」


 と言うからである。

 しかし全ての魔物はほぼ秒殺され、どんどん前へ進められた。


「ところでミシア。目標は何だ?」


 アザリガが訊く。

 ミシアは少し奇妙な顔をした後、二人に笑いかけながらこう答えた。


「うん、目標は……魔神テルボスだよ」

「ええええええええ!?」


 皆驚いた。

 当たり前である。

 なぜなら魔神テルボスは……。


「テルボスって……あの伝説の生物の……?」


「X魔物にまでは昇格してないけど、結構な力を持っている。そうは言えるかな?」


 俺には分からないことではあるが、皆にとっては驚異的なことらしい。だから皆は次の時、このレトウスの声に従った。


「――だとしたら時間が掛かるな。とにかく寄り道は止めて、テルボスを探そう!」


 炎が舞う地獄のような世界。

 そんな場所で、五人は一体の精霊と共にテルボスの元へと急いだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 オーガルはこの戦況に困惑していた。


「負けているのであるか。全ての我が策が破られたのであるな」


 流石はジブラだ、そう褒めている時間は無かった。


「ケイセ王は何をしているのだ!?」


 オーガルは先程から姿の見えないケイセを心配しながら、次の策を打とうとする。

 だが、これ位の策だったらすぐにジブラに見破られるであろう。

 そう確信していた。

 そんなところに、アルティナが来た。

 アルティナが持ってきたのは……凶報であった。


「オーガル、エオウストミア軍から三体の機体がこちらに向かっている模様!」


「何!?」


 エオウストミア。それはロボットの量産を目指した国家であり、唯一魔力などとは関係ないと見える国家である。

 しかしその仕組みは、魔力を何倍にも増強し、コントロールするための機械であるため、操縦者の魔力の大きさも強さに関係する。

 ついでに現在エオウストミア軍のロボットは水に対応でき、あと少しで空へと行けるらしい。

 ヘリコプターやジェット機の時代が終わるのだ。


「――成る程。我が国は終わるかもしれないのであるな。大分追い込まれた」


 オーガルは呟いた。


「いや、こちらに到着するのに二時間は掛かるかと。それまでにこの戦を終わらせれば、各個撃破が可能かと」


 その二時間に掛けるしか無いのである。そう、全ての鍵は慶世と六媒師、そしてその召喚されるらしい軍師に掛かっているのだ。


「もしこのままだったら我々が倒されるのも時間の問題であるぞ、ケイセ王」


 オーガルはそう言って、冷や汗を垂らした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 慶世のルトアは、強かった。


「我は全ての技を持った創世の神! お主には負けられぬ」


 ここが宝石店の中だったら一瞬で壊れていただろう。

 しかし、宝石店の隣の空き地だから良かった。

 そこもちゃんとプリエルスは配慮していたのだろう。


『ダビィーディージェーネメンネ』


 ルトアは技を一つ唱えた。

 その瞬間、ルトアは小さくなり、五十体ほどになった。


「こりゃまたまた……たまげましたぜ」


 プリエルスは苦笑しながら更に攻撃の構えを見せる。

 ルトアは眼を細めながらその動きを見切り、次の技を仕掛けた。


『グリンブブラーフ・ウィーク』


 その呪文はプリエルスを一瞬にして吹き飛ばす。

 プリエルスは高笑いをしながら浮き上がり、避ける。


「どうだ? 証明出来たか…?」


 俺の実力じゃ無いのだが言ってみた。

 プリエルスは高笑いするのをやめ、空中でこう言った。


「ああ……あんな凄い奴常人じゃ召喚出来ませんぜ。何度も言いましたが、たまげましたよ~」


 プリエルスはやっと納得したようである。

 良かった。

 正直、そう思えた。

 こうして俺は、帰参できるようになったのである。


「ついでに俺からも援護を送りますよ~。味方の時間稼いじゃった詫びとして」


 最後にプリエルスが、去りゆく俺の背中にそう言った。

 俺はただ一つ「有り難い」と言って、その場を去った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方荒れゆく異世界の中で、六媒師たちは魔神テルボスと会った。


「急いで倒すぜ」


「うん」


 六媒師たちとミシアは一斉に襲いかかった。


逆再生역 재생


 その時、ミシアは技を使った。

 そして六媒師の攻撃により、テルボスは……瞬殺された。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「帰ってきたぜ!」


 俺はプリエルスとの対決から帰途に着き、オーガルがいる、例の指令室的な場所に来ていた。


「――どこへ行っていたのであるか?」


 オーガルが訊いてくる。


「ちょっとプリエルスのところへ行っていた。ところで、戦況はどうなっている?」


 そう俺が言うとオーガルは


「完全に不利だ。――ところで、今また凶報が来たのであるが聴きたいか?」


 と言ってきた。

 え? それだけ??

 と、俺は何かあっさり片付けられたことに驚くが、それよりも凶報のインパクトが強かった。


「あ…ああ」


 俺は嫌な予感がした。

 現にそうだった。この闘いを退けてからももう一回戦わなければならないということであるからだ。


「エオウストミアは一つの大国を支配する国…準世界三大大国に入るという国である」


「ほう」


 それは……まさか。


「そしてその国がわしたちに向かって動き始めたと言うことは…分かるな?」


 チレは今までエオウストミアに狙われるといったことは無かったらしい。それが今、チレに向かって動き始めているということは…


「俺…もしくはリュウを狙って? それともトンテナが消えたからか?」


 オーガルは一つ間を置いて言った。


「恐らくどちらもである」


 なぜ俺を? と訊きたかったが、答えはすぐに言ってくれた。


「ケイセ、リュウ…貴方たちは危険視されているのである。『おやじさん』に選ばれた者としてな…」


 何だって!?


「『おやじさん』はそれ程危険な人物なのだ。選ばれたということは、時には名誉になっても、時には…」


「こうなることもある…か…」


 俺は、外を眺めた。

 戦が続いていた。


「恐らく、この戦いで勝てたとしても、兵士たちの疲労は激しいと思うよ。多分エオウストミアの三体だけでも苦戦……いや、敗北すると思うよ」


 メテンが忠告してくる。

 確かにな。というかまず、兵士をそこまで酷に働かせると君主として疑われる。


「なら……。交渉するしかないのか?」


 そう苦しんでいると、背後に六媒師が現れた。

 そしてアザリガは出てくるなり、叫んだ。


「手に入れたぞ!」


 俺は先程の絶望と続いて、希望が見えた。

 いや、その場にいた人物全員が見えただろう。

 そして俺はページを開き、レトウスから渡された本を例の異界召喚法典に乗せる。


「メレルター、召喚!」


 そう言うと……左目が傷つかせた、赤い服を着た武将が召喚された。

 俺は、笑った。

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