3.参:洞窟内の争い

 トンテナ、十歳。チレ国王。彼は酒を飲まない。まあ…当たり前なのだが。

 彼はチェスのキングを見ながら、今日も葡萄ジュースを飲んで微笑む。

 そんな日常を過ごしていると、折り紙で折られた鶴が飛んできた。


「どうだった? オルタ」


 そうトンテナが言うと、鶴は白髪の青年へと変化した。

 年や背は大体俺と同じくらい。そして貴族のような服装だった。

 彼はトンテナに報告をする。


「確かに。貴方が睨んだ通り、六媒師は裏切りました」


 トンテナは今度月を眺めた。

 やはりな…と。


「この眼の力を知ってるくせに…莫迦な奴らだ」


「しかし、相手には六媒師をも上回る強者がいるようで…」


「何だと?」


 トンテナはその言葉にしては大して驚きもせず、唯々月を眺めながら微笑んだ。


「成る程ね。ツガヤの森に行ったのか」


「はい」


 トンテナはワイングラスの中の葡萄ジュースを飲み干した。

 全てを分かりきった表情だった。


「ところで例のプロジェクトはどうなっている?」


「大丈夫ですよ。ピラミッドの力は強まっています。そろそろ奴が現れるかと」


 オルタという白髪の人物はそう言った。

 トンテナはそれを聞くや笑みを強めた。


「よし、見させて貰おう。世界の終わりを告げる者を…」


 トンテナは笑った。天才小学生国王、トンテナ。

 彼の魔の手は、遂にツガヤの森へ到着する。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 六媒師を従えた俺は、六媒師と遊んでいた。


「皆集合!」


 そう言うと一番最初にレイスが来る。


「ねえねえ。慶世君!僕3レベになったよ」


 俺の肩に乗った姿はまさに可愛い以外の何でも表せない。


「ほう。そうか。やったな!」


「うん!」


 やはり紙可愛いから格上げだ。

 うん、可愛いから許す。

 そう話しながら思っているとレトウスが現れた。


「慶世。平和な日々というのは最高だな!」

「ああ! そうだろ?」


 おとなしめのアリナはいつも一番最後になる。

 そして皆が集まったので、俺は皆に「どっか行こう!」と呼びかけようとしたが、アリナがそれを遮った。


「慶世殿。それが…」


「ん? どうした、アリナ」


「K洞窟内で魔物が暴れ出した模様。魔物たちが困っています。助けに行きましょう」


 俺は即断即決が得意である。だからすぐに決断する。

 まあ…褒められたものでもないのだが…


「よし、そうしようぜ! 皆」


 全員、俺も含めて遊び半分で洞窟に向かった。

 天気は晴れ、湿度は二十パーセントだった。

 …って、何か違う気がする。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 洞窟内では巨大な魔物が小さな魔物を従えていたのだが。


「どけえええええええ」


 それしか喋れないようだ。

 俺は思わず吹き出す。

 本当に「どけえええええええ」しか喋らないのである。

 まるで連続して同じ音を再生しているように。


「久しぶりに腕が震えるな。皆」


「どけえええええええ」


 そうレトウスが言った。

 「どけえええええええ」という台詞の所為でレトウスの声がかき消される。

 それにしては六媒師たちは全く笑わないのだった。


「はい、そうですね。リーダー」


「どけえええええええ」


 アリナが嬉しそうに言う。

 いや~そんな爽やかな笑顔をする状況じゃ無いと思うんだが…。

 まあ…「どけえええええええ」は面白いが。


 しかしレトウスたちは予想以上に強かった。


「最近新たに技を覚えたんだ。その試し打ちが出来そうだ!」


「どけえええええええ」


 と、レトウスが言った瞬間にその巨大な魔物が消し飛んでいたのだ。

 アカリだ。


「せっかくのお遊びタイムを壊すなんて…私は許さない」


「どけえええええええ」


 最後の「どけえええええええ」は、悲鳴みたいなものなのだろう。

 本当に「どけえええええええ」以外喋らないのだな。

 俺は苦笑する。

 一方アカリは、第二十七形態を習得した。


「おい! 俺の新技はどうするんだ!?」


 レトウスが必死に講義するがアカリは知らぬ顔。

 俺は慌ててこう言う。


「ま、まあ仲良く行こうぜ」


 そう言ってる間にレイスやキョウケが雑魚を倒していった。

 もうアカリ以外の六媒師は必要ない。

 俺はこれで解決することを祈るが、レトウスはそれで収まる男では無かった。


「どっか敵を探してくるから待ってろ!」


 いや…待ちたくないんだが…


「私も!」


 アリナはレトウスにくっつきすぎだと思うが、そこは突っ込まないでおくとしよう。

 俺はこの時、チレという国家について考えていた。

 チレ…アゲインを札に封印したそこの国王は果たしてどういう奴なのか。

 取り敢えず、力を蓄えられたら行くとしよう。

 そう思っていた俺は、チレの方から襲ってくるなんて思いもしなかったのであった。

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