2.肆:慶世の新たな日常

 俺、北形慶世はその頃何も知らずにリュウという青年、「おやじさん」という謎の人物と暮らしていた。勿論普通に暮らしていたわけでは無い。俺の手元には何故か、死界召喚法典という本があり、それについての勉強をしながら一日一日を暮らしていた。「おやじさん」から貰い、リュウに使い方を教えて貰ったこの謎の本。俺はすぐに手放したくなった。が、どうやら手放せばこの二人が俺を殺すらしい。

 一応言うが、俺はまだ死にたくない。記憶こそ無いが、元の世界ではそれなりに将来に希望は持っていた方だからだ。

 さて、リュウの説明についてだが、一つ不満がある。


「要するに、召喚はページ数を言うだけで行える」


 この言葉だけ言えば良いのにリュウは「申請方法」やら「どのような者が召喚できるか」やら「召喚儀式の短縮の原理」やら言ってきたのだが…意味があるのか!? 全く頭に入らぬまま、この言葉を聞き逃しそうになったぞ。


「え…と」


 リュウが分かったか? というような顔をしているので、俺は俺なりに要約してみることにした。


「この本は伝説となっている生命体を召喚できる本で…条件を満たした生命体をページ数を言えば召喚出来るってことでいいのかな?」


 どうだ?

 俺はドヤ顔をしてみた。

 すると…。


「ちゃんと聞いていたか?」


 え?

 すぐにあの自信は俺のドヤ顔から消えていた。


「原理とか理解できたのか?」


 ギクッ

 それもかよ!? 俺は慌てる。

 憶えられるわけがない。


「もう一回言う必要があるようだな」


 リュウは俺を完全に無視。

 そして、その長ったらしい話はまた始まった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 さてその話の後、ここからが楽しい時間の始まりだ。多分。


「まずは薬草を集めてくれ」


 そう言われて自然たっぷりのツガヤの森を見てみる。


「おお!」


 ちゃんと見れば見たことがあるようなものが…一つも無いでは無いか!

 俺は思わず声を出してしまう。

 異世界なので当たり前であるが、それでもまあ感激なのだ。

 さあ、そこで一つ気付いたことがある。薬草はあまりにも薬草っぽい草のことを薬草と言うことだ。まあそのような学習をしてもどうでもいいと俺は思うんだが。

 さあ、沢山薬草を集めた。どうなる?

 そう思うとリュウはこう言った。


「これで一ページ目が召喚出来るな」


 え?

 おかしいと思った。伝説の生物はこんな簡単に呼び出させられるのか?

 確か一ページは…スライム。

 名前「レイス」種族「スライム」職業「一般生物」

 条件「薬草を五十個与える」

 ざっと要約するとこうだろう。


 ええええええええええええええええええええ!?

 まさにそうだった。

 しかも書に書かれた絵はただのスライムっぽかった。

 一応説明するが、あくまでこれは要約した内容である。本当は二ページにわたってズラズラと書かれているのだ。

 スキルやら、種類やら、歴史やら…

 まあ伝説の本の中にスライムがいることに驚いたんだが…。


 コホンッ


 では薬草を手前に置こう。


「レイス、召喚!」


 そう俺が叫んだ瞬間、薬草は十二個に減りスライムが出現し、書に書かれたレイスの二ページはカラフルになった。しかもスライムの絵の横に書かれた条件欄が、召喚済みの字のみとなっていた。

 にしてはこのスライム…本当に伝説の生物なのか?

 どう考えても普通のスライムである。

 そして今のところ喋っても来ない。

 そう思っていると、リュウがカラフルな薬草を俺に渡した。


「これをスライムにあげて」


 言われるがままに渡すと、スライムがその薬草が食べた。

 すると…


「やあ、僕の名前はレイス。可愛いただのスライムだよ」


 喋った。

 喋った…。

 喋った!


「うわあ」


 俺は驚いた。

 スライムが…喋る!

 伝説のスライムだと納得がいった!!


「君が主?初めまして」


「あ…ああ」


 俺は黙ってしまった。

 何か…恐ろしく見えてきたのだ。

 「喋るスライムなんて初めて見たから」が理由である。

 当たり前だ。こんなの日常に居たら…どうだろう?

 というか抑も居るわけ無いのだが…。

 というか今更だがなぜ元の世界を覚えているんだ?


「どうしたの?」


 スライムは心配顔をしている。まあ尤も顔が無いのだが。

 にしては…声が可愛いじゃないか。と元気を出すと今度スライムがこう言った。


「君の名前は?」


 …おう! 君から訊いてくれるとは!

 何となく光栄に思えたし、俺は自信満々にこう答えた。


「俺の名前は北形慶世だ! 今回俺は死界召喚法典って奴を手に入れた選ばれし男!! その上異世界人ときたもんだ。なんできたかは憶えちゃいないが俺は最後まであきら…」


 そう言いかけた時。


「ふうん」


 レイスがそう言った。

 うわ! 反応薄い! その上人が話している最中に話すな! 可愛くねえな。

 俺からのこいつの評価は一気に神可愛いから紙可愛いになった。


「このレイスは進化型の生命体。現在2レベになった」


 リュウが言った。

 そういえば進化型とかそんなこと説明で言ってたな。


「じゃあ、次行くか」


 っていうかまだ今の状態で召喚出来るのかーい!

 俺はそう思いながらリュウについて行った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 さあ、どんどんページは埋まっていった。

 会話をしただけで七十六ページ、A人間のロントルは手に入ったし。

 走っただけで二十八ページ、アブラウルフのレトウが手に入ったし。

 暗いところに目を慣らしただけで十四ページ、コウモリのキョウケが手に入ったし。

 まあその四体を手に入れたところで俺は一日を終えたんだが…。

 とにかく沢山埋まって楽しい一日だった!!

 …のか?

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