第20話 球技大会 其の10
そんなこんなで、球技大会当日となりました。毎野高校では、取り立てて特徴のない、二人の男女の生徒達が、噂話に花を咲かせています。
「球技大会だね。なんと言っても、テニスの男女混合ダブルスが、一番の楽しみだよなあ」
「当然よ、貴公子貴婦人カップルの高長・草深ペアと、美少年美少女カップルの古賀本・千紗川ペアの対戦なのよ。なんとしても見逃せないわ」
「この四人が出るとなったら、他の男女なんて、恥ずかしくて出場できたものじゃないよ」
「だけど知ってる? どうも、明君と祥子さんが、『秀と澄さんとは、お互いベストな状態でやり合いたい』『それまでの対戦相手の力量の差で、コンディションに違いが出るのは嫌』とか周りに言っていたみたいなのよ」
「そこが、明君と祥子さんの気配りなんだよなあ。本当は、周りが勝手に遠慮しただけなのに、それだと、出場辞退した男女ペアが、サボりと取られかねないから、明君と祥子さんは、わざとそう言う風に言いふらして、自分達が、そう仕向けたように見せているんだぜ」
「ただ、その見た目で、私達みたいな凡人を、楽しませてくれるだけじゃあなく、あえて汚名を
「何言ってるんだよ。そりゃあ、古賀本・千紗川カップルの、我々大衆への配慮も素敵だけど、それを言うなら、高長・草深カップルだってそうさ。あの二人、クラスで球技大会の種目決めの時、すぐには、男女混合テニスに立候補しなかったんだぜ」
「それなら私も聞いた。最初は、秀君も澄さんも、何か
「それが、あの二人が貴公子貴婦人たる
「けど、私だって、高長・草深カップルのダブルス、見たいわ」
「僕だってさ。おそらく、秀君と澄さんのクラスのみんなもそう思っていたんじゃあないかな。そして、あの二人は、その自覚のなかった期待に、しっかり応えてくれて、結果、高長・草深カップルと、古賀本・千紗川カップルのドリームマッチが実現したんだ。僕たちのような、サイレントマジョリティーである、声無き多数派の願望にもしっかり応えてくれるから、秀君と澄さんは最高なんだ。君が、古賀本・千紗川派になると言うのなら、それは勝手だけど、それなら、僕は今をもって、高長・草深派になるからね」
と言ったような会話が行われていました。秀と澄との、無謀な男女混合ダブルスへの立候補も、明と祥子の、自分たち四人以外を出場させまいとした水面下での暗躍も、それぞれカップルへの熱烈な信奉者を増やす結果となったようです。
そして、四人の男女混合テニスの試合が始まります。男女混合テニスは、四人以外の出場者がいないので、これが初戦なのですが、球技大会の最後の種目であり、メインイベントとなっています。観客として、四人を除く他の全校生徒が集まっており、大変な盛り上がりです。球技大会の運営側も、四人の人気にあやかる気が満々みたいです。
「きっと、明君と祥子さんが勝つわ」
「なんの、秀君と澄さんの勝ちだよ」
取り立てて特徴のない、二人の男女も応援に熱が入っています。
そんな中、テニスコートに、秀と澄ペア、そして、明と祥子ペアが到着します。
「明君、祥子さん、テニスは身長じゃあないわ。リーチでは不利かもしれないけど、そんなの、ひっくり返してちょうだい。それにしても、明君に祥子さん、ラケットを持つお姿、素敵よ。自分より大きい相手に立ち向かうなんて、まるで牛若丸みたい。二人は、学校指定の体操服を着ているけれども、私の目には、明君は格好いいテニスウエアを、祥子さんは可愛らしいタンクトップにスコートを、それぞれが着ているように見えるわ」
「なんだって、明君と祥子さんが牛若丸なら、秀君と澄さんは、弁慶ってことになるじゃないか。冗談はよしてくれ。弁慶なんてゴツくてむさい男の代名詞のような言葉は、澄さんはもちろんのこと、秀君にだってふさわしくないよ。それにしても、秀君と澄さんのラケットを構えているお姿は絵になるなあ。あれだけの二人なんだから、学校指定の体操服を着させるなんて
取り立てて特徴のない、二人の男女をはじめ、観客である生徒たち全員が歓声をあげています。
そして、秀と澄、そして明と祥子が、お互いのコートに入り、それぞれ握手を交わして、勝負の前の
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