第14話 球技大会 其の4

さて、そんなこんなで、特訓が始まります。四人が、校外にある、あまり毎野高校の生徒がきそうにないテニスコートに集まりました。しかし、四人は、特に秀と澄の二人は、念入りに変装をしています。よっぽど、誰かに、自分が無様にテニスをするところを見られるのが、恥ずかしいのでしょう。ですが、その姿はと言うと、いかにもテニス上級者がつけていそうな、レンズ部分が虹色に輝くスポーツサングラスに、額につけたヘッドバンドで顔を隠しています。たしかにこれなら、顔の判別はされないでしょうが、ただでさえスタイルが良くて、モデルみたいと評される秀と澄の二人です。そんな二人が、気合のおおいに入った格好をしているのですから、人目をひくことこの上ありません。その格好で、初心者丸出しの練習をするのですから、これはもう、何をいわんやです。明と祥子も、ほとほとあきれ果てて、秀と澄に言葉を投げかけます。


「秀、なんだかずいぶん張り切っているねえ。まあ、気合を入れてくれているのは、いいことだと思うけれども」

「澄、とにかくとってもやる気十分みたいね。やっぱり、まずは気を引き締めてかからないといけないからね」


ちなみに、明と祥子の格好はと言えば、二人とも、一応の変装として、伊達眼鏡をかけて、明は野球帽を、祥子はサンバイザーを、二人とも目深にかぶって、人目を忍んでいます。本来ならば、これくらいの変装で十分なはずです。そのくらいのこころづもりでいた明と祥子でしたが、秀と澄が、妙に頑張りすぎた変装をしてきたので、困ったことになってしまいました。しかし、当の秀と澄は、そんなことにまるで気づいてはいません。


「そうかい、明。いやあ、僕もね、ちょっとやりすぎかとも思ったんだけどね、やっぱりまずは服装だけでもビシッと決めようと思ってね。何事も、とりあえずは形からだよね」

「そうかな、祥子。そのね、わたしもね、これは少々いかがなものかとも考えたんだけどね、とりあえず、格好から入るのもありかなって考えちゃって。形式は大事よね、形式は」


そんな四人の服装はと言うと、明と祥子は、あたりさわりのないティーシャツにハーフパンツといった出で立ちなのですが、秀はと言うと、どこぞの一斉を風靡ふうびした少年テニス漫画のコスプレと捉えられかねない、ばっちりしたユニフォーム姿で、澄の方は、これまた、往年の名作少女テニス漫画にそのまま出てきそうな、スコートにタンクトップ姿です。どうして、秀と澄の二人は、そんなものを都合よく持っていたのでしょうか。そんなごく自然な疑問を、明と祥子が口にします。


「それにしても、秀。そのユニフォーム、格好いいねえ。よく似合っているよ。そんなの持ってたなんて、俺、ちっとも知らなかったよ」

「惚れ直しちゃったなあ、澄。その、タンクトップにスコート姿、素敵だわあ。ぴったりじゃない。澄にそんな趣味があったなんて、あたし、全然気がつかなかったわ」


明と祥子に、自分の格好を褒めれれて、秀と澄は大変上機嫌です。


「いやあ、そうかい、明。どうもありがとう。ほら、例の場所で話したじゃん。澄と二人でテニスをしたこと。実は、その時に、澄と二人で買っちゃったんだ。理想の恋人なら、テニスくらいやってみるものだし、だったら、それなりの服装もあつらえなくちゃあってね。おっと、明、勘違いしないでくれよ。別に、僕は澄とのテニスに向けてのファッションコーディネートを、楽しんでいたんじゃあないからね。理想の恋人を演じるため仕方なくさ。だけど、あの時にユニフォームを一揃ひとそろえしたことが、今になって聞いてくるなんて思いもしなかったよ。あれだけひどいていたらくだったんだ。今後一生テニスに関わることはないと、心に決めていたのに、世の中、何が起こるか予想できないなあ」

「えっ、そうかな、祥子。照れちゃうなあ。祥子も聞いたでしょ、例の場所で。秀と二人でテニスをしたこと。白状しちゃうとね、あの時、秀と二人でそろえちゃったの。わたしと秀は、恋人としての理想を演じているわけだから、テニスは当然しないといけないし、服装だって、ちゃんとしなきゃあいけないでしょ。ああ、祥子、別に嫉妬しなくていいわ。わたしは、秀なんかとの服の選びっこだの、『わー、似合う似合う』というおべんちゃらの言い合いっこだのなんて、これっぽっちもエンジョイしてないんだから。あくまで、演技よ、演技。それにしても、あの時揃えたこのタンクトップにスカートが、こんな形で役に立つとはねえ。あんなに無様な醜態しゅうたいをさらしちゃってテニスなんて金輪際するものかと思ったけれど、人生わからないものねえ」


秀と澄が、二人ともうきうきで、テニスのための服装選びをしているところを、想像したかどうかはわかりませんが、明と祥子は、げんなりした様子で特訓を始めようとします。


「ええと、それじゃあ、秀。俺たちの特訓を始めよか。あっちのコートに行こう」

「うーんと、だったら、澄。あたし達の特訓を始めるとしましょう。こっちのコートに行きましょう」

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