第13話 球技大会 其の3

四人で、球技大会の男女混合テニスを、演出してショーアップすることになったはなったのですが、秀と澄は、不安で不安でたまらないようです。


「でもね、明。球技大会って、クラス対抗戦だよね、相手が、明と祥子さんならともかくとして、それ以外だったら、どうすればいいんだい」

「そうよ、祥子。わたし、祥子がいなかったら、どうしたらいいのかまるでわからないわ。秀なんて、ちっとも頼りにならないんだもの」


秀と澄が、生まれたばかりの子鹿のような様子でいると、明と祥子が、問題ないといった調子で、秀と澄をさとします。


「ああ、それなら大丈夫だよ、秀。俺が、『秀と澄さんのペアとは万全の状態で戦いたい。できれば、それまでに余計な体力は使っておきたくない』と、思っているって、それとなく広めておくさ。そうしたら、きっと周りが遠慮してくれて、出場を辞退してくれるよ。祥子、そっちもそれでいいかい?」

「うん、それでいいんじゃあないかな。あたしも、『澄と秀君とはダブルスで、お互い対等な条件でやり合いたい。それ以前の対戦相手の強い弱いで、コンディションに差が出るのは、なんか澄と秀君に申し訳ない』、なんてことを、周囲に言っておくわ。上手いこと、あたし達四人の試合が、決勝戦になるよう、根回ししておくわ。澄、これでいいかな」


明と祥子が、その腹黒さで腹芸を披露すると言っていますが、秀と澄は、そのことで明と祥子を見損なったりはしないようです。それどころか……


「僕、明が恋人でいてくれて、最高に幸せだよ」

「わたし、祥子がわたしの恋人で、本当に良かった」


となって、秀は明に、澄は祥子に抱きついて行きました。


「おいおい、辞めなよ、秀。女性陣がいる場所で、こんなことをするものじゃあないよ」

「構うものか、明。どうせなら、見せつけてやろうよ」


「あらあら、だめだってば、澄。殿方がいらっしゃるのよ。少し、ふしだらじゃあなくて」

「いいじゃない、祥子。ちょっとくらいふしだらだって、女の子同士なんだから」


そんな感じで、男同士は男同士、女同士は女同士で、きゃっきゃうふふとしていました。が、しばらくすると、明は秀を、祥子は澄をひっぺがして、明と祥子は、突然真面目な顔になって、二人で向き合います。


「だけど、解決すべきことがあるね、祥子」

「その通りだよ、明。乗り越えなくてはならない課題があるわ」


いいところで、相手にお預けを食らった秀と澄は、名残惜しそうな様子で、秀は明に、澄は祥子に問いかけます。


「何を解決しなければならないんだい、明」

「何を乗り越えなくてなならないの、祥子」


秀と澄の、まるで自体を把握していない質問に、明と祥子が、言うのです。


「四人で、勝負を演出するにしても、最低限の技術は必要になるんだよ、秀」

「澄、あなた言ったわよね。『サーブもろくすっぽ入らない』って。それで、どうやって、観客を楽しませると言うの」


明と祥子が、厳しい現実を見せつけると、秀と澄は、顔を真っ青にします。明と祥子は、話を続けて行きます。


「さすがに、ラリーもまともにできないと言うのはまずいよ、秀。一応は、テニスの試合として成立させなきゃあ」

「まずは、サーブが入らないと、試合が始まらないわ。澄が失敗し続けてゲームセットなんて、どっちらけもいいところだもの」


秀と澄は、ますますお先真っ暗な具合ですが、明と祥子は、そんなことは気にしません。


「しょうがない、祥子。今回は、祥子も下手くそなテニスプレーヤーを演じてくれ。テニスが不得意な彼女を、必死でサポートする彼氏。これで行こう」

「まあ、いいでしょ。と言うわけで、澄、話が決まったわ。あたしは、『明君、ごめんなさい。あたし、スポーツ苦手なの』、的なキャラをやるから、澄。サーブくらいは入れられるようになりなさい」


祥子の命令に、澄はただうなずくばかりです。そして、祥子は、秀にも命じます。


「そして、秀君。あたしと澄がここまでするのよ。そちらも、それなりのことはできるようにはなりなさい」


その祥子の秀への命令に、明が答えます。


「それだったら、秀は、僕が徹底的に仕込むとするよ。いいかい、秀。俺が、秀の、秀だけのために、秀にも打ち返せるような、ボールを打っていってあげるからね。秀を、訳もわからずに、右へ左へと走り回らせたりはしない。だから、秀は、僕を信じてついてくればいいんだ。わかったね、秀」


明の言葉に、秀も黙って頷きます。そして、明と祥子が宣言するのです。


「さあ、秀。まずは、二人きりで特訓だよ。俺が、秀をたくさんしごいてあげるからね」

「では、澄。はじめに、二人だけの特訓よ。あたしが、澄をたっぷり可愛がってあげるわ」

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