第11話 球技大会 其の1

あいも変わらず、例の場所に四人が集まっています。ですが、今回は、いつものような狂乱騒ぎではなく、いたって真面目な話が行われています。


「球技大会だな、明」

「球技大会だね、秀」


秀と明が顔を見合わせています。


「球技大会ね、祥子」

「球技大会よ、澄」


澄と祥子も、顔を見合わせています。


「種目には、男子サッカーなんてあるよ、明」

「種目には、男子野球もあるよ、秀」


秀と明は顔を見合わせたままです。


「女子バレーボールなんてあるみたいよ、祥子」

「女子バスケットボールというのもあるね、澄」


澄と祥子も、顔を見合わせたままです。


「ところで、明。君は何の種目にエントリーしたんだい」

「いやいや、秀。お前こそ何の種目にエントリーしたんだよ」


秀と明は、相変わらず顔を見合わせています。


「それで、祥子。あなたのエントリーした種目を教えてくれない」

「何をいうのよ、澄。そっちのエントリーした種目こそ、教えなさいよ」


澄と祥子もまた、相変わらず顔を見合わせています。


そんなことがしばらく続いた後、秀が大声をあげます。


「もういい加減に、こんな茶番はおしまいにしようじゃないか。どうせ、僕たち四人がやる種目なんて、最初から決まっているんだ。そうだろう。なあ、明。君のエントリー種目を言ってくれよ」

「男女混合テニスだよ、秀」

「澄。君は何だい」

「男女混合テニスだけど、秀」

「祥子さん。そちらは何をやるんだい」

「男女混合テニスよ、秀君。ちなみに、秀君は何になるのかな」

「男女混合テニスだってば。言うまでもないだろう。種目決めの時、クラスのみんなが、僕に期待の眼差まなざしを向けてくるんだ。『秀君と澄さんの、二人でダブルスする姿、そりゃあ華麗だろうなあ』って。あんな目をされている中で、その期待を裏切って、野球やサッカーをやるだなんて、とてもじゃないけど言えやしないよ」


球技大会の種目は、四人とも男女混合テニスのようです。秀が男女混合テニスを選んだ理由は、先程秀が言いましたが、他の三人はどうなのでしょうか。


「ふうん、秀はそんなこと考えていたのかあ。俺と祥子は、どうせこんなことになるだろうと思って、あらかじめ打ち合わせをしておいたぜ。それで、クラスで種目を決めるとなったら、いの一番に、祥子と声をそろえて言ったんだ。『俺たち二人は、男女混合テニスをさせていただきます』ってね。それで決まりさ。いやあ、あの時のクラスの、待っていましたと言う空気と言ったら。秀にも見せてあげたかったよ。なあ、祥子」

「だって、都合よく、あたしと明が同じクラスで、澄と秀君も、あたし達とは別の、同じクラスなんだもん。こうなることなんて、分かり切ってるじゃあない。それで、澄はどうなの」

「そりゃあ、秀が、苦虫をみ潰したような顔をしていたとは言え、男女混合テニスに立候補したんですもの。その秀の恋人であるこのあたしが、男女混合テニスをしないわけにはいかないじゃあない。どうせ、他の女子が立候補なんてするはずもないし。それにしても、秀ったら、自分一人で先走って、『この高長秀に、ぜひ男女混合テニスをさせていただきたい』、だなんて言ってくれちゃって。全く、自分の彼女を何だと思っているのかしら」


澄に冷ややかな目を向けられた秀は、大声で言い訳をまくしたてます。


「だって、あの状況で、ただ黙っているなんて、そんなの、考えただけで、いたたまれなくなっちゃうよ。だから、それ以上そんな目で僕を見ないでくれ、澄」

「ま、いったん決まったものを、後からごちゃごちゃ言ってもしょうがないけどね。それにしても、男女混合テニス、何という禍々まがまがしい言葉なんでしょう。厳然とした性の差がある男と女を、ふたり一緒にスポーツさせるだなんて。女性は女性同士で競い合うべきなのに。なんで、女と男が、一緒くたにならなきゃあならないのよ。それにひきかえ、女子テニスダブルス、ああ、実にすばらしい響き。そうよね、祥子」

「そうね、澄。二人の女の子が、共に勝利を目指して努力する。美しい光景よね」

「さっすが祥子。わかってくれてるじゃない。学校中の注目を浴びる、蝶々のように華麗な婦人と、先輩である彼女にあこがれて、テニス部に入部した、取り立てて取り柄のない普通の女子生徒。ところが、その普通の女子生徒の才能が開花して、最初は憧れていた先輩をおびやかす存在になる。最高じゃない」

「澄。そのお話には、一人の、有能な男性コーチがいたような気がするけれども。それに、確かその二人は、ダブルスのペアを組んではいなかったような……」

「細かいことはどうだっていいのよ、祥子。私が言いたいのは、男女混合テニスがありえないという話なんだから」

「男女混合テニスが許せないことには同意するけどさあ、男子テニスダブルスだって、いいものだぜ、祥子さん」


澄の主張に、明が口を挟みます。

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