第5話 明と祥子

秀と澄を二人にして、明と祥子は公園で話し込んでいます。


「まあ、一応お礼を言うよ、祥子。ありがとう」

「なにがありがとうなの、明」

「なにがって、それは、あそこで、秀と澄を二人にするよう仕向けたことだよ」

「あら、仕向けたなんて、そんな人聞きの悪いことを言わないでほしいなあ、明君ってば」

「なに言ってんだよ、もし、あの時祥子が俺を公園に連れて行こうとしなかったら、俺は秀に駆けつけていたよ。全身を殴られた男友達を助けに行く、と言うだけだったら、それは男としては、ごく普通の事かもしれないけど。でも、俺と秀は、普通の友達じゃあないから、あんな秀を目の前にしたら、俺、とても普通じゃあいられないよ。そんなことになったら、秀と澄と、そして、祥子、あんたとの四人での取り決めが台無しだ。だから、その、祥子、どうもありがとう」

「どういたしまして、明君」

「それより、祥子。よくあの状況で、あんな冷静な判断ができたよな。秀ほどじゃあないにしろ、澄さんだって、無傷ってわけじゃあなかったろ。俺なんて、ずたぼろの秀を見ただけで、とても冷静じゃあいられなかったのに」

「ま、明。そちらのボーイフレンドの秀君のあんな姿を見せられちゃあね。私の大切な人である、草深澄をあそこまでして守ってくれたんだもの。少しは格好つけさせたって、ばちは当たらないわよ。そもそも、格好をつけるために、あたしたち四人はこんなことをしてるんじゃあない。違う? 明」

「それはそうだけど……」

「そんなことより、明。その顔の傷は大丈夫なの。少しくらいの怪我なら、やんちゃな少年っていうキャラクターづけで、可愛さアピールにならないこともないけど、それも程度の問題よ」

「ああ、このくらい大丈夫だよ、祥子。たいした傷じゃあない」

「だーめ。いいですか、明君。そちらは、仲良しの友人カップルを、颯爽さっそうと救出する、正義のヒーローをやっちゃってくれたのよ。もちろんそれ自体はなんの問題もないけれど。あたしと明君は、二人で理想的なカップルを演じるっていう契約をしているわけじゃない。だったら、あたしにも、何か素敵な彼女らしいことをさせてくれたって、いいんじゃないかな」

「何か素敵な彼女らしいことって、一体なにをする気なんだよ、祥子」

「そうね、その傷に絆創膏ばんそうこうを貼ってあげるなんて、それらしいんじゃあない。それも、普通のやつじゃあなくて、千紗川祥子がいかにも持っていそうな、とびきりファンシーで少女漫画的なやつ。おや、ちょうどここに、可愛らしい花柄の絆創膏が」

「げ、やだよ。俺、そんなのつけたくないよ。っていうか、よくそんなもの持ってたな」

「このくらいの小道具、千紗川祥子を演じるなら、持っていて当然よ。明君、そちらも、古賀本明を演じるなら、準備をしておいてしすぎるということはないはずよ。ああ、さすがに、こんな花柄の絆創膏を常備するのはやめてね。そんな男の子を彼氏にしたくわないわ」

「誰がそんなことするかよ。それにしても、その絆創膏、本当につけなきゃあだめなのか」

「だめです。それに考えても見なさい。千紗川祥子と古賀本明が、恋人同士であることは周知の事実なんだから。その古賀本明が、こんな絆創膏つけてたって、『きっと、彼女さんの祥子さんがつけてくれたのね』としか思われないわよ。むしろ、私たち二人の仲の良さの証明にしかならないわよ。ほら、千紗川祥子と古賀本明は理想の恋人なんでしょ。だったら、男がもたもたしてないで、さっさとつけちゃいなさい」

「へいへい、わかりましたよ。まるで野生動物のマーキングだな。『これ、あたしの縄張りだから。手を出すな』、みたいな」

「いいじゃない、それで。明君にとっても、下手に他の女の子にまとわりつかれるより、ずっといいでしょ。愛しの秀君に嫉妬されなくて」

「馬鹿なこと言うなよ、祥子。今更、秀はそんな嫉妬なんかしないよ。そんな嫉妬をするような秀だったら、俺たち四人の関係は、こうなってやしないさ」

「はいはい。じゃ、あんまり傷口いじっちゃあだめだよ」

「なんだよ、母ちゃんみたいなこと言いやがって」

「誰が母ちゃんなの、誰が。とにかく、帰ろうか。澄と秀君も、あっちはあっちでうまくやってるでしょうから」

「そうだな、そうするか」


こうして、明と祥子は、二人で帰るのでした。

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