第3話 秀と澄 其の1

 例の場所で、二人と二人でののろけあいがひとしきり済んだ後、四人は下校することになります。しばらくは四人一緒でしたが、明が二組に分けれることを提案します。


「それじゃあ、俺と祥子は別行動をするよ。あんまり四人でいるのも不自然だしさ。祥子もそれでいいかい」

「ま、仕方がないわね。そういう取り決めだから」

「そういう事だから、秀、また明日。俺、秀と一緒にいたくないってことじゃあないからね」

「じゃあ、澄、明日会おうね。わたし、澄といるのが嫌だってことは、けしてないからね」


 そう言って、明と祥子は、秀と澄と別れます。残された秀と澄は、二人とも非常に名残なごり惜しい様子です。


「ああ、明。また今日も、君と別れなければならなくなってしまった。何が悲しくて、僕はこんな女と二人でいなければならないんだ。一体全体、前世でどんな罪を犯したというんだろう」

「わたしのかわいい祥子。あなたと離れ離れになるこの苦しみを、私はあと何回味わわなければならないの。どんな因果で、わたしはこのような男を、恋人としてふるまわなければならないんでしょう。私の前世は、まったくどんなことをしでかしたというの」


 秀と澄がお互いにそんなことを言い合っていると、二人に、いかにもな町のチンピラが絡んできます。


「ようよう、そこのお二人さん。ずいぶん仲がおよろしいじゃあねえか。ちょっとお姉ちゃん。少し付き合ってくれよ」


 町のチンピラがそう言って、澄の手を乱暴につかもうとすると、秀が止めに入ります。


「君、そんなはしたない行為はやめたまえ」


秀のその言葉を聞いて、町のチンピラが秀に突っかかります。


「なんだてめえ、ハリウッドスター気取りかよ。やろうってのか、おもしれえ」


 町のチンピラはそう言いますが、秀はきっぱりと否定します。


「そんなことはしない。僕は暴力は嫌いだからね。だが、この女性への乱暴は、僕がなんとしても阻止して見せる」


 秀のその物言いに、町のチンピラが息巻いてきます。


「へえ、暴力が嫌いなら、どうやって止めるって言うんだ、色男」


 町のチンピラの言い草に、秀が敢然と言い放ちます。


「殴るならこの僕を殴れ、そして好きなだけ殴るがいい。そして、満足したら立ち去るがいい」


 秀の言いように、町のチンピラは色めき立ちます。


「言うじゃねえか、二枚目さんよお。後悔するんじゃあねえぜ」


 そう言って、町のチンピラは秀を痛めつけます。


 どかっ! ばきっ!


「なかなか我慢強いじゃあねえか、美少年。いつまで続くかな」


 町のチンピラが秀を殴り続けていると、澄がそれを止めに入ります。


「やめて! もういい加減にしてちょうだい」


 そう言って、秀をかばおうとした澄を、町のチンピラは払いのけます。


「うるせえ、邪魔すんじゃねえ。すっこんでろ、このブス!」


 町のチンピラに、澄が地面に跳ね飛ばされてしまい、再び秀が殴られようとしたその時、ある二人が、助けに現れます。


「てめえ、秀に何してくれてんだ、こら。あんまり調子に乗ってんじゃねえぞ」

「誰がブスですって、それ以上ふざけたこと言ったら、どうなるかわかっているんでしょうね」


 秀と澄を助けに来たのは、明と祥子でした。明と祥子は、自分の恋人を傷つけられて、大変お怒りのようです。それを見た町のチンピラは、ポケットからナイフを取り出して、明に切りかかってきます。


「調子の乗ったらどうだって言うんだ、突然やってきて、特撮ヒーローにでもなったつもりか、このちびが!」


 そう言って、ナイフを構えて襲い掛かってくる町のチンピラに対して、明は祥子を後ろに下がらせると、自分も町のチンピラに向かっていきます。


 ひらり! びしっ! どさっ!


 明は、自分の顔に突き刺されようとしたナイフを避けると、町のチンピラのみぞおちにパンチを入れ、一発で相手を倒してしまいました。そこに、祥子が駆け寄ります。


「明、明ったら。怪我をしちゃってるわ」


 明の頬に、うっすら一筋の血がにじんでいます。町のチンピラのナイフが、かすってしまったようです。


「ああ、こんなのかすり傷だよ、祥子。たいしたことない」


 そんなふうに言う明を、祥子がたしなめます。


「だめだめ、ちゃんと手当てしなきゃあ。ほら、とりあえず、あっちに公園があるから、水で洗わなきゃ」


 そう言って、明を連れて行こうとする祥子です。その目は、何かを明に訴えているようです。その祥子の目を見て、明も何かを察したようです」


「あ、ああ、そうだな。傷はきれいにしないと。それじゃあ、澄さん。秀を頼めるかな。ずいぶんと痛めつけられたようだから」


 明が、澄にそう申し出ると、澄はあわてて同意します。


「え、ええ、そうね。ねえ、秀、大丈夫? ねえ、秀ってば」


 そうやって、秀を解放する澄を残して、明と祥子は、公園に向かっていきます。


 


 


 


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