第2話 二組の理想のカップル 其の2


 そして、例の場所で、二組のカップルが、仲よさそうに、恋人どうしの愛の語らいをしています。


「ああ、明。僕のかわいい明。今、君をこうして抱きしめることができて、本当に僕は幸せだ。あんな、かわいらしさがかけらもないような、いかにも、『わたし、奇麗でしょ。男はみんな、このわたしの美貌びぼうにひれ伏しなさい』、なんてオーラを、体中から発しているような、草深澄みたいな小生意気な女。正直なところ、僕は一秒だって、一緒にはいたくないんだよ。ああ、明。あんな草深澄という女を、恋人としてふるまうこの僕を許しておくれ。この高長秀が愛しているのは、明、君みたいな、かわいい系の男の子なんだから」


「何を言うんだよ、秀。俺だって、秀にこんなふうに抱きしめられていて、すっごくうれしいよ。俺だって、千沙川祥子なんていう、『あたしってば、すっごく愛らしいよね。男の子諸君、あたしのかわいさに、思う存分声援を上げてちょうだい』、みたいな、あたしかわいいでしょアピールをこれでもかとしてくる、かまととぶったぶりっ子女、同じ空気だって吸いたくはないんだ。ねえ、秀。あんな千沙川祥子っていう、男の敵がガールフレンドってことになっている、この俺を、嫌いになんてならないでよ。古賀本明の真の恋人は、秀みたいな、かっこいい貴公子様なんだから」


 秀と明が、男同士で抱きあって、二人でのろけあっています。


 一方残された、澄と祥子はと言うと。


「ねえ、祥子ちゃん。そのかわいらしい顔を、もっとこの澄さんに見せてちょうだい。ほら、もっと近くに顔を寄せて。あんな、いかにも二枚目然とした、あからさまに、『俺様のこの華麗さ、女ども、ほめよ、たたえよ、あがめたてまつれ』、と言った雰囲気を、全身からかもし出しているような、 高長秀と言ういけ好かない男。白状するとね、この澄さん、顔だって見たくはないの。ねえ、祥子ちゃん。あの、高長秀って言う最低男を、彼氏として、皆の前でふるまっている、この澄さんを離しはしないでね。この草深澄が、とってもとっても大好きなのは、祥子、あなたみたいな、天使のようにキュートな女の子なんだからね」


「そんな、澄。あたし、澄をけして離しはしないわ。澄、あたしの顔が見たいの?だったら、早くそう言ってくれないとだめじゃない。ほら、あたしの顔、よく見てちょうだい。あたしもね、澄に見つめられると、どきどきするの。澄ったら、あたしの理想そのものなんだから。あたしもね、古賀本明というようなね、男の癖に、『俺って、無邪気で無邪気で仕方がないでしょ。女の子たち、この俺のいとおしさに、好きなだけ、黄色い声援を上げてくれよ』、とでも表現するべきな、自己ピーアールを、うっとうしいくらいにやっちゃってくる、八方美人な、いくら憎んでも憎み足らない男、同じ人間と思うだけで腹が立ってくるの。いい、澄。あんな、あたしの口ではとても言えないような、下品な言葉でこそ、表現するにふさわしい、古賀本明なんて男を、ボーイフレンドにせざるを得ない、あたしを恋人解消なんかしないでよ。千沙川祥子の恋人は、いままでも、そしてこれからも、澄しかいないんだから」


 澄と祥子もまた、女の子同士で抱き合いながら、いちゃらこちゃらしています。


 そして、秀と明の会話です。


「ねえ明。僕はね、もっと堂々と、明と付き合いたいんだ。普通の高校生の恋人同士が、学校でするようなことをしたいんだよ。例えば、僕と明の二人で、お昼ご飯を一緒に食べたいんだ。二人きりで。お弁当の食べさせあいっこをしたいんだよ。僕は明と」


「まあまあ、落ち着けって、秀。俺は、これはこれで、結構楽しんでるんだぜ。周りには、決して気づかれてはいけない秘密の恋。だからこそ、こうして、こっそり二人での逢瀬おうせが盛り上がるんじゃあないか。秀、俺と秘密の逢引をしてて、どきどきしないの?」


「そりゃあ、こうして普段はできないようなことを、明とできるとなると、何かこう、心の中に熱く何かが燃え上がってくるような気がするけども」


「だったら、もうしばらくは、この関係を続けようじゃあないか、秀。俺達のこの内緒のお付き合いが、学校内に知れ渡っちゃったら、俺と秀が、こうして他の生徒に隠れて抱き合うってこともなくなっちゃうんだよ。そんなのつまらないじゃあないか」


「明がそう言うんだったら、僕も、もうしばらくはこのままでいいよ」


「わかってくれてうれしいよ。やっぱり、俺の秀だ」


 澄と祥子も、澄と祥子で、似たような会話を繰り広げています。


「あのね、祥子。わたし、これ以上我慢できないの。おおっぴらな祥子との恋人になりたい。放課後、祥子を教室に迎えに行って、『祥子、二人で帰りましょう。一緒に行きたいとこらがあるの』、なんて祥子を誘っちゃって、恋人どうしの学校の帰り道を楽しみたいの。私の祥子と」


「そんなわがまま言わないの、澄。誰も見ていないところで、あたしと澄が二人きりになるのがいいんじゃない。人目を避けた、お忍びの恋人二人。こんなに燃え上がるシチュエーション、ほかにそうそうあるものじゃあないでしょ。澄、あたしとの極秘ミッション、任務達成したくはないの?」


「えっ、祥子との二人だけでの隠密作戦! なにその、私の胸を高鳴らせる響きの言葉。すっごく心がときめいちゃう。わたし、もうどきどきがとまらない」


「それだったら、澄、まだまだこんなことをするのも、悪くはないんじゃあない? あたしと澄が、周りには秘密にしている、あたし達二人は恋人同士だっていう事が、他の人にばれてしまったら、普段はできないことを、ここで思いっきりやっちゃう解放感が味わえなくなっちゃうじゃない。あたし、そんなの嫌よ」


「祥子がそこまで言うのなら、わたし、普段は祥子と恋人同士でいられなくても、我慢する」


「ありがとうね、澄。澄があたしの澄で、あたし本当によかった」


 秀と明、そして澄と祥子は、二組ともまるで、自分たち以外の、性別の異なるカップルの存在を気にはしていないようです。


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