偽装の恋人 男カップルと女カップルが互いの恋人を交換しあってカモフラージュしちゃった

@rakugohanakosan

第1話 二組の理想のカップル 其の1

 ここは、毎野まいの高校の学園内。ある男女のカップルの周りで、他の生徒たちが噂しあっています。


「まあ、ご覧なさって。高長たかながしゅう君と、草深そうみすみさんのお二人よ」

「本当だ、すごい。二人とも、お似合いだなあ」

「まったくだわ。高長君は、メンズファッションのモデルみたいに長身で、すらっとしてて、そのくせ、顔なんか驚くほど小さくて。いったい何頭身あるのかしら。その小さいお顔がまた、どこかの国の王子様、と言った具合の凛々りりしさで、高貴さが体中からあふれ出しているのよ」

「そのお相手である、草深さんだって、ちっとも引けを取っていないよ。モデル並みの高長君と比べても、何ら遜色そんしょくがない、スマートな背の高さ。バスケットボール部や、バレーボール部からの勧誘が、嵐のように来ているそうだぜ。そして、あの黒くて美しい、ストレートの長髪が、これまた、あの背の高さに映えるんだ。そして、あの顔立ちと言ったら、貴族のご令嬢なんて言葉じゃあ表現しきれないほどの、気品のありよう。見ただけでこの目がどうにかなっちゃいそうだよ」

「いやいや、まさにこの毎野高校のベストカップルね」

「何を言っているんだい。確かにあの二人は、素晴らしい男性と女性だけども、この毎野高校には、もう一組、素敵な男の子と女の子がいるじゃあないか」


 そして、そう話に上った、もう一組の男女のカップルの周りでも、周囲がささやきあっています。


「あちらにいらっしゃるは、古賀本こがもとめい君と、千沙川ちさかわ祥子しょうこさんだ」

「ほんと、あなたの言う通りね。それにしても、実に仲が良くて、見ていて気持ちの良くなるお二人じゃない」

「千沙川さんって、アイドルみたいで、とってもかわいらしいんだよなあ。小柄で、小動物みたいな愛らしさとでも言ったらいいのか。あの、天真爛漫てんしんらんまんさで、こっちまで、思わず楽しくなってきちゃうんだ。実際、顔つきやらなにやらの、一見したところの外見も、確かにチャーミングなんだけど、話をしたりして、動いているところを見ると、ついつい目が離せなくなっちゃうんだよ」

「それを言うなら、古賀本君だってそうよ。あの、いつまでたっても、少年の心を忘れていないような、無邪気な元気の良さ。背の高さだけを見ちゃったら、小柄な部類に入っちゃうかもしれないけど、逆にそこが、子供みたいで、思わず頭をなでたりしちゃいたくなっちゃうのよ。高校生にもなる男の子に、かわいいなんて失礼かもしれないけど、やっぱりかわいいのよ。ううん、たまらないわ」


 そのように、二組の男女のカップルの周りがざわめいていると、その話のまとである、当の二組の男女が、お互いに近づいていきます。周囲が誰ともなしに静かになり、事の成り行きを見守っています。そして、その二組が、会話を始めます。まず、明が口火を切ります。


「わっ、秀君と、澄さんのお二人じゃん。相変わらず美男美女でお似合いだね。恋愛映画のスクリーンから、主役の男優と女優が飛び出してきたみたいだよ」


 そんな明の誉め言葉を聞いて、秀も同様に、明と祥子の二人を称賛するのです。


「何を言うんだい、明。君たちだって、仲睦なかむつまじくて、皆の注目の的じゃあないか。まるで、テレビでやってる恋愛ドラマで主演する、男の子と女の子を見ているようだ」


 そう言って、秀が明と祥子の仲の良さを、たとえると、祥子が照れ臭そうに答えます。


「やめてよ、秀君ったら。澄さんと、こんなに似合ってる秀君にそんなこと言われたって、秀君と澄さんの仲がうらやましくなっちゃうだけだってば」


 祥子の答えを聞いて、澄が一つの提案をします。


「それじゃあ、祥子さん、明君。これから四人で、例の部屋に行かない? わたしと秀君、そして、祥子さんと明君の二組の恋人が、どれだけ、ぴったりの恋人であるかを、話し合いません? 秀君もそれで構わないかしら?」


 澄の提案に、祥子、明、そして秀の三人が賛成します。


「それいいですね、澄さん。ねえ、明、そうしようよ」


 まず、祥子がそう同意すると、その祥子のパートナーである明も、それに従います。


「祥子がそう言うのなら、俺もそうするよ。秀、お前はどうする」


 明にそう言われて、秀はこう答えます。


「三人がそうすると言うのなら、僕だけしないというわけにはいかないな。ご同行させてもらおう」


 こうして、二組の男女のカップルが、その場を去っていきます。後に残された、他の生徒たちは、口々に噂しあうのです。


「また、あの四人が例の場所に行くんだって」

「そうみたいだね。あんなに理想的な、二組の男女が、四人でどんなことを話すか、一度でいいから聞いてみたいなあ」

「みんながそう思っているわよ。だけど、恐れ多くて、とても近づけやしないわよ」

「生徒どころか、教職員だって、あの四人が一緒にいると、ついつい、距離をとっちゃうもんね」

「誰にも邪魔されない、あの四人だけの秘密の場所かあ。何をしているんだろう」

「知りたいけど、私達みたいな凡人には、とても想像がつかないようなことをやっているんじゃないかしら」


 周りの生徒や教職員さえも、近づかせずに、秀、明、澄、祥子が、”例の場所”と呼ぶ場所で、たびたび何かをしているようなのです。

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