20 私たちの秘密基地

 そうして無為な土日が過ぎて行った。

 親は多分帰ってきてなくて、だから私は一言も言葉を発しなかった。言葉を発しないのも結構永遠っぽい。私はそういう点でお人形さんやぬいぐるみのことを密かに尊敬していたりする。

 学校では、学園祭の準備が進められていた。

 今週末ということで、授業が「総合」の時間となって、授業中でも合法的に出し物やお店の準備をすることが出来た。私は文化祭に関わる気はないから、トイレにこもって本を読んでいた。本当は踊り場に行きたかったけど、一応は「授業中」という扱いなので、堂々と教室を抜け出すのには抵抗があった。私は基本的に小心者の臆病屋なのだ。

 授業時間も変則スタイルで、お昼休みがない代わりに五限目までで学校が終わった。ここからは完全な学園祭準備パートで、例えば街に出て商店街からスポンサーを募ったり、必要な道具の買い出しに行ったりしてもいいらしい。つまり私は帰宅していいことになる。

 学校の人たちはみんなテンションが高かった。わいわいキャーキャーと楽し気にふざけ合いながら長机を運んだりしている。まだ一週間もあるのにこんなものを教室に置いておいて邪魔じゃないのだろうか。

 長机だけじゃない。学校の入り口に飾られるアーチや、謎の丸太なんかまでが廊下を行き来している。

 これから数日間こんなに騒がしい日が続くのかと思うと少しげんなりした。

 次にすれ違った生徒たちに至っては、廊下で大玉転がし競争をしている始末。進路にいた生徒たちが慌てて教室の中に避けている。絶対にあとで先生にめちゃくちゃ怒られてほしい。

 その後、玉入れの籠を担いだ生徒ともすれ違った。こっちは二宮金次郎の銅像みたいに穏やか足取りで、先ほどと比較すると好感度が高い。

 しかしよく考えると体育祭も文化祭も一緒にしちゃうわけだから、効率よく準備をするためには先に各所に散らばっている備品を集めて整理する必要があるのかもしれない、と思った。

――思うと同時に駆けていた。

校門のアーチ。大玉。玉入れの籠。

私はこれらが置かれていた場所を知っている。

走る。二段飛ばしで階段を登る。

これらの備品が放置されていたのは、私たちの秘密基地――踊り場だ。

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