第10話
マンハッタンのゴキブリの世界で妙な噂が立ち始めていた。ニューヨーク市のブルックリン区やブロンクス区で帝国の内情を探ろうとするゴキブリが目立つようになり、かん口令を守ろうとするゴキブリとの間にトラブルが増えているというのだ。
俺は早速ボッカと現場を回った。マンハッタンのブロードウェイ近くで話を聞くと、見慣れないゴキブリがやって来て、手当たり次第にゴキブリの世界の動きを知ろうと声を掛けて来ると言う。ゴキブリは自分の世界のことはちゃんと知っている。だからそんな奴には一切情報を与えるなという大帝からの指令が行き届いているので何も答えはしないが、それがトラブルを招いているというのだ。そんな同胞家族の奥さんに面会し、事情を聞いてみた。
(主人は最近変なんです。突然同胞世界が今どうなっているのか教えてくれと言い出し、わたしが答えないと急にイライラし出して、暴力を振るうんです。何とかならないものでしょうか)
俺は想像を巡らせた。その主人は間違いなくマインド・コントロールされている。主人はスパイでも何でもない。本物のスパイならそんな単純で荒っぽい情報の聞き出し方はしない。ゴキブリをマインド・コントロールするというKコンサルティングの技術は、人間とゴキブリとの違いをまだ克服し切れていない未熟な技術だ。これならまだそれほど心配はなさそうだ。
一方で、少しずつ情報が洩れている形跡があった。M社の画策は、一部では効果を上げているようだ。事の重大性を認識していない同胞によって帝国の情報がある程度洩れる恐れが出て来ていた。再度大帝発の警告を全世界の同胞に向けて送る必要がある。人間マフィアのいうところの『オメルタ』すなわち沈黙の掟を徹底させなければ。
見知らぬ強引なゴキブリに負けて「ワクチンの秘密」を少し話したという同胞を見つけた時、俺は大帝のミッションだと強調して、今後一切話すべからずと釘を刺して回った。
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