第9話

 休日の午後、支局に残務整理に出掛けると言って、社宅の裏庭でゴキブリに変身し、ボッカと作戦会議をした。

「ミサイルX2は当分の間販売不能となった。たとえ販売されても、その段階ではワクチンが配られているから心配はない。ボッカ、問題はこれからだ。果たしてM社の連中がどんな作戦を練っているのか」

「M社の内情を定期的に偵察する必要があるだろう。一昨日ブルックリンにある工場を探索したが、一部で機械が止まっていた。多分あれがミサイルX2の生産ベルトだったんだろうな」

「なるほど。M社のニューヨーク支社については、最上という元広報部の人間を何とか協力者に引き戻した。何か情報が必要となれば、最上から聞き出すことが出来る。それから美樹に広報部長の直木から情報を引き出すように頼んである。ピンク作戦だ」

「ああ、直木が羨ましい」

 ボッカは、俺が睨んでるのに気付き、自分の口を押えた。

「とにかく、お前の言うように定期的にM社を張り込んで、奴らの動きに眼を光らせるのが良かろう」

「そうしよう。それから最近広報室のあたりを探索していると、コンサルタント会社の藤村という男が頻繁に出入りするようになった。M社が何か画策している臭いがする。Kコンサルティングを早急に調べる必要がある」

「よし、まずは資料に当たってみよう」

 超ミニパソコンを取り出し、インターネット検索をした。

「Kコンサルティング社。これだな」

 ホーム・ページを開けた。様々なコンサルティング業務が会社概要のところに書き込まれていた。

「一般的な書き方に過ぎない。ここに特殊コンサルティングとあるが、中味がわかればある程度推測がつくだろう。それにはこのボタンだ」

 俺はパソコン・キーの横に設けられた裏情報専用のボタンをクリックし、裏ネットの最新情報の検索を開始した。それは、帝国のネット情報検索班がネットに流れる裏情報をきめ細かく拾い上げ、整理して諜報活動に資する目的で作られたゴキブリ帝国海外諜報部虎の巻である。

「あった、あった。KコンサルティングはM社お抱えのコンサルタント会社で、最近では一連のM社の製品に対する妨害事件に絡んで動き出しているらしい。その主な業務内容はベイルに包まれており、今のところはっきりしないが、Kコンサルティングの専門セクションの中で最近特に動きが激しいのは、マインド・コントロールのセクションである」

「マインド・コントロールって?」

 ボッカが触覚アンテナを神経質に振るわせた。

「特殊なチップを脳などに埋め込んで、埋め込まれた生命体を自由自在にリモコン操作するシステムのことだ。アメリカならCIA、イスラエルならモサドなどの情報機関がよく使っている奴だ」

「そのマインド・コントロールとやらを一体何に使うつもりなんだろう」

「ひょっとすれば我々の同胞の体に埋め込んで、人間にはわからない一連の不思議な動きを解明しようとしているんじゃないか」

「そうだとしたら非常に危険な動きだぞ」

「同じゴキブリでも敵か味方かわからなくなる。我々の世界を混乱に陥れながら、見えない実態にメスを入れるつもりじゃないのか」

「とりあえず、帝国の情報を一切漏らさないように、全世界の同胞にかん口令を敷くように提案しよう。ゴーキー大帝発の絶対服従命令だ。不審な動きをする同胞には注意するように呼びかけるんだ」

 俺はゴーキー大帝の側近宛てに緊急メールを送った。

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