第226話 責任


 そして、当日の朝。


 ヨミ達はきょとんとした顔で一同の様子を眺めていた。


『全く何やってんだか……』

『いつもやらかす側の人間には言われたくないぞ?』


 ヨミのぼやきにトーノは呆れる。

 晶霊たちは全員が人間たちの試合を二手に分かれて見物している。

 今回は流石に人間たちだけが前に出て、晶霊たちは全員後ろにいる。


『しかし、戦争に繋がりかねない騒動を試合にまで持ち込むとは……さすがはウス様』

『本当にありがたい限りだ』


 シュンテンの言葉にタトク上帥も安堵の声を漏らす。

 場合によっては大怪我になることもあるが、遥かに穏便な対応だろう。

 そしてホーリ大毅は困った顔になる。


『ところでヨミ殿。一応確認したいことがあるのだが……』

『何だ?』

『後ろで激しく殴り合いをしているご婦人についてなんだが……』

『……俺には見えねーな』


 そう言ってホーリ大毅とは別の物を見ているヨミ。

 ヨミの後ろでは竹刀を使ってすさまじいばかりの死闘が繰り広げられていた。


『あんたはヨミに相応しくない! 私がヨミの嫁になる!』

『あらあら……あたしに勝ててから言うセリフでしょ?』


 そう言って竹刀で激しい殴り合いをしているのはユウガオとミナの二人である。

 二人は竹刀で激しい殴り合いをしており、完全に痴話げんかと化している。

 するとアカシがヨミの横に来てぼやく。


『なんとかしなさいよ……あれの仲裁に入るのは嫌よ』

『むう……今の正妻であるお前が止めるのが筋だと思うんだが……』


ゲシッ


 アカシのパンチがヨミの顎に刺さる!

 アカシはそのままヨミの胸倉を掴んで拳で脅した。


『だ・れ・が正妻よ! あんたが無闇に色んな子と合体するからこうなるんでしょ!』

『人聞きが悪い。俺はミナとは合体してないぞ?』

『じゃあユウガオは?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 剣呑とした目で睨むアカシと目を合わせようとしないヨミ。

 そして、非常に爽やかな顔で空を眺める。


『今日はいい天気だ。いい試合になると良いな』

『さっさと行け!』


ゲシッ


 アカシがヨミの尻を蹴飛ばしてユウガオとミナの間に放り込む!

 そしてアカシが大声で叫ぶ!


『誰が嫁かはそいつが決めるって言ってるわよ!』

『『・・・・・・・・・・・・・・・』』


 同時にヨミの方を向くユウガオとミナ。


(やっべぇ…………)


 そのあまりに壮絶な笑みにヨミは軽く失禁しそうになる。

 最初に微笑みを浮かべたのはユウガオだった。


『あなたは私にこう言ってくれたわよね?これからはずっと君を愛し続けるって……あれは本当の気持ちよね?』

『いやまあ……そうなんだけど……』

 

 冷や汗ダラダラの顔でユウガオの質問に目を逸らすヨミ。

 するとクラゲ晶霊のミナが竹刀をユウガオに向ける。


『それは昔のことでもう愛していないって言ってるよ! ババアはさっさと諦めなさい』

『ババア?』


 ゆらりとどす黒いオーラを出してミナを睨むユウガオ。


『相手にもされない小娘が言うセリフじゃないわね……』

『相手にされなくなったババアが言うセリフでも無いよね?……』


 そう言って再び対峙する二人。


『もう嫌だ! 早く外に出して!』

『自分が蒔いた種なんだから責任もって止めろ!』


 その横でその場から逃げようとするヨミと修羅場に押し戻そうとするアカシ。

 トヨタマとタマヨリの姉妹もそれを後押ししている。


『責任持てない男はサイテーよ!』

『行ってさっさと刺されなさい糞ジジイ!』


 容赦ない押し問答をする連中を見てホーリ大毅はため息を漏らす。

 すると、ミナと共にやってきた貝型の晶霊カギリがホーリに謝る。


『すみません。あの子は言い出すと聞かなくて……』

『まあ、刃物でやり合わない限り大丈夫ですよ。ヨミにはいい薬です』


 カギリの言葉に苦笑するホーリ。

 そして何となくカギリの姿を眺める。


『前から言おうと思ってましたが、カギリ殿は本当にキレイですな』

『えっ? ああ、ありがとうございます……』

『昔、宮中で名を馳せたメイシ様を思い出されます』

『そ、そうですか?……』


 いきなりの誉め言葉にちょっと恥ずかしそうなカギリ。

 ホーリはそのままにこやかに言った。


『流行病でお亡くなりなってしまった方ですが大層綺麗な方で、私の嫁のツキヨの伯母に当たるんです。ですから他人のような気がしなくて……』

『ほ、ほら始まりましたよ!』


 何となく赤い顔をしながらカギリは試合へと目を向けた。

 トヨタマはそれを聞いて少しだけ不機嫌な顔をした。


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