第225話 見えない功績


 さて、ラインは飛び出たのは良いのだが、行く当てなどあるわけでは無かった。

当てどなくイヨ国国府を泳いで回るラインだが、壮絶な打撃音が聞こえてきたのでそちらの様子を見てみることにした。


「食らえぇ!」

「倒れろぉ!」


 そう言ってシラツユへケリとパンチをぶつけようとする瞬とムーの姿が見えた。


「……何やってんだ?」


 不思議そうにしているラインだが、対するシラツユは左手を上げて右手を下ろす独特の構えで迎え撃つ!


バキィ!


「ぐぅ!」

「むぅ!」


 呆気なく返されて吹っ飛ばされる二人!

 とは言っても無重力状態なので本当に空中に浮くだけなのだが。


「「まだまだぁ!」」


 そう言って懲りずにシラツユへと突っ込んでいく二人。

 それを見て呆れるライン。


「いい気なもんだぜ……こっちはそれどころじゃねぇってのに……」


 そう言ってため息を漏らすライン。

するとすぐ近くからぼやき声が聞こえた。


「凄い……天地〇闘の構えなんて本当に出来るんだ……」


 ラインがそちらを振り向くと刀和がこまり顔で戦いの様子を見ていた。


「トワ?」

「うん?……ライン?」


 ラインの存在に気付いてぽかんとする刀和。


「どうしたの?」

「いやちょっと寝れなくてさ……何があった?」

「いやぁ……何というか……気づいたらこうなってた」

「……まあ、何となくわかるが……」


 瞬と刀和が互いに意識し合っているのはラインも気付いている。

 

(大方、懸想したあの金髪とシラツユさんが刀和の取り合いを始めたんだろ……)


 わかりやすい内容に呆れるライン。


「ちょっと話に付き合ってくれよ」

「う、うん……良いよ」


 そう言ってラインは刀和の横に座る。


「なあ、トワはさ。自分の親父さんのこと好き?」

「……どしたの急に?」

「いや、ちょっと気になってさ……」


 そう言って口ごもるライン。


「さっきもオヤジの事馬鹿にされたから苛立ってやっちゃったし……他の奴はどう思ってるのかなって……」

「まあ確かにあの言い方はイラッと来るよね……」


 苦笑する刀和。


「僕はお父さんが嫌いだったなぁ……」

「トワもか?」

 

 意外な共通点に少しだけ嬉しくなるライン。


「僕のお父さんっていつも祭りでも裏方に徹してるんだ。他のお父さんはみんな前で棒を振って大騒ぎしてるからさ。それが羨ましくて……」

「あー……よくわからないけど、派手に活躍してないってこと?」

「そういうこと」


 恥ずかしそうに笑う刀和。


「みんなは祭りの花形をやって真ん中に居るのにお父さんはいつも裏方でさ。先輩たちもみんなバカにしてたから僕は嫌いだったな」

「トワもなんだ?」


 自分の幼少期を思い出すライン。


「俺もオヤジが貴族に媚びてるって馬鹿にされてたんだ……」

「そうなの? でもトーノさんは都でも有数の武士だって言ってたのに?」

「強いけど、相棒が貴族の腰巾着って言われてたからさ」

「なるほどね……」


 刀和もその気持ちがわかったのか何とはなしに笑ってしまう。


「お互い、ダメな父親を持つと苦労するよなぁ……」


 そう言って苦笑するラインだが、刀和は困り顔で答える。


「僕のお父さんはダメな人じゃなかったよ」

「……えっ?」


 ラインは刀和の言葉にきょとんとする。

 刀和が話を続ける。


「僕も嫌いだったんだけど、お父さんがほとんど祭りに出られなかった時があったんだ」

「うん?……」


 急な話の展開に困惑するライン。


「その時に。遅延するし、みんなカリカリするしでぐちゃぐちゃになったんだ。お父さんが戻ってくると普通に進むようになったんだ」

「……そうなのか?」


 意外な展開に驚くライン。


「その時に昔から出てるOBの人が怒ったの何のって……『お前ら万代さんバカにしとっけど代わりも務まっとらんやんか!』って怒鳴って罵倒してたから、終わってからお通夜みたいになってた」


 当時のことを思い出して苦笑いする刀和。


「その時わかったんだ。お父さんは後ろで支えてくれたから上手に出来てたんだって。それからはお父さんも馬鹿にされなくなったんだ……」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何となくラインにも何のことかわかった。

 刀和は恥ずかしそうに笑いながら言った。


「ラインのお父さんってヱキトモさんとか色んな人に尊敬されてるみたいだから……その辺はお父さんと似てるなって感じたから……多分、ラインのお父さんの功績は「見えにくい功績」じゃないのかな?」

「見えにくい功績?……」


 何となく刀和の言いたいことがわかってきたライン。

 だが、今一つそれが認められない。

 そんなラインの葛藤を見えていたのか刀和は苦笑して言った。


「英吾って僕の友達が良く言ってたよ『英雄美談を求めるは愚将の願望』って」

「……英雄を求めるのが愚かってこと?」

「そういうこと」


 刀和は困り顔のまま笑った。


「僕もよくわからないけど、『何事もなく治めるのが一番むずかしい』ってことらしいよ」

「うーん……」


 思わず考え込んでしまうライン。

 そんなラインに刀和が言った。


「よくわかんないけどさ。ラインのお父さんは立派な人なんじゃないかな?」

「そうなのかなぁ?」


 ちょっとだけ嬉しそうにラインは腕組みして考え込んだ。

 だが、すぐに腕組みを解く。


「何か考え事してたら眠くなってきた……そろそろ寝るかな?」

「そうだね。明日は試合もあることだし」


 そう言って笑う刀和。


「そろそろ寝るわ。おやすみ」

「おやすみ」

「あいつら片づけるのちゃんとやれよ」

「あー……」


 言われて困った顔になる刀和。


「これで終わりだ!」

「シラツユ!」

「まだだ! まだ終わらんよ!」


 瞬とムーの攻撃でそろそろ苦しくなってきたシラツユだが、何とかさばき続けている!


(そろそろ終わると良いなぁ……)


 三つ巴の戦いは泥試合になり、双方フラフラで倒れた所で決着が着いた。

 仕方ないので刀和は三人とも自分の部屋に連れて行って寝かせた。


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