第224話 間違い


 さて、色々やっている面々だが、一つだけ壮絶なレベルでやり合っている人たちが居た。


バキィ!


「ぐっ!」


 ヱキトモの鉄拳を食らって吹っ飛ぶライン!


くるん


 すぐに一回転してふわりと浮いたラインはヱキトモに叫ぶ!


「あいつらがわりぃんだろ!」

「あんな安っぽい挑発に乗る馬鹿がおるか!」


 ギャーギャーと言い争う二人。

 当り前だが、ヱキトモは先ほどの宴会の後、そのままラインを引っ張って殴った。

 後は激しい喧嘩である。


「勝手に喧嘩を買うとは何事か! 軽挙妄動に周りが迷惑させられるとわからんのか!」

「上の者がバカにされたら下の者が虐められんだろ!」


 そう言ってヱキトモを睨み付けるライン。


「親父のせいでどんだけバカにされたと思ってんだ! 臆病者のせいでどれだけバカにされたか!」

「!!!! 貴様ぁ!」


べきぃ!


 もう一回殴りつけるヱキトモ。


「ミツヨリ殿の真意がわからんのか! 言うにことかいて父親をバカにするのか!」

「あのオヤジのせいでどんな馬鹿にされたかわかってんのか!」


 ラインは怒鳴ってふわりと立ち上がる!


「タカツカサとコノエに散々媚び売って財産を築き上げたと散々馬鹿にされていた! 金魚の糞だのコバンザメだの散々言われた! ハゼベラのように残飯漁る田舎侍と散々馬鹿にされ続けた!」


 それを聞いてヱキトモの拳が止まる。

 ちなみにこの世界ではハゼやベラは、掃除屋と言われる習性からバカにされるネタに使われることもある。

 野良犬のような言い方だと思って欲しい。


「俺はオヤジと違う! 絶対強い男になってあいつらを見返してやるんだ!」

「ライン! いい加減にせい! どこに行く!」

「勝てばいいんだろ勝てば!」


 そう言って去っていくライン。

 追いかけ損ねてそのまま立ち尽くすヱキトモははぁとため息を吐く。


「……どう言えばわかるのだ?」

「「「「申し訳ありません!」」」」


 困り果てるヱキトモに慌てて土下座するお付きの4人。

 代表してサダカゲが声を上げる。


「若は今、多感な時期故に上手く自分を制御できないのです。ご迷惑おかけして申し訳ありません」

「よい。お前達も苦労を掛けるな……」


 困り顔のままヱキトモは座り込んでサダカゲの頭をあげさせる。


「向こうで何があったのだ?」

「ウス上皇の下、ヱキトモ様と共に軍の力を使って支えていたミツヨリ様でしたが、タカツカサ、コノエに従い、鎮守府将軍にまで上り詰めたのです」

「……それは聞いた」


 苦い顔になるヱキトモ。

 タカツカサもコノエもウス上皇を追い出した憎き怨敵ではあるが、それに媚びた形になったのだろう。


……)


 何があったのかはヱキトモもおおよそ理解している。

 サダカゲが話を続ける。


「それ故に若は「不忠者の息子」「恩知らずの鰻」とまで言われて辛い思いをされたのです。ですから都でも喧嘩ばかりしていて……一方で貴族の子弟とつるんで悪さをしていたのです」


 悔しそうなサダカゲ。

 ちなみに「鰻」は「蛇でも魚でも無い」と蝙蝠野郎のような扱いである。


「……サダカゲ。ひょっとしてお前もそれに巻き込まれていたのか?」

「若だけに苦しませるわけにはいきません」

「なるほど……」


 それを聞いて、ヱキトモはあることを思い出した。


「だからスード(衆道)もしていたのか……」

「左様です。『出来なければ仲間と言えない』と言われては、やらざるを得ないでしょう?」

「……トワ殿はスードに誘われて相当お怒りだったそうだな?」

「……あれも若なりの真心です。あちらで孤立すれば地獄ですゆえ」


 いたたまれない気持ちになるヱキトモ。

 確かにスードという……いわゆる衆道はあることにはあるが、

 だが、好きな奴はそれをやらないと仲間で無いと言い始める。


 言うなれば


 そして、ハイソな方々の集まる場所では、仲間と思われるために必死で努力しなければならない。

 例えそれが口だけの関係だとしても。


「若は……貴族に何ら媚びることなく、自分の生き方を変えなかったヱキトモ様を心底尊敬しておりました。それ故にあのように言われるのが苛立つのでしょう」

「そうか……」


 いたたまれない気持ちになるヱキトモ。


(…………)



 我を通して都より追い出されたヱキトモと、素直に従って鎮守府将軍にまでなったミツヨリ。

 その二つを比べてヱキトモは考える。


(私も間違ったことをした覚えはない……だが……)


 伏し目がちにヱキトモはぼそりと呟いた。


……」


 そのつぶやきをサダカゲはただ黙って聞いた。


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