第223話 化かし合い
ジュニの言い逃れから始まった腹黒な狐と狸の化かし合いは尚も続く。
「我が父ミチタリル=ミドーはウス上皇陛下に『院政』を求めております」
「……『院政』?」
聞き覚えの無い言葉に訝しむウス上皇。
ジュニはそのまま話を続ける。
「我が父は皇室をないがしろにして私利私欲を尽くさんとするタカツカサとコノエの横暴に心を痛めております。臣下の道に外れた行いを許しては天が許さないと考えております。今一度、帝の手に
「む……む?」
流石に顔を歪ませるウス上皇。
そんなやり方は初めて聞いたからだ。
この世界では院政というやり方はまだ無かった。
ツツカワ親王も訝し気な顔になる。
「具体的にどのように行うというのだ?」
「神皇陛下はエーエン様が行いますが、それは全てウス上皇の指示の元、傀儡政権として機能すべきと申しております」
「兄上は自ら人形としてふるまうと言うのか?」
あまりの言い分に混乱するツツカワ親王。
だが、ジュニは話を続ける。
「今の今上神皇陛下も傀儡政権です。その下ではタカツカサとコノエが好き放題私服を肥やしております。かような状況の中、仮にカンメイ殿下が神皇になられたとしても同じことです。それならば同じ傀儡政権でも聡明で名高いウス上皇にして頂いた方がよろしいと考えております」
「あの兄上が……」
呆然とするツツカワ親王。
(女遊びばかりして、政治に何の興味も無かったのに……)
ツツカワ親王が知るエーエン親王は女遊びが好きなプレイボーイだった。
まあ、皇位継承権もおざなりな立場だったので、割と好き放題していたというのが実情である。
(てっきり、ミドー家にそそのかされてミドー家の傀儡政権になるのかと思っていたのだが……)
ツツカワ親王が考えていたのは、政権取った後で傀儡政権となったミドー家を排除するのが目的だった。
なのに自分から傀儡政権をやらず、ウス上皇にお任せするとは思わなかった。
「あのエーエン様がそのような考えでいますかねぇ?」
ドーフが懐疑的な顔で考えている。
(確かにおかしい。兄上がそんな大層なことを考えるとは思えない)
ツツカワ親王も懐疑的になっていると、オトが声を上げた。
「そんなやり方でミドー家に何の得があるんだ? その話だとミドー家が最後には排除されてしまうだろう?」
それを聞いてハッとなるツツカワ親王。
確かにそれだと、神皇側にとって得しかない。
また、エーエン親王が神皇になったとしても、ミドー家はウス上皇によって排除されるだろう。
これほどの大きな陰謀と兵力には多大な財産がかかっている。
だが、傀儡政権にはそれだけの旨味もあるからやるのだ。
誰も自分が損することをやったりはしない。
物語のように都合よく忠臣が現れて改革したりしないのだ。
だが、ジュニは平然と返した。
「我が父ミチタリル=ミドーはこのヨルノース皇国を支配しようなどと大それたことは考えておりません。そのような大事は自分の手に余ると言っております」
「……とてもそうは思えないんだけど?」
目を尖らせてジュニを睨むオト。
(サツキの話だと、こいつらはかなりの人数の晶霊将を抱えている……それほどの権勢を持っていてヨルノースを治められないはずがない)
ソーマ領が反撃すら出来ずに叩きのめされたこともさることながら、この国有数の猛者であるヨミ達とほぼ互角の晶霊将を多数抱えているのである。
まだまだ未知数ではあるが武力だけなら相当なものである。
だが、ジュニはにこやかに答える。
「そんなことはございません。我が父は常々『この都は性に合わない。早く本国に帰りたい』と申しております。やるべきことが終わったら本国に戻ってゆっくりしたいと日々ぼやいている次第です」
少しだけ憂いを持ってそう言うジュニだが……
(うん?)
オトが違和感に気付いた。
(今の言葉は嘘じゃない……嘘じゃないけど……)
不可解な感触に気付く。
(言っている意味が言葉通りでない気がする……いや、言葉通りなんだろうけど……)
ざわざわ……
オトの背中に嫌な悪寒がはしる。
(聞いた通りじゃない気がする……)
なんだか『違う意味』で言っているように聞こえるのだ。
「ゆえにウス上皇に院政していただきたく思っております。これに一切の嘘偽りはございませぬ」
そう言って平伏するジュニ。
(この言葉にも嘘はない……)
オトも不思議そうにジュニの言葉の真意を考えるが今一つわからない。
するとモチナガが声を上げた。
「陛下。なにとぞ彼女を信じていただけませんか? 決して悪いようにはなりませぬ」
そう言ってモチナガも平伏する。
すると、ウス上皇がぽつりと呟いた。
「院政云々については私も分からぬことが多い。良く聞かせてはくれないか?」
「喜んで!」
がばっと頭を上げて嬉しそうな顔になるジュニ。
(これ絶対演技だ)
そしてそれを演技と見抜くオト。
だが、ここでジュニが不思議なこと言った。
「ただ、その前に一つだけ気になる点があるのですが……」
「何だ?」
ツツカワ親王が訝し気に尋ねる。
「ヨミは一体どこでサンメヤズラを知ったのですか?」
それを聞いてキョトンとする一同。
(そんなことを今聞いてどうするのだ?)
ジュニの言葉に全員が思案する。
ぶっちゃけ、この場に居る全員がサンメヤズラをけしかけたのはジュニだと気付いていた。
あえて知らんぷりをしていただけなのだが……
(何故墓穴を掘るような真似をする? 何か重大な情報でもあるのか?)
訝し気になるツツカワ親王。
(……そうは言っても戦ったことがあるだけだったからな……)
それほど問題は無いだろうとツツカワ親王が答えた。
「前に戦ったことがあると言っていたぞ?」
「……えっ?」
それを聞いたジュニが呆けたような顔になる。
(こっちが素の顔か……)
その間抜けな顔にむしろ感心するオトだが、ジュニは明らかに狼狽した。
(ど、どういうこと?)
ジュニは完全に混乱していたのだが、ツツカワ親王が続ける。
「何度も戦ったことあるそうだ。トーノの話だと、死んだと思ったら仲間が舌で巻き取られて食われたりとか色々嫌な思い出もあったみたいだな」
「……にゃんですとぁ?」
ぶふっ!
いきなり変な声を上げたジュニに全員が思わず吹き出してしまう。
(なんつー声を出すんだよ……)
あまりに頓狂な声に笑いを堪えるのに必死なオト。
するとドーフがこほんと咳ばらいをする。
「話を先に進めてもよろしいですかな?」
「は、はい! えーと…………院政の話でしたね……」
そう言って院政についての細かい話を始めるジュニだが、どこか気もそぞろになっていたのを全員が不思議がっていた。
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