第214話 探り合い
両軍のにらみ合いが続く中、両軍の代表である二人の話は進む。
『トウロウ。今日は何用か? 都はあっちだぞ? 』
『いえいえ、今回はイヨ国の復興のお手伝いに来たんですよ』
そう言ってにこやかに笑うトウロウ。
『タトク上帥及び、ウス上皇の労を少しでも取り除きたく思いまして、わが軍の精鋭300騎でお手伝いにお伺いしたまでです』
ニコニコと笑顔を見せるトウロウ。
牡蠣のようなゴツイ身体つきの割に、にこやかで柔らかな笑顔を見せている。
(良い人そうに見えるけど……)
(良い人じゃないの?って言わないんだな?)
(全然いい人に感じないから)
刀和があきれ顔でトウロウの笑顔を見ている。
(圭人が嘘吐く時の顔によく似てる。裏の気持ちを悟らせないために出す作り笑顔だ)
(流石によくわかってるじゃないか。ああやって人を騙し続けた謀略の天才だ)
ヨミが苦笑しながら答える。
実はその通りで策謀を得意とする謀略の天才である。
そんな話をしてる間にも色々と話しは進む。
『残念ながら我々はもう帰るところだ。復興はあらかた終えてもうやることが無い』
『そんな悲しいことを言わないでください。上皇陛下に御恩を少しでも返したいのですよ』
悲し気な顔でそんなことを言うトウロウ。
だが、隣に居るシュンテンは顔中に青筋を立てまくっており、もはやモチナガの相棒アクサフが後ろから腰の帯を掴んでいる有様である。
(よく言うわ。トキとイシューと組んでウス上皇を追い払ったのがあいつの相棒のトモシゲだぞ)
(それであんなことを言うって相当だね)
あまりの厚顔ぶりに呆れる刀和。
実際タトク上帥も言い返している。
『あの時、私を羽交い絞めにしていた者たちの一人がお前だったと思うのだが、気のせいか? それともお前の間違いか?』
『上帥閣下の記憶違いでございます。北面武士たる我々がそのようなことをするはずがありません』
トウロウがそう言うとタトクは着流しを広げて腰を見せる。
『貴様が羽交い絞めしたお陰で牡蠣殻の跡がくっきり残っているんだが?』
『それは恐らく別の者が付けた跡でしょう? 私ならそんな跡は残りません』
いけしゃあしゃあと言い放つトウロウ。
すると、ホーリ大毅が声を上げた。
『タトク陛下。やりたいと言うのであればやって貰えば宜しいのでは?』
『ホーリ?』
タトクは不思議そうにホーリに尋ねる。
『確かに内部の復興はほとんど終わりましたが、まだ曲輪の外は終わっておりませぬ。曲輪の外の農地を整備してもらってはよろしいかと』
それを聞いて初めてトウロウの顔が引きつった。
ヨミが初めてにやけ笑いを浮かべた。
(どういう意味)
(そのまんまだ。曲輪の中には入れない。外で適当に復興作業して居ろって意味だ)
(……つまり、意趣返しをして攻撃仕掛けても中には入れないってこと?)
(そういうことだ)
如何に無重力に近い世界と言っても若干の重力はあり、それ故に晶霊は普通に地上を歩いて移動している。
曲輪は晶霊が簡単に入れないように30m近い高さの土塁に囲まれている。
曲輪の中に入れないと折角の行軍が骨折り損になる。
『ホーリ大毅殿。それはあんまりなおっしゃりようです。われらとてこのまま手ぶらで帰ることはできませぬ。なにとぞ復興の手伝いをさせていただきたく思います』
『だから農地の復興を手伝っていただくと申しております。よく考えれば農地の復興がまだであったことを思い出しました。これもトウロウ殿のお陰でもありますな』
そう言ってやんわりと農地復興の方へと話しを進めるホーリ。
トウロウをやり込める姿を見て不思議に思う刀和。
(なんか、さっき言ったのと違って微妙に交渉下手なような……)
(そりゃそうだ。本来使うやり方が使えないからな)
(どういうこと?)
不思議そうにする刀和だが、ロクハラ団の中で動きがあった。
『おいおいホーリ様。それは無いんじゃないですかい?』
そう言ってほら貝の晶霊が前に出た。
『いかがなされたノト殿?』
『わしらは折角お助けに来たと言うのにその態度は無いんじゃないですかいのぅ?』
そう言って前に出るほら貝晶霊。
(ああやってツネヒラ=ノトが前に出て脅しを始めるんだよ)
(ヤクザの手法だね)
呆れる刀和。
態度が悪いと言いがかりをつける姿に不思議そうにぼやく刀和。
(最初に礼儀を欠いたのはあの人だと思うんだけど?)
(相手にだけ礼儀を求める奴等だ。最初から礼儀を守る必要は無い)
あっさりと答えるヨミ。
まあ、礼儀云々を言い出して言いがかりをする連中は大概そうである。
だが、ヨミは愉快そうに笑う。
(しかし、いつも通りいかないってわかってたから最初にああやって前に出たんだろうに……忘れたのかよ?)
(それってどういう……)
刀和がヨミに言葉の意味を尋ねようとしたその時だった!
ヒュド! ボゴグァン!
轟音と共に一条の光線がほら貝晶霊の横をかすめて後ろの山にぶち当たる!
恐るべきことに一撃で山頂部分が吹き飛んだ。
あまりの出来事にペタリと座り込むほら貝晶霊のノト。
それを見ていた刀和が唖然とする。
(今の光線……あの人の身長ぐらいの太さがあったよね……)
呆然とする一同だが、呑気な声が聞こえてきた。
『あら、ごめんなさい。クラトスが泳いでたから危ないと思って』
手をノトに向けているナイシノスが冷たい目で見下ろしていた。
忘れていると思うがクラトスとは晶霊を刺すクラゲのような生き物である。
ロクハラ団は吹き飛んだ山頂部分を見て、一撃で全員が吹き飛ばされかねない威力に凍り付く。
ヨミが少しだけ震えながら言った。
(ナイシノスの一撃は戦略兵器なみの威力があるからな。あんなもんが居るところに喧嘩なんかできんだろ?)
(モミジさんが味方で良かったよ……)
ヨミの言葉にモミジに心底感謝する刀和だった。
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