第215話 悩める先生
まあ、彼らが非常に怪しい勢力であるのは間違いないが、だからと言って復興支援目的で来ている以上、それ相応の対応はしなくてはいけない。
一応、歓迎の宴が催されることになったのだが……
『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』
黙々と睨み合いながら食べる晶霊一同。
完全に西海南海連合軍のグループとロクハラ団のグループに分かれて互いに睨み合いながらの食事になった。
前回は西海軍は支援を主目的としていたので、曲がりなりにも友好的に接する理由はあったし、その後のサンメヤズラの一件も打ち解ける理由になっていたが今回は完全に違う。
片方は言いがかりをつけて、そのまま攻めるつもりでいる侵略者なのだ。
決して警戒を怠ることは無い。
今回は主要な人物がUの字になってロクハラ団の方を見ながらの宴になっている。
適当に食べ物を置いたふりして実はさらっと境界線を引いている。
そして、その境界線の先に先ほどの三騎の晶霊がこちらの様子を窺っていた。
シュンテンが眉を顰めながら彼らを見て酒を片手にヨミに尋ねる。
『どう思う?』
『やる気満々だな……』
いつもなら陽気に女晶霊を口説くヨミだが、今回はそんなことをしない。
それだけ難しい状況であるとわかっているのだ。
『これ見よがしに槍や刀を置いての宴。号令一つでいつでも戦う気満々だな……』
『今、来ると思うか?』
『やるなら今だろうな』
そう言ってチラリとナイシノスの方を見るヨミ。
今回の宴は晶霊と人間で離れて宴会をしている。
そのため、この場に居る全員が中に相棒を入れていない。
こう言った形で『戦う気はありませんよ』とお互いに見せているのが本音だ。
そして、この状況ではナイシノスもその真価を発揮できない。
ナイシノスもそれに気づいているので苦笑する。
『お互いに相棒が入ってるより、居ない方が勝率高まるからねぇ』
先ほど見せたように切り札になっているのがナイシノスである。
存在自体が戦略兵器のような彼女は、相棒の有無で戦況ががらりと変わる。
だが、ナイシノスは余裕で答える。
『でも、ここにはあなたが居るからねぇ……それにシュンテンも相棒が居ないからと言って弱いわけじゃないし』
そう言ってヨミに流し目を送るナイシノス。
つい最近まで相棒無しなら最強と言われていたヨミが居るのだ。
そしてシュンテンも相棒無しでも剛の者と呼ばれていた偉丈夫である。
『都に居る時にあんたらに勝てる晶霊はほとんど居なかったでしょ?』
『そりゃそうだが……』
シュンテンが昔を思い出して恥ずかしそうにするが、ナイシノスはもう一人の晶霊の方をチラリとみる。
『それに、相棒が居ない方が強い男は他にも居るでしょ?』
そう言ってトーノへと話しを振るナイシノス。
当のトーノは何やら考え込んでおり、あまり話を聞いていないようだ。
そんなトーノを見てヨミが苦笑する。
『そろそろラインを許してやれよ。若い内にはよくあることだろ?』
『そうなんだが……自分が恥ずかしくてな……』
珍しく悩んでいるトーノに困り顔になる全員。
トーノは暴れ者三人の中でも割と良識的な人物である。
空気を読まないヨミとナイシノスに短気なシュンテン。
だがトーノはバランス感覚に優れており、現在のカマクラ団の中でも随一の晶霊の一人でもある。
そんなトーノが悩んでいるのだ。
不思議そうに尋ねるナイシノス。
『そうは言っても、あれはラインが悪いでしょ? トーノが悪いわけじゃないんだから』
『確かにそうだが……ラインをそこまで導いてやれなかったのは俺の落ち度だ』
そう言って酒を呷るトーノ。
『元々、ラインは天才肌で痛い目に遭わないと間違え続けるようなタイプだ。今回はいい機会だと思ったが、やり過ぎたかもしれんと思ってな……』
そう言って思い悩むトーノ。
先生もまた未熟なのだ。
だからこそ、間違えることも多々ある。
新しい酒を取りつつも考え込むトーノ。
『これまではミツヨリと一緒に切磋琢磨して強くなってきた。そんな俺の技を間近で見ていれば覚えるだろうと高を括っていた自分が情けなくてな……』
見せて教えるのも大事だが、教えないとわからないこともある。
教えるだけでわかると思う師匠もアレだが、見せるだけでわかると思う師匠もアレなのだ。
そのことに気付いたトーノは思い悩み始めたのだ。
『やはり色々教えて行くべきだったんだろう……あのままでは普通の晶霊士としてもやっていけない……』
そう言って悩んでいるトーノ。
珍しく深く思い悩むトーノに周りも考え込んでしまった。
『『『うーむ……』』』
ヨミ、シュンテン、ナイシノスが珍しく悩み始めた。
なんだかんだ言いながら親友なのだ。
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