第213話 鎮西海冦
そして翌日
刀和達は目の前に現れた大軍に冷や汗を流すことになった。
(これは一体……)
(俗に言う『脅迫』ってやつだ)
ヨミと腹話で話す刀和。
現在、二人は国都の曲輪の外に居た。
なんで外に居たかと言われれば、国都に居る西海軍及び南海軍の全軍がそこで布陣しているからで、布陣していたのは目の前に現れた大軍に対抗するためである。
目の前には300騎近い晶霊が水色の丸枠に不思議な図案が入った紅い旗を掲げてずらりと並んでいる。
(あの旗は何だろ?)
(ウミウシの紋でカンム家ロクハラ団の旗だ)
(あれがカンム家ロクハラ団……)
初めて見る軍事勢力にごくりと唾を飲む刀和。
これほどの大規模な軍隊が整然と並んで相対するのは初めてだった。
双方とも百を超える晶霊たちが居るので中々壮観である。
(最初から中に入っててくれって言われたけど、この人たちは戦いに来てるの?)
(裏向きにはな。表向きは知らん)
(えーと…………ひょっとして、言いがかり付けてる系?)
(その通りだ)
苦々しい声を出すヨミ。
実は歴史上こういったことは往々にしてある。
強引な理屈で進軍して、強引な理由で攻撃して、強引な理由で占領する。
こういったことはままあるのだ。
(見てみろ。西海軍も南海軍も対話するのはトップ二人の相棒だけだ。他のメンバーは全員いつでも戦えるように準備しているし、隣に居るシュンテンの気合が凄いだろ?)
(本当だ)
ホーリ大毅は胡坐をかいているのだが、膝の上にツツカワ親王が胡坐をかいている。
相棒がお腹の前なのですぐに戦えるのだ。
この体勢は戦場などの危険な場所での交渉でする体勢で早い話が臨戦準備を整えている。
ウス上皇も同じような体勢を取っており、完全にまともに話をする気が無い。
ウス上皇の側にはシュンテンが控えており、弓に手がかかっている。
ちなみにホーリ大毅の側にはナイシノスが居るのだが、こちらは余裕の表情である。
あくびをして退屈げな仕草を見せているのだが……
(ナイシノスさんも今回は気を抜いてないね)
(わかるようになってきたな)
刀和の言葉に嬉しそうな声を上げるヨミ。
(目線はずっとロクハラ団の方を見てるし)
(そういうことだ。ああいう奴だが、仕事はきっちりする女だ)
珍しくナイシノスを褒めるヨミ。
そうこうする内にロクハラ団の中から三騎の晶霊が現れた。
三人とも分厚い貝の鎧を着ているように見える。
刀和が不思議そうにぼやく
(牡蠣みたいだ……あんな大きな牡蠣があるのかな?)
(あれは貝型の晶霊だ。だから元から貝のような鎧を纏ってんだよ)
実はこういう種類の晶霊も居る。
この種類の晶霊は最初から鎧を纏っているので固くて強い。
(じゃあ、鎧無しでも強いってやつなんだ?)
(そうだ。あの装甲の隙間を狙わんと切れんぞ?)
見るからに重装の三騎はそれぞれが多様であった。
一言で言えば、牡蠣、ほら貝、アコヤ貝だろう。
見た目からして大きく違うが貝であることには変わらない。
ズシリ
牡蠣殻の晶霊が前に出て軽く会釈する。
『お久しゅうございますタトク上帥陛下』
『久しぶりだなトウロウ』
そう言って会釈するタトク上帥。
するとそれだけで隣に居たシュンテンが弓をこれ見よがしに上げた。
それを見て訝しむ刀和。
(今のは何をやったの?)
(まず、あの牡蠣みたいな奴はトウロウ=ロクハラって言うんだが、上帥に適当なあいさつで終わらせただろ?バカにしてんのかって怒って見せたんだよ)
げに難しきは世の礼儀作法である。
とは言え、これには大きな意味がある。
(ああやって挑発してんだよ。先に手を出させて「俺は悪くねぇ」って言い張るための伏線だ)
(……やってることがせせこましくない?)
(言いがかりを付けて土地を掠め取ろうという連中が正々堂々とした人間だと思うか?)
嫌そうな声の刀和に同じく嫌そうな声のヨミ。
(めんどくせぇ腹の探り合いが始まるぞ?)
(嫌だなぁ……)
嫌そうな声でぼやく二人であった。
人物説明
トモシゲ=カンム、トウロウ=ロクハラ
どちらも重盛、知盛をモデルにしてます。
モデルに反して非常に冷酷で狡猾な人物として知られている。
イメージが牡蠣なのは平家が広島の厳島神社が拠点のため。
ちなみにほら貝はツネヒラという教経と重衡をモデルにしており、アコヤ貝は敦盛、維盛がモデル。
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