第207話 向き不向き
お淑やかそうに見えたシラツユだが、実は武術の達人とわかり、ヱキトモは彼らの指南を任せてみることにした。
手始めに素手の組手をお願いしてみることになった。
最初に相手になったのはオトだった。
「はぁ!」
「ふう!」
オトと向かい合わせに立つシラツユ。
ふわり……ふわり……
右へ左にと体を動かして隙をうかがうオト。
「はっ!」
シラツユのお腹に掌底を放つオト!
パシッ♪クルン♪ギリッ♪
「痛ててててて!!!!」
呆気なく腕を捻られて後ろ手に締め上げられるオト。
「殴り合いよりも相手を締める方向へ向けないと駄目ですよ?」
「参った!」
素直に負けを認めるオトに手を離すシラツユ。
悔しそうなオトにシラツユはコロコロ笑う。
「力任せはダメですよ? 相手を組み伏せるためには力を上手く使わないといけませんから」
「むぅ……」
恥ずかしそうにするオト。
それを見てヱキトモは思った。
(これなら、指導は全部任せた方が良さげだな……)
そう思いながらもヱキトモは次の相手を出す。
「次、トワ!」
「はい!」
刀和はふわりとシラツユの前へと出る。
その瞬間……
「んふっ♡」
シラツユが嬉しそうに笑うのをヱキトモは見逃さなかった。
(……何だ?)
一瞬、訝しむヱキトモだが、とりあえず組手をやらせようと思い、手をあげる。
「はじめ!」
じりっ……
刀和は素手で構えて見せる!
見せるのだが……
ふわっ
呆気なくシラツユに懐に入り込まれた。
「うわっ!」
慌てて逃げようとする刀和は両手を前に出すのだが……
ぽよん♡
「いやん♪」
シラツユの豊満な胸に当たる。
顔を真っ赤にして謝る刀和。
「ご、ごめんなさい!」
「ふふふ、良いのよ♡」
ニコニコ笑顔を浮かべるシラツユだが、その目がマジなのをヱキトモは見逃さなかった。
(……うん?)
怪しい感じに嫌な予感が生まれたヱキトモ。
シラツユは先ほどとは打って変わって猛然と刀和を追いかける。
「うっ! くっ!」
必死で逃げようと手を出す刀和なのだが……
「あん♡ だめっ♡」
何故かその全てがシラツユの胸に当たる。
それを見て瞬が半眼になる。
「刀和……何やってんの?」
「わざとじゃない!」
「違う! わざとよ!」
「本当に偶然だって!」
逃げながら弁明する刀和だがヱキトモは気付いた。
(シラツユ殿はわざと乳当てて無いか?)
シラツユの不審な動きに言いようのない嫌な予感を浮かぶヱキトモ。
そしてついにシラツユの手が刀和の手を掴む。
パシッ
「捕まえましたよ?」
「このっ!」
掴まれた手を振りほどこうとする刀和。
すると……
パシッ
「おや?」
逆にシラツユの手を掴むことに成功する刀和。
(良し!)
何とか勝機を見つけた刀和。
だが、そうではなかった。
くる♪くるくる♪
「えっ?」
刀和の手は何故かシラツユの背中へとまわり……
ギシッ!
シラツユの背中で締め上げられた!
しかも……
「もがもが……」
「あん♪ 刀和さんったら大胆なのね♡」
シラツユの豊満な胸に刀和の顔が埋もれてしまう。
ちゃーちゃちゃ♪ ちゃーちゃちゃ♪ ちゃららら♪
刀和のガンバスターが思わす大きくなる。
それを見て瞬が叫ぶ!
「ちょっと刀和! 何やってんのよ!」
「もがもが……」
必死で逃げようとする刀和だが、何故か完全に絞められて逃げられない。
「それまで!」
ヱキトモが見かねて試合を止める。
止めるのだが……
「もがもが……」
「あん♪ そんなにしたいなら後でいつでも相手しますのに♡」
止まる気配の無い二人。
慌てて二人の頭を叩くヱキトモ。
「はよ外せ」
「ぷはっ!」
「いやん♡」
ようやく息をついた刀和とすごくうれしそうなシラツユ。
(トワの面倒は見させたらダメだな)
シラツユにも任せられない所があることを知るヱキトモ。
「つぎ! シュン!」
「はい!」
今度は瞬が前へと出る。
「何やってんのよバカ!」
「違うのに……」
前に出るついでに刀和の頭を小突く瞬。
それを見てやれやれとため息を吐くヱキトモ。
(でもまぁ、トワ以外なら任せても問題は無さそうだし、そこだけなんとか……)
ぶわぁ!
今後の指導方針を思案したヱキトモに言いようのない悪寒が走る。
(何だ?)
一瞬でシラツユに恐ろしいレベルの殺気が孕んだのだ。
(えーと……)
見た目には先ほどと変わりはない。
だが、明らかに殺気を大きく孕んでいる。
「よし!」
気合を入れている瞬は気付いていないようだ。
(大丈夫……だよな?)
一瞬躊躇するが見た目には変わらないシラツユを見て手をあげるヱキトモ。
「はじめ!」
不安そうなヱキトモが手を振り下ろした次の瞬間!
ドコォ! バキィ! グシャァ! べきぃ! ミシィ!
「がはぁ!」
ヱキトモの合図と同時にシラツユが繰り出す恐ろしいレベルの連続攻撃を食らって呻く瞬。
半分失神しかけている瞬の頭を掴むシラツユ。
「ほらほら、戦場では失神してる暇は無いんだよ?」
「それまで! それまでだから! だからそれ以上はダメぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
尚も攻撃を繰り出そうとするシラツユを慌てて止めに入るヱキトモ。
(やっぱ任せらんねーわ!)
心の中で呟くヱキトモだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます