第206話 武術の達人?
さて、ユウガオ達がオト=トヨタマの部下に入ったのだが、歓迎会をする時間も無く、そのまま仕事に入る。
晶霊達は復興作業へ移り、人間たちはそれぞれの仕事へ入る。
そして刀和達のような専門武官たちはどうするかと言うと……
「56、57、58……」
刀和が辛そうに刀を振るう。
いつものように体を鍛え直す一同。
特に刀和のようなタイプは武官専門としてやっていくので修練は大事なのだ。
修練は大事なのだが……
スッスッスッ……
さきほど合流した美貌の熟女シラツユが刀を持って素振りを行うがそれが物凄く綺麗なのだ。
「ほう……」
それを見ていたヱキトモが感嘆の声を上げる。
(これは達人の領域じゃな……これほどの者がまだおったとは……)
早々に指導不要とみなして他の者へと目を移るが、すぐにその顔を顰めてしまう。
ブォン!ブォン!
ラインが仏頂面のまま刀の素振りをしている。
力任せで無茶苦茶に振っているのがアリアリとわかる。
「ぐむ……」
ヱキトモもこれには参る。
(このバカが。怒られたら今度はこれか……)
明らかに「やりゃ良いんだろやりゃ!」という態度を出すライン。
一応は真面目に振っているのだが、全く身についていないのは明らかだ。
(この違いがわからんのか……)
血気盛んな甥っ子に困り果てるヱキトモ。
一番教えにくいタイプである。
(トワのように素直過ぎるのも困るが、まるで言うことを聞かんのも困る)
ラインは一言で言えば「プライドは高いがそれに相応しい才能を持っている」タイプである。
実際、ヱキトモもラインの筋の良さを認めている。
だが、一方でこの手のタイプは自信ゆえに意固地になりやすい。
(どう育てればいいのやら……)
扱いに困り果てるヱキトモ。
才能はあるがそれを伸ばせないのでは宝の持ち腐れである。
(伯父としてはこの子の才能を伸ばしてやりたい……)
頭を抱えるヱキトモだが、そんなラインの素振りを止める者が現れた。
「そんな振り方ではダメですよ?」
そう言ってラインの刀を持つ手に手を添えるシラツユ。
「力任せに振ってはかえって威力が落ちます。もう少し軽く振らないと武器に振り回されますよ?」
「うぐ……」
そう言ってシラツユが素振りの矯正をしてくれた。
「もっと軽くもって……そうそう、良いですよ。その調子です」
シラツユのような淑やか美人に言われて、ラインも仏頂面のまま素振りを言われた通りに直し始める。
先ほどと違って綺麗な素振りになっている。
(ふぅ……)
ホッとするヱキトモ。
(殴らずにすんだな……)
ヱキトモとて殴りたい訳ではないのだが、それでも殴ってしまうのには理由がある。
(わしもまだ未熟だ)
大人もまた未熟で完ぺきではない。
やりながら、学びながら必死で前を歩いているだけなのだ。
するとシラツユがころころ笑いながらヱキトモの方へとふわりと泳いで来る。
「こんな感じでよろしいですか?」
「いえ、助かりました。何しろ拙者は不調法ですので……」
そう言ってお礼を言うヱキトモは素振りをするラインを見てぼやく。
「わたくしも教えるのに四苦八苦しておるのです。あの者は才能あるんですが、ああいった次第でして……」
「まあまあ……」
口に手を当ててころころと笑うシラツユ。
「シラツユ殿はどこでお学びになられたのですか? 見たところ、『波舞流』とお見受けしますが、どうもヨミの剣技と似ているようにお見受けします」
不思議そうに尋ねるヱキトモ。
こちらにも武道が存在しており、
『亀割流』『竜王流』『鮫刃流』『波舞流』『凪風流』がある。
それぞれに特徴があるのだが、波舞流は流れるような綺麗な動きが特徴だ。
まるで舞を舞うかのように戦う柔の武道で女性に人気の武道である。
それを聞いて小首を傾げながら笑うシラツユ。
「うーん……ヨミと同じ所ですよ? 私はヨミと同じ所から来ました故に」
「……えっ?」
それを聞いて愕然とするヱキトモ。
つい最近、時空を超えてきたと言われたので思わず警戒してしまうヱキトモ。
シラツユはコロコロ笑う。
「ヨミから何かお聞きになりました?」
「え、ええ。なんでもとっても遠いところから来たとか……」
「そんなところです。そこで学んだ技術ですので、どの流派とも違いますから」
「な、なるほど……」
急に話が難しくなって混乱するヱキトモ。
先の一件もあるのでどんなところか探ろうと話を続ける。
「では、ヨミと同じ流派なのですか?」
「そうですね。と言ってもヨミは私の流派と元からの流派の合わせですので、同じとは言い難いですが」
そう言ってコロコロ笑うシラツユ。
「わたしもこちらに来てから、しばらくはヨミの相棒擬きをしておりましてので、その時に剣術を教えてもらいました。それで多少は似ているのですよ」
「なるほど。それで癖まで似ているのですね」
シラツユの言葉に納得するヱキトモ。
刀和もそうだが、晶霊の使う剣術を直に教えてもらうので癖まで似てしまうことも多いのだ。
「ヨミは龍王流の剣術に近いのですが、知らない型も使っています。それが何なのかはいつも悩むのですが、あなたが原因でしたか……」
「いえいえ。剣術だけならヨミは二つの流派の良いとこ取りをしてるのでそう見えるだけですよ?」
「それであのような型になるのですな」
納得してうんうんうなずくヱキトモ。
そして、何気なく聞いてみる。
「ちなみに何という流派ですか?」
「私は日本式軍流武術です。ヨミは古屋形流棒振りの型と龍王流ですね」
「は、はあ……」
ヱキトモはシラツユの言ってることの意味がわからずにそう呟くのがやっとだった。
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