第195話 修行
アカシ達が都市復興に精を出している一方、瞬や刀和は何をしていたのかと言えば……
「76、77……」
普通に体を鍛えていた。
真剣を使って必死で素振りをする刀和。
横で見ているのは毛むくじゃらの大男でしばらくそれを見ていたが……すぐに顔を顰めて持っていた竹刀で刀和の手を軽くはたく。
パシィ!
「ほれ、また型が崩れてきておるぞ?」
「す、すいません!」
ヱキトモに言われて姿勢を矯正する刀和。
だが、不十分だったのか、ヱキトモは刀和の刀を手に取って持っていた位置を変える。
「型は大事だぞ? 千回振って千回とも同じ形にならんといかん。素振りは型の矯正と振りを速くためにやるのであって、回数こなせばよいと言うものではない」
「す、すいません!」
「戦場では何万回と武器を振るう。お前がどんなに疲れていても敵はそんなことを気にしてはくれん。一回二回で型が崩れるとその隙を敵が襲ってくる。一人倒せても次が倒せなんだらそれで終わりじゃぞ?」
「は、はい!」
真面目に聞いている刀和だが、横で槍を素振りしているラインがぼやく。
「でも伯父貴。俺達がここまでする必要ある? おれたちの役割は戦況の把握で……」
ゴスッ
ぼやいているラインの頭に、ヱキトモが問答無用で木刀を下ろした。
いつもは精悍で猛々しいラインの顔が無残に苦痛に歪んで頭を押さえながらうずくまる。
そんなラインに容赦なく怒鳴るヱキトモ。
「晶霊とて万全ではない。わしらが晶霊の補助をするのに晶霊の型がわからんのではどうしようもないだろうが! 晶霊が混乱したらどうするつもりか!」
「う~……」
「万が一の時に心中するつもりか! 万が一に備える努力をしないのは潔さではない! ただの怠慢じゃ!」
頭を押さえて涙を溜めるラインに恫喝するヱキトモ。
すると、刀和が不思議そうに尋ねる。
「……どういう意味ですか?」
「……どうって……いざと言う時に晶霊の体を動かせんといかんだろう?」
「……晶霊の体を動かす?」
きょとんとする刀和だが、上の方から声がかかる。
『相棒は晶霊の体を動かすことが出来るのさ』
刀和が顔を上げるとヨミが居た。
ヨミ達は自分達の練習もしながら、刀和達の修行の様子を見学していたのだ。
白い髭をしごきながらヨミは言った。
『万が一の時には相棒が身体を動かすことが出来る。たまに不意の攻撃で気絶することとかあるだろ? そういう時に体を相棒が動かして対応するんだよ』
「へぇー」
刀和が面白そうに答えるが、その様子をトーノがぼやく。
『おいおい。そんなことも知らなかったのか? お前らどうなってんだよ?』
『刀和が知らないのは仕方が無い。それに俺達はお前と違って晶霊将になれたから万事OKだからな!』
『てめえ!』
青筋立てて怒るトーノだが、シュンテンがまあまあと宥める。
ヱキトモがため息を吐いて説教の続きをやる。
「まあ、そういうことだ。気絶しようが敵はお構いなしだからな。万が一の時のために技は覚えておくのが普通だ。わかったなライン?」
「ふぁーい……」
ヱキトモの厳しい言葉に仏頂面で答えるライン。
ヱキトモはしばらく素振りしてろとだけ言って最後の一人の元へ向かう。
最後の一人は弓の練習をしており、胸当てを付けて弓を引きしぼっていた。
ヒュン! パシィン!
矢は砂山に立て掛けた的に辛うじて当たる。
何本も放っているので外れた矢も多いが、二回に一回は的に当たっているようだ。
四間半(8m)の弓当てだが、上手いこと当てている。
四間半は子供の頃にやる初心者用の的だが、瞬は何とか当てているようだ。
「中々筋が良いな。初めてでこれだけならそれで上等だ」
「ありがとうございます!」
瞬は朗らかに笑った。
どうやらこちらは問題ない様だ。
しばしの間、三人の練習風景を眺めるヱキトモだが、不意に声がかかる。
「如何ですかな? ヱキトモ殿?」
「三者三様で中々面白いな」
ツツカワ親王の側近ドーフの言葉にヱキトモは苦笑した。
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