第194話 姉妹の難しさ


 さて、今日も今日とて晶霊たちは忙しそうに復興の手伝いに入っている。


カーン! カーン!


 地面に杭を打つ作業に励むアカシとタマヨリ。

 家を作る時は地面に杭を打たないと風で飛ばされてしまうので、晶霊たちが杭を打つのが基本である。


『ふぅ……大変ね……』

『お姉さま。水飲みます?』

『ありがと』


 晶霊用の大竹に入れた水をアカシから受け取って飲むトヨタマ。

 晶霊用の大竹はこちらにしか無い植物で、無重力故に地球の竹の何倍もデカい。


 特に竹は環境にあっているのか、各地で多種多様な竹が繁茂している。


 そんな竹に口をつけて飲んで、その辺に水筒を置こうとするアカシ。


すぅ


 その水筒を受け取ろうとするタマヨリ。


『・・・・・・・・・・・・・』

『貰いますよ?』


 何となく邪気を感じたのでひるむアカシだが、どこにおいても取るような気がしたので、諦めて渡すことにする。

 すると……


ベロベロベロ……


 ねちっこく筒を舐め回し始めるタマヨリ。


(やっぱり、そう来たか……)


 アカシは何も言わずに木槌を置いて拳を振り上げて……


ゴンッ!

『ぶべぇ!』


 問答無用でタマヨリの頭に拳骨を落とすアカシ。

 思わず水を噴き出すタマヨリ。


『なんでそんな変態みたいな真似ばっかりするの!』

『だって! お姉さまが口を付けた水筒だから……ガジガジ……』

『噛むな! 飲めなくなるでしょう!』


 飲み口をガジガジし始めたタマヨリを怒るアカシ。

 呆れて頭を押さえるアカシ。


『少しは本当のお姉さんを見習いなさい!』

『むう……』


 微妙な目で血の繋がっている方の姉を眺めるタマヨリ。


 姉のトヨタマは現在軍師なので精力的に指示を出している。


『その資材はそっちに……ギオンって所にお願いします!』

『ミヤタの方に持ってけっていわれたんですけど?』

『そっちは遅れてるからギオンに持って行ってください!』

『この資材は?』

『そこの船に入れてください!』

 

 資材の割り振りをやらされているが上手く回っているようだ。


 ちなみにこの世界では荷車は存在しない。

 船に資材を入れて蓋を被せて引っ張るのが主流だ。

 一種のそり引きに近い対応をしている。

 何しろ、引っ張ると自動的に宙に浮いてくれるので、それぐらいで十分なのだ。


 それを見てポリポリと頬をかくタマヨリ。


『姉さんが上手くやれてるのを見ると切ない気持ちになります』

『う、うん……』


 タマヨリの顔を見て、『やってもた』と気付くアカシ。

 タマヨリは『余子あまりご』……すなわち予備の子供なので、トヨタマに万が一のことがあれば代わりにオトの相棒になる。

 例え富貴の身と言え、次善策や予防策を用意しないで進めるほど世の中は甘くないのである。

 だが、それはそれとして、予備とされる側としては気持ちの良いものではない。

 アカシは悲しそうに目を伏せる。


(せめてオトに下の子が居ればねぇ……その子の相棒になれたのに……)


 下の子が居たのなら、その子とタマヨリが相棒になれたのだ。

 互いの立場に合わせた相棒を持つことで互いの権力の保持に努めているのだ。

 

 そんなことを話していると竜を思わせるゴツイ体の男が現れた。


『代わります? みなさんお疲れでしょう?』

『大丈夫よフキアエズ』


 ホーリ大毅の弟フキアエズもこちらに来た。

 丁度見回りの最中のようで、ホーリ大毅も辺りを見渡している。


(そういや、この子も余子なのね……)


 三人兄弟なのに二人兄弟と相棒を組んでしまったのだ。

 そうなると片方に何かがあれば組むことになるので単純に可能性は倍になるので絶対に相棒は持てない。

 ある意味タマヨリよりも酷い扱いだろう。


『お兄さんを手伝わなくて良いの?』

『良いんですよ。そんなことしたら怒られますから』

『……あれだけ忙しそうなら怒らないんじゃない?』


 そう言ってホーリ大毅の方を親指で指すフキアエズ。

 ホーリ大毅はトヨタマと真剣な顔で復興の手順の確認をしており、白熱しているらしく、かなり前のめりで話し合っている。

 話し合いの最中も時折指示を求める声に引っ張られているので人手が足りないように見える。


『どう見ても、手伝いを欲しがっているように見えるけど?』

『ところがそうでは無いんですねぇ……』


 そう言ってくすりと笑うフキアエズ。


『兄さんはトヨタマと話すのを結構楽しみにしてますので』

『……そうなの?』


 ちょっとだけ驚くアカシ。

 真剣に仕事をしている二人はそんな風に見えないので、ついマジマジと見てしまう。

 そんなアカシを見てくすりと笑うフキアエズ。

 

『裏では褒めてますよ? 一緒に仕事やりやすいって』

『……あー言われてみれば……』


 言われて気付くアカシ。

 二人とも真面目な性格なのでうまく波長が合うのだろう。


『二人とも気付いてないですけど、何かが芽生えつつありますよ?』

『おやおや? それはどんな意味?』


 にやついて前のめりになって尋ねるアカシ。

 アカシも女子なのでやっぱり恋バナが大好きなのだ。

 そんなアカシを見てフキアエズは苦笑する。


『そこはご想像にお任せするとしか言えませんね』

『そこは言ってよ~。知りたくなるでしょ~♪』


 そう言ってくねくねしだすアカシ。

 するとフキアエズは笑いながら言った。


『まあ、戦場で合体したくなるほどではありませんけどね』


ピキリッ♪


 フキアエズの言葉にアカシの顔が固まる。

 ギチギチと頭を動かしてフキアエズの方を見るアカシ。


『あ、あのね? 別に戦場で合体したいって私からお願いした訳じゃ……』

『おっと。そろそろ行くようだ。それでは!』

『ちょっ! 待って! 私の話を聞いて!』


 アカシが弁明しようとするが、それをかわしてフキアエズは悠々と立ち去った。


『あーんもう! 人を茶化すだけ茶化しといて全く!』


 逃げて行ったフキアエズにプリプリ怒るアカシだが、それを仏頂面で見るタマヨリ。


『余計な気を使いやがってあのやろう……余子のことは気にしてないっての……』


 口を尖らせながらぼやいた。


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