月海の剣士は永遠に舞う

第172話 七人の侍

　一方、ヨミは馬上の騎馬武者と打ち合っているが……

『くそ！　やはり馬上ではやりにくい！』

　苦戦していた。

　敵は馬上の利を生かして槍でヨミと打ち合うのだが、ヨミも最強と言われた剣士。

　必死で食い下がっていた。

『中々やるな……』

　相手がぼそりと呟く。

　数合打ち合いながらもヨミは少しでも遠ざけようと戦いながら場所を移している。

　中に居る刀和も焦っている。

（アウルさえ使えれば！）

　刀和も訓練の甲斐があって、ヨミの体さばきについて行けるようになっていた。

　アウルが使えるようになればこの程度の敵に後れを取ることは無い。

　やがて、サンメヤズラのアウル無効の効果範囲から外れたことに気付く。

『いまだ！』

「うん！」

バシュッ！

　アウルを使って上空へとジャンプするヨミ。

『何！』

　いきなり動きが変わったので一瞬戸惑う晶霊。

『貰ったぁ！』

　そう叫んでヨミは大剣を振り下ろした！

ガキィン！

　その大剣を何者かによって受け止められる。

　一瞬、それが何なのかわからなかった。

　何故なら、晶霊の槍は下がったままなのだ。

『な、なんだと？』

　よくわからない顔のヨミだが、すぐに何かわかった。

　晶霊の体からぼんやりとした剣が出ているのだ。

ゾクッ

　それを見た刀和がヤな予感感じる。

「逃げて！」

『わかった！』

ドン！

　反射的にヨミは晶霊に蹴りを入れてそのままジャンプして逃げる。

　だが、晶霊は平然と首無しの馬に乗ったままだ。

「あれは一体……」

　戸惑う刀和だが、すぐに正体がわかった。

　晶霊の体の中からぼんやりとした人型の光が出てきて地面に降りてきた。

　その光が少しずつ消えるころにはそれが何なのかわかった。

「分身……」

『しまった……能力持ちだったか……』

　ヨミも困った顔で焦る。

　元々、アウルを扱えるようにサンメヤズラから距離を取ったのだが、それが裏目に出たようだ。

　晶霊から次々と光が飛び出して地面へと降り立った。

『……我が能力は『分身』……』

　底冷えするような声で答える騎馬武者の晶霊。

『この『七人同行』を見て生きていた者は居ない』

　そう言って抑揚なく、ヨミを見つめる騎馬武者。

　何を考えているかわからないが、声の調子からすると女のようだ。

『どこの神様を崇めているかは知らんがお祈りをすることをお勧めする』

　騎馬武者がそう言うとヨミはにやりと笑った。

『ありがとう。じゃあ、お祈りするから向こう向いててくれ。大体半日ぐらいかかるから、こっち見たらダメだからな。ずっと向こう向いててくれ。最後のお祈りだから念入りにやりたいんだ』

　それを聞いてあきれる刀和。

「もう少し、かっこよく勝とうとはしないの？」

『うるせぇ！　世の中勝ったもん勝ちなんだよ！大体、刀和も一緒に心中したいのかよ？』

「したくないから賛成はしてるよ！」

　そうやって腹話でやり取りする二人。

　だが、流石に相手には通用しなかったようだ。

『何も信仰していないようだな……そのまま死ね』

　騎馬武者の合図で分身七体が一斉に襲い掛かってきた！