第171話 錬金術士


 一方、シュンテンの方はと言えば……


『中々パワフルだね』

『ぐぬぅ……』


 シュンテンの槍は突然現れた晶霊に向けられているが、晶霊は向けられた槍を掴んで離さない。

 驚くべきことにヨルノースでも有数の剛腕の持ち主であるシュンテンとほぼ互角なのだ。


「一体何者だこいつら!」

『わからん!』


 遠目であちらにも不思議な晶霊が現れたことはシュンテンにも理解できた。

 焦ったシュンテンは中のヱキトモに叫ぶ!


『行くぞヱキトモ!『無遁』発動!』

「おうよ!」


バシュゥ!


 シュンテンはアウルを噴き出した!

 シュンテンの『無遁』は戦った敵の数だけアウル量が増える。

 逃げるとアウルが減るのが難点だが、シュンテンは今まで一度も勝負から逃げたことは無い。


 流石にアウルの迸りに耐えかねたのか晶霊が槍を離して距離を取る。


『中々激しいね』


 余裕綽々で答える晶霊。

 目が大きく、背に大きなヒレがある晶霊で、体は銀色で綺麗な姿をしているのだが、口がやけに大きく裂けているのでちょっと気味が悪い。

 しかも困ったことに口調は紳士的なのだが、声が明らかに女なのだ。

 だが、そこは晶霊同士。すぐに相手がどんな奴が看破した。


『男気取りの似非女が。美少年を気取っているつもりか?』

『失礼な奴だな。紳士的と言って欲しいね』


ビュビュビュビュ!


 シュンテンが高速の突きを放つがふわりふわりと避ける晶霊。

 苛立ったシュンテンが声を荒げる。


『名を名乗れェ!』

『さて。名乗ってはいけないって言われてるんでね。これを破ると姉さんがおっかないんだ』

『はっ!いい年こいて姉に頭が上がらんか?この軟弱ものが!』

『姉に頭が上がる下の子は居ないと思うけど? ひょっとしてお姉さんが欲しかったタイプ? 僕が成ってあげようか?』

『ほざけぇ!』


ビュビュビュビュ!


 さらに高速の突きを放つシュンテン。

 するとその晶霊はトンっと軽やかにジャンプしてくるりとバク転してスタッと地面に降りる。


『さてと。そろそろ終わりにさせてもらうよ』


 そう言うと晶霊は地面に両手を付いた。

 それを見て笑うシュンテン。


『土下座か? 今頃土下座しても遅……』

「シュンテン! 後ろに跳べ!」


 嘲笑っていたシュンテンだが、中に居るヱキトモの声で我に返りすぐに後ろに跳ぶ!


バシュシュシュ!


 地面から唐突に鉄の刃が飛び出してシュンテンが居たところを貫いた!

 それを見てゾッとするシュンテン。


『な、何なんだ……』


 凍り付くシュンテンだが、相手の晶霊はポリポリと頭をかく。


『あららら。避けられちゃった……』


 その隙を見逃すほどシュンテンは甘くない。

 瞬時に弓を取り出して、一矢を放つ!


『死ねぇ!』


 シュンテンは弓の名手だが、だからと言って近接が苦手ではない。

 むしろ『早撃ち』という技も持っているのだ。


(さすがに避けれんだろう)


 そう思っていたシュンテンだが……


ドバァ!


 下から吹き上げた土砂が矢を防ぐ!


ピシ


 必中の影響で相手にはかすったが、ノーダメージで終わる。


『な、なに?』

『危なかった……あの子が相手じゃ今ので負けてたかも……』


 そう言うと晶霊は手を不思議な形に構えた。

 俗に我々日本人が知る『ジョジョ立ち』のような構えだ。


『僕の能力は『錬金』だよ。物を自在に置き換えて動かすことが出来るんだ。簡単に倒せると思わないで欲しいな』

『おのれぇ!』


 シュンテンは憤怒の目で睨み付けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る