第169話 襲来


 刀和達が来て数日後の夜……


「化け物だぁ!」


 バン!


 叫び声を聞いた刀和は寝床から跳び起きていつもの緑色のひとえ姿のまま、部屋の中へと飛び出した。

 すぐに黄色の水干すいかんと袴を手に取って、上から羽織って帯を締める。


(良し!)


 そのまま外へと出るとヨミが起き上がっていた。


『行くぞ!』

「うん!」


 刀和はすぐにヨミの中に入る。

 入るとヨミが見ている光景が目の前に映し出される。


 天氷河からの青い光が、国都を照らしている。


 ここは国都を守る曲輪の中で、サンメヤズラの襲撃に備えて刀和達はここで寝泊まりしていた。

 晶霊用の大きな寝床の傍に簡易的な人間用の東屋があるだけの簡単な施設だが、こういった襲撃に備えるには便利である。


 そして『それ』はすぐにわかった。


「で、でかい……」


 あまりのサイズに圧倒される刀和。

 サンメヤズラは国都を睥睨するかのようにゆらりゆらりと上を徘徊している。


 そのグロテスクな風貌もあって都市は恐慌状態に陥っているようだ。


 だが、そこは歴戦の猛者が集まった曲輪だけは別だった。

 すぐに落ち着きを取り戻したシュンテンが声を張り上げる。


『良いか! 手筈通りにやれ! あいつは俺達晶霊しか狙わん!』

『『『『『はい!』』』』』


 そう言ってそれぞれが配置へと向かう。

 ヨミも自身の配置へ向かいすぐに待機する。


 ゆらり


 サンメヤズラが気付いたようで、晶霊たちのいる方へと向かってくる。


『撃てぇ!』


 ビュビュビュビュビュビュビュビュン!


 トーノの号令で全員が一斉サンメヤズラに矢を放つ。

 だが……


 クニンクニン


 矢はあらぬ方へと飛んでいき一発も当たらなかった。

 それを見て顔を顰める刀和。


「厄介だね」

『そうだな』


 サンメヤズラの八つの顔はにやりと笑い、こちらへと向かってくる!

 すると……


 ヒュン! クニン!


 一発だけ矢がサンメヤズラへと向かっていくが簡単に弾かれた。

 

「…………」


 トーノが一人だけ孤立した形で矢をサンメヤズラへ放っている。

 それを見逃すサンメヤズラでは無く、上から急降下するようにトーノに襲ってきた!

 だが、それを見てトーノがにやりと笑う。


「そりゃぁ!」


 斬!


 トーノが剣を振り上げて地面へと振り下ろす!


 パプン!


 地面にあった綱が切れて、勢いよく引っ張られていったかと思うと……


 バァァァァン!!


 派手な音を立ててサンメヤズラの両脇から網が飛んできた!


「いよっし!」


 トーノは逃げながらガッツポーズを取る。

 すると今度はヨミがそばに張っていた綱を切った。


 バシィィン!


 網に繋がっていた綱がそのままサンメヤズラを縛り付けた!

 完全に身動きが取れなくなったサンメヤズラを見てホッとする刀和。


「上手くいったね」

『ああ』


 生えている竹を束ねてスプリング代わりにして縛り付ける罠がうまく行ったようだ。


 ビタン!ビタン!


 触手が蠢いて何とか外そうともがいている。

 するとヨミが叫ぶ!


『気を付けろ!こいつの触手にはのこぎり刃みたいなのがついてる! 網を切られるぞ! 早く触手を切り取れ!』

『『『『『 ハイ! 』』』』』

 

 他の晶霊たちが我先にと触手の切り取りを始めた。

 触手自体が150m近くあるので危ないのは確かだが、少しずつ切り取って行けば問題ない。

 流石に50人近い晶霊が総出で切り取りを始めている以上、動けなくなるのも時間の問題だろう。


『触手が無くなるとあいつは動けなくなる。何とかなりそうだな』


 ヨミもほっとした声音で様子を見る。

 そんな消化試合が始まったその時だった。


『ギャァァァァ!!!』


 突然聞こえた悲鳴に全員が一斉にそちらを振り向く。

 それを見たヨミは驚いた顔で目を見開いた。


『なんだあれは……』


 


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