第167話 都の文人
翌日
刀和達の一行は朝の早い内にトサ国の国都『コーチ』に到着する。
そしてそこに入った刀和は驚いた。
「あれ……」
微妙な顔になる刀和。
それもそのはずで、国都が明らかに最初に居たリューグよりも大きいという程度だったのだ。
大きさにして前回戦ったギョードンの町と同じ規模だろう。
こっそりヨミに耳打ちする刀和。
「なんか国都にしては寂れてない?」
『こんなもんだぞ?言いにくいが東山の方に行くとリューグレベルで栄えていると言っても良いぐらいだ』
「そんなに厳しいの?」
唖然とする刀和。
そういう刀和も見たことがあるのはリューグと太宰府とイヨ国の国都オチだけである。
ラインがにこやかに笑って答える。
「まあ、確かに国都にしては寂れてる方だけどね……元々、罪人を送る流刑地でもあるから」
「流刑地?」
嫌そうに顔を顰める刀和。
「重い罰としてここに流して一定の仕事をしてから帰るってやつ。まあ、栄えていないから流刑地にしてるだけっていう言い方もあるんだけどな」
「なるほど」
それを言われて納得する刀和。
昔から都市部に人が集中しやすい問題があり、犯罪者をなるべく遠くへ追いやる傾向にある。
だが、国としてはなるべく平均的に栄えて欲しいというのが実情だ。
また、忘れがちだが、中世まではそもそも国境線が無い。
国と国との間は「無主の地」であり、現地人が好き勝手していた経緯がある。
それ故にこの「無主の地」を開拓させて、自分たちの勢力範囲を広げる狙いもあるのだ。
それはともかくとして、一行が国都に入ると聞きつけたのか、土佐国の国司と
『お出迎え出来ずに申し訳ない!こちらもバタバタしておりまして……』
『状況は聞いております。まずは落ち着いてくだされ』
そう言ってシュンテンが小毅をなだめた。
『私はこのトサ国の小毅アコクでこちらがツラヌキです』
「どうぞよろしく」
優雅に礼をする初老の国司。
それを見て、目を見開くライン。
「ツラヌキ殿ではありませんか! お久しゅうございます!」
「おお! セーワ家のライン殿! いやお久しぶりですなあ……」
それを見てきょとんとする刀和。
すると、シュンテンの肩に乗っているヱキトモがぼそりと言う。
「都で有名な歌人だ。教養高いと有名な方だ。あっちではそう言ったことも重要視されるぞ」
「そ、そうなんですね……」
昔から古今東西を問わず、詩才を重要視する国家は多い。
優れた詩人は人の心を潤すので文化の発展に寄与する。
もっとも刀和はそういったことはからきし駄目なのだが。
話し込むラインだが、シュンテンの咳払いで我に返る。
「ゴホン」
「おっと。そうだった。今回はサンメヤズラの退治にこちらへ来たんですが……」
「サンメヤズラ?」
それを聞いて訝しむツラヌキ。
するとヨミが声を上げた。
『おい。俺が昨日教えたんだから、サンメヤズラって名前を彼は知らんぞ?』
「ああ、そうでした! 実はヨミがあの化け物の正体を知っておりまして……」
そう言って詳しい経緯を教えるライン。
それを聞いて困った顔になるツラヌキ。
「どうしましょう……私は晶霊将ではありますが、戦はさほど得意ではありません……」
困り顔になるツラヌキ。
それを聞いてキョトンとする刀和。
「どういうこと?」
『貴族は大概、晶霊の相棒になっちゃいるが、ほとんどは戦ったことが無いんだ。だから、晶霊将と言えどそれほど強くない連中も多い』
「能力持ってるのに?」
『相棒に戦う気が無ければ宝の持ち腐れだからな。それに戦いにはセンスが大事だ。異能力があれば強いとは限らん』
「なるほど」
ヨミの言葉に納得する刀和。
昨今、何かと異能力に頼る戦いを語る小説は多いが、『使いこなす』ことが大事である。
どんな能力も使いこなす本人次第である。
困り顔のツラヌキにラインはどんと胸を叩く。
「お任せくだされ。われらが必ずやあの化け物を退治してしんぜよう」
「おお! 流石はセーワ家! よろしくお願いいたします!」
そのやり取りをヨミは苦笑してみるしか無かった。
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