第163話 化け物の正体


 トーノは嫌な予感がして尋ねた。


『どうした?』

「何か……いくつもの顔がついた首が『断崖壁』の辺りに居る……」


 ラインの顔がかなり嫌そうに歪んだ。

 それを見てヨミが刀和の体を持った。


『ちょっと見てきてくれ』

「うん」


ビュン!


 ヨミが刀和をボールのように上へと投げる。

 すると、上に泳いでいたラインの傍まで上がる。

 ラインは自分の後ろをポンポンと叩く。


「乗りなよ」

「嫌だよ」


 顔を顰めてこの前襲われた一件を思い出す刀和。

 未遂とはいえ、あまり気持ちの良い話ではない。


 すると、狐目のキツイ方のお姉さんであるスエムが後ろを叩いた。


「こっちに乗りなさいな」

「はい」


 そちらにはあっさりと乗る刀和。

 微妙な顔になるラインだが、今はそれどころではない。


「あれだ……」

「……なんだあれー……」


 遠目でわかりにくいのではあるが、断崖壁の近くに大きな首が蠢いていた。


 壁を背に巨大な頭が蠢いている。

 下の方は山が遮って見えないのだが、相当大きな頭で丸いボールが動いているようにしか見えない。

 

(エビルスピ○ッツ?)


 ド○クエに出てくるモンスターに例える刀和。

 実際、それぐらい異形のモンスターであった。


 いくつもの顔があるその頭の下にはイカやタコのような触手が蠢いている。

 その顔にある口も縦に裂けているので不気味極まりない。

 頭にある顔はそれぞれが違う方向を見ており、口は縦に裂けている。

 時折、口が開くのが見えるのでそれを含めても気持ち悪い。

 触手をゆっくり動かしながらじわりじわりと動いている。


「……あれはどこ狙えば良いんだ?」


 困り顔になるライン。


「やっぱり、顔と同じぐらい心臓も持ってるのかな?」


 狸顔の優しい方のお姉さんアミが困り顔で見ている。


「むう……カイドウマルで切り裂いても効く?」


 キンタも困った顔になる。

 確かにどう戦って良いかわからない。

 トーノが下から尋ねる。


『おーい! もう大分近いのか?』

「まだ全然遠い!だが、このまま前に行けば明日の朝にはぶつかりかねん!……ってあっ!」


 ラインが驚いた顔になった。


『どうした?』

「今、晶霊を一匹咥えた! うわっ……顔同士で取り合いしてやがる……」

「うわぁ……」


 一騎の晶霊が無残にも手足を食いちぎられてバラバラに顔に食われた。

 口から舌が伸びて晶霊の手足に絡み、奪い合いをしている。

 首の下にある触手がぬらりと獲物に絡みつくと……


みしり


 簡単に手足がちぎれた。

 ちぎれた手足はそのまま化け物の口へと入っていく。


 刀和も気持ち悪そうにその様子を眺めた。

 トーノが嫌そうな顔になる。

 シュンテンが代わりに尋ねる。


『どれぐらいの大きさかわかるか?』

「頭だけで大体十丈(30m)ぐらいだ……頭の下にある触手はその5倍ほどだ」

『合わせて六十丈(180m)だと……』


 およそ200mである。

 ちなみに旧日本軍の巡洋艦『愛宕』が約200mなので、それより少し小さいぐらいである。

 もっとも……


(確か……たまにネット広告でウェディングドレス着てるオッパイデカいキャラの元ネタの愛宕が同じぐらいの大きさだったな……)


 刀和の認識はこんなもんだった。

 つまり巡洋艦クラスのデカい化け物と対峙しなければいけなくなったのだ。

 するとヨミが声を上げる。


『刀和。戻って来て入って教えてくれ!』

「わかった!」

『ライン達も一度降りてきてくれ!』


 そう言って全員が一度下に降りて晶霊たちの中に入る。

 こうすると、見てきたイメージを直接伝えることが出来るのだ。

 ヨミは刀和のイメージを見て渋面になった。


『なるほど……道理で……』

「知ってるの?」

『ああ、サンメヤズラだ』

「サンメヤズラ?」

『一度外に出てくれ。おーい。何のことかわかった!全員外に出てくれ!』


 そう言って不思議そうにする刀和を外に出すヨミ。

 晶霊の中で説明していた連中も外に出てくる。


『あれはサンメヤズラって言うモンスターだ』

『サンメヤズラ?』


 シュンテンは不思議そうに尋ねた。


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