第164話 サンメヤズラ


『サンメヤズラ?』


 シュンテンは不思議そうに尋ねた。


『ああ、シラミューレってのは種族名の名前でな。色んな種類があるんだが、サンメヤズラは周りに風を纏うんだ』 

『風?』

『ああ』


 トーノの呟きにヨミは神妙にうなずく。


『サンメヤズラは自分でアウルをかき消す微粒子を放出するんだが、その際に辺りに風を巻き起こす。ちょっとやそっとの弓矢じゃ弾かれてしまう』

『厄介だな』


 苦笑いをするシュンテン。


『シュンテンの弓矢なら普通に通るだろう。あれは俺の無窮須臾でないと受けられないほどの強さだ』

『しかし、弓矢をはじく風と言うと相当だぞ? 俺の弓でも簡単に通るのか?』


 そう言ってトーノは自分の弓矢を取り出す。

 竹を束ねて作られた晶霊用の矢はかなり大きい。

 風ぐらいで吹き飛ばすのは難しいように見える。

 だが、ヨミは答える。


『サンメヤズラは風を纏う範囲が広いんだよ。えーと……大体だが半径4町(440m)ほどの周りに乱気流を巻き起こす。横殴りの風を常に受けてたら流石にまっすぐは進まん』

『確かに』


 ヨミの説明に渋面になるトーノ。

 トーノとて弓矢に自信があるのだが、流石にそんな事情では当たりそうもない。

 シュンテンは尋ねる。


『じゃあ、俺の『必中』ならどうにかなるんだな!』


 嬉しそうに弓を掲げるシュンテン。


『幾人もの強者を屠り続けた我が『一矢一艘』でサンメヤズラを打ち滅ぼさん!』


 そう高らかに宣言するシュンテンだが、ヨミはにやにや笑う。


『じゃあ、後は任せた』

「まじめにやれ!」


 肩に乗っている刀和がヨミを小突いた。

 それを見てみんながハハハと笑う。


『えー? でもコイツ一人いれば良くね? 俺は弓使えねーし要らねーよ』

『お前、ホンットめんどくさがりだよな!』

『俺は命を奪うよりも命作る方が好きなのよ。お前もそうだろ?』

『そりゃそうだけどよー』


 そう言って苦笑するトーノ。

 そんなヨミに刀和はツッコミを入れる。


「英吾みたいなこと言うね?」


 ヨミはそう言って笑ってシュンテンに尋ねた。


『大体、おまえの弓も腕前は鈍ってねーだろ?』

『当たり前だ。試してみるか?』


 そう言ってシュンテンが弓を下ろして軽く引いて見せる。

 するとヨミは笑いながら遠くの山を指さした。


『あの山の斜面にあるあの岩に当ててみたらどうだ?』


 ヨミが指さした山は軽く2kmはある。

 岩自体はかなり大きいようだが、ここから当てるとなると難しいだろう。

 だが、シュンテンは悠々と弓を引いて見せた。


『どうする?全開でやってみるか?』

『そうだな。威力も確認しておきたいから頼む』


バオワァ!


 ヨミがそう言うとシュンテンからアウルが迸る!

 スーパーサイヤ人みたいに全身からアウルが噴き出ている。


『シュンテンは『無遁』。逃げないことでアウルが拡張する』

「へぇー」


 ヨミの説明に刀和が感心していると、シュンテンが矢を放った!


 ビュオオオオオオオ!!!!


 風切り音を立てながら矢が岩へと一直線に向かって行き……


ドゴォォォォォン……


 盛大な音を立てて岩を粉砕した。

 辺りには土煙が広がっている。

 これが当たればサンメヤズラもひとたまりもないだろう。


「凄い……あの距離で当てるなんて……」

『当てるのは別に大したこと無い。あいつは『必中』も持ってるからな』

「必中?」


 何やら聞き覚えのあるコマンドに訝しむ刀和。

 スパ〇ボで使うと1ターンの間だけ必ず攻撃が当たるやつだ。


『必中を使うと視界に入っている的なら、必ず命中するようになるんだよ』

「へぇー本当に必中なんだね」


 そんな能力もあるもんだと感心する刀和。


『もっとも、相手の攻撃も必ず当たるようになるから良し悪しではあるんだがな』

「あ、そうなの?」

『能力は基本、自分にとって都合が良いものじゃない。必ず弱点はある。使えるようになったらそこも気をつけんとダメだぞ』

「わかった」


 どうやら、ゲームの必中とは意味合いが違うようだ。


『どうやら問題は無いようだな』


 トーノがまとめるようにパンパンと手を叩く。


『だが、これで少しは対策が取れそうだな。シュンテンは弓矢で攻撃。俺たちは奴の動きを止めるように動けば良いんだな?』

『そういうことだ。もっとも……』


 ヨミは冷え冷えとした笑みを浮かべてこう言った。


『あの大きさの化け物の動きをアウル無しで簡単に止められるかという問題もあるがな』


 ヨミの答えを全員が神妙に聞いた。

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