第158話 最強の弱さ
『前の相棒もそんなこと言ってたな……』
「……えっ?」
きょとんとする刀和。
そんな刀和に茶目っ気たっぷりに笑うヨミ。
『俺なんかよりもよっぽどしっかりした男のくせに、何かと自分が悪いが口癖だったなぁ……』
「……そうなの?」
意外な答えに驚く刀和。
『そいつの友達が良く慰めてたよ。『ヨミがへぼなだけでお前は悪くない』ってな。何しろ口が悪い友達ばっかりいたなぁ……』
「……似たような友達が居るから、その人の気持ちが凄くわかるよ」
刀和はかつての仲間を思い出した。
(英吾なら絶対言いそう)
口が悪い彼は何かと調子の良いときにけなして調子が悪い時もけなした。
だが、それはやさしさのあるけなし方だった。
『あの連中に比べれば俺なんか下の下だった……俺はあいつらに並びたくて必死だったし、相棒も同じ思いだった……』
「そうだったんだ……」
刀和はなんとなくその気持ちがわかった。
刀和から見ても英吾達は輝いていた。
みんなをまとめて悪さばかりしてた英吾。
文武両道に秀でた秀才で真面目なチーボ。
トリッキーな悪戯者で詐欺師と呼ばれた圭人。
モノづくりと喧嘩で右に出る者が居ない嘉麻。
(みんな輝いてたよなぁ……)
しみじみと失った友を思い出す刀和。
『こっちに来てから『最強』なんて言われ始めたが、あいつらを知ってる俺にしてみれば、他が弱すぎるだけだ』
「……そういう意味だったの?」
ヨミは何かと勝つたびに『お前らが弱すぎるだけ』と言っていたが、どうやら本音のようだ。
そして深いため息をつくヨミ。
『……そういうことだ。前の相棒だって上手く出来てた訳じゃない。一緒に試行錯誤して、色んな戦い方を編み出していった。そうやって工夫していったんだ』
「工夫……」
言われてようやく刀和も気付いた。
(……そう言えば……言われるがままで何の工夫もしてなかった……)
相手が凄すぎるから何の疑問も思わずに従っていたのだ。
そして、ヨミはこう言った。
『大体、いつ俺が『完全無欠』って言った? 俺だって必死で食い下がっているだけなんだぞ? 一緒に戦ってくれよ』
「……えっ? でも僕なんかが……」
『それが間違いだっての。刀和も弱いかもしれんが俺だって弱い。俺だって助けてほしいんだよ』
「……えっ?」
不思議そうな刀和にヨミが茶目っ気たっぷりに微笑みながら言った。
『簡単にやって見せてるだけで、俺も必死なんだよ。俺を助けてくれよ』
その微笑みを見て刀和は呆然とした。
確かに経験豊富で遥かに腕が良い人物に任せるのは一番楽である。
だが、その人物もまた必死で仕事をしているだけなのだ。
世の中の子供は、大人がみんな楽勝で仕事を捌いていると思っている。
だが、現実には必死で頑張っているだけなのだ。
楽勝で仕事を捌いているのは、その程度の仕事を割り当てられているだけに過ぎない。
腕がいいから、優れているから、頭が良いから……
良くても大変な仕事は大変なのだ。
むしろ、良いからこそ苦しい仕事を割り当てられてもっと大変なのだ。
『なっ? 一緒に頑張ろうぜ? 俺達なら上手くやってけるさ!』
そう言って拳を出すヨミ。
すると刀和も非常にいい笑顔になって拳を出した。
「……うん!」
そう言って二人は拳を合わせて……刀和の方がそのまま押し出されてしまう。
「おわっぷ!」
『おっとすまん』
そう言って笑うヨミ。
すると刀和はわらってヨミの拳を叩き始めた!
「このやろ!」
『いててて!やめろって!』
そうやって二人でしばしの間じゃれ合っていた。
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