第159話 過疎の問題
一方、その頃……
南海はレオリスの『断崖壁』と隣接している。
この壁に沿って上へ行くと『天氷河』に当たるのだが、こちらは厚さが何kmにも及ぶ巨大な氷河でどんな構造になっているかは作者にもわからない。
ただ、この断崖壁付近は総じて交通の便が悪い。
理由は単純で農地の伸びしろが少ないのだ。
壁付近はただでさえ傾斜地になっているのに日光を浴びにくい。
日陰になりやすいので菌類などの日陰でしか育ちにくいものしか出来ない。
ちなみに茸はこの世界でも取れる。
どうしても壁の先に行けないので交通の便も悪く、平地に比べるとどうしても栄えにくいので過疎化しやすいのだ。
また、人が居ないだけにいろんな生き物の宝庫となりやすく、巨大化した生物も多い。
そして今……そんな巨大モンスターに困っている人たちが居た。
『参ったなぁ……』
晶霊兵であるゴンベは困っていた。
すぐ近くには付近の村人が居た。
「やはり……難しいですか?」
『あの大きさは流石にねぇ……』
二人の視線の先には断崖壁にある大きな穴に向けられている。
穴の直径は5mぐらいあるだろうか?
それほどまでにデカい穴なのだが、そこに入りきらない大きさの鰐が入っている。
体長は10mぐらいあるだろう。
二人は遠巻きにその鰐の様子を見ている。
『あれだけの大きさだと小団を一つ持ってこないと無理だよ爺さん』
「そうなりますよねぇ……」
困り顔のおじいさんは晶霊ゴンベの横でふよふよと浮きながら悩んでいた。
晶霊ゴンベは思った。
(今のトサ国だと小団は出しにくいなぁ……)
晶霊ゴンベはトサ国の兵士で任地であるこの村に配置されたのはごく最近である。
(イヨ国の復旧に手伝ってるから、来てくれるかなあ……)
大いに悩むゴンベ。
現在のトサ国はイヨ国の復興手伝いに兵を送っているので、急を要する案件以外では軍を使ってくれない。
(あの大きさはかえって急を要しないタイプだ……)
当り前だが、大きい生き物はそれに見合った食べ物を食べる。
体長10mは人間を襲わないわけでは無いが、じっとしていれば食べられない程度なのだ。
刺激さえしなければ襲わないのでかえって安全でもある。
とはいえ、爬虫類は動く者を自動的に襲う習性がある。
(俺たちも食べられんだけで噛みつかれたりするからなぁ……)
自分と同じ大きさの鰐に噛みつかれて楽勝と言う者はおるまい。
一応、噛んですぐに食べ物じゃないと気づいて放してくれるのだが、それだけで重傷を負ってしまう。
(まあ、考えていても仕方ない)
小団を呼ぶだけ呼んでおこうとゴンベが立ち去ろうとしたその時だった!
「あっ!」
おじいさんが大声をあげた。
「どうした?」
「あれを!」
そう言っておじいさんが鰐を指さす!
それを見てゴンベは目を見開いた。
『……なんだ?』
鰐はすでに死んでいた。
頭の部分が完全に消えていたのだ。
力なく、胴体がふわふわと穴から出てくる。
『これは一体……』
「物凄く大きな生き物があの鰐の頭を噛んだんです! 」
おじいさんが説明してくれるがゴンベは不思議そうに辺りを見渡す。
(どこだ?)
必死で探すゴンベ。
すると、上からふわりと鰐の頭が落ちてきた……
凶悪な面構えのまま、下へと降りていく。
その瞬間!ゴンベの背中から汗が噴き出した!
(食べなかった! ということは……)
先ほども言ったように晶霊は噛みつかれるだけで動物に食べられることは無い。
だが、逆も多いにある。
晶物もまた、動物を噛みつくだけで食べないのだ。
ゴンベがそのことに気付いたその時だった!
バグン!
ゴンベの体が完全に掻き消えた!
「なっ!」
おじいさんが大きな叫び声をあげる。
フゴー
恐ろしく大きな鼻息が聞こえる。
「うぐ……なんて匂いだ……」
嗅いだことも無い気持ち悪い匂いに顔を顰めるおじいさんが顔をあげて絶句する。
それはあまりに巨大すぎた。
先ほどの鰐の何倍もの大きさのそれは何とも形容しがたい体をしていた。
人の頭ほどもある目ん玉が三つあり、鼻は無く、目の下に縦に線が入っていた。
(な、なんだあの縦の線……)
恐怖に震えるおじいさんを尻目に化け物はくちゃりとその縦線を動かした。
(あれが口なのか!)
ガパン
口と思しきものを横に広げてあくびらしきものをする化け物。
口の中ではさきほどの晶霊ゴンベが完全に絶命していた。
牙が4列に並んでおり、ゴンベの体は辛うじて頭が残っているだけだった。
「あっ……あっ……」
何も言えずにただ震えるおじいさん。
そんなおじいさんを尻目に化け物は悠々と上へと上がる。
そこで化け物の全貌が初めてわかった。
それは巨大な頭の獣で頭の後ろの髪の所が触手になっていた。
そして何よりも恐ろしいのは……頭の部分に先ほどの三つ目口裂けの顔が八つも付いていた。
それを見たおじいさんは完全に震えて思考が停止してしまい、地面へふわりと落ちた。
「何なんだあれは……」
おじいさんのその呟きに答える者は居なかった。
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