第157話 プレッシャー
黄衣の剣士ヨミ
それは『史上最強』と言われた戦士の一人である。
頑なに相棒を持とうとしない孤高の剣士で、アウルすら使えない身の上で晶霊将すらも倒す最強の剣士。
そんな彼が相棒を持ったら間違いなく最強になるだろうと言われていた。
そう言った意味でも『史上最強』との呼び声が高い人物であった。
(そんな彼が……僕を選んだ……それは何故なんだろう……)
色々とゴタゴタしていたので聞く暇が無かったのだが、刀和自身も不思議に思っていた。
そんな刀和を不思議そうな顔で見るヨミ。
『どうした? 何か話したいことがあるんじゃないか? 』
ニコニコ笑顔で尋ねるヨミに、刀和は少しだけ訝し気に尋ねた。
「何で僕を相棒に選んだんですか?」
それを聞いてふふっと笑うヨミ。
『そうだなぁ……何でだろうなぁ……知ってる奴に似てたからだなぁ……』
そう言って酒樽で酒を呷るヨミ。
刀和は続けて尋ねた。
「それって……前の相棒ですか?」
ピク
ヨミの体が一瞬だけ強張る。
『だれから聞いた?』
「モミジさんです。なんだか昔に相棒が居たとか……」
『そんなこと言った覚えは無いんだがなぁ……』
ポリポリと頭をかくヨミ。
「それにキイツさんって方も『恐らく前に相棒が居る』って言ってました」
ぶぼぉ!
おもわず酒を噴き出すヨミ。
「おわっ!」
流石に10m近い巨人の噴き出しは激しい。
慌てて逃げる刀和。
「なんで噴き出すんですか!」
『すまん……』
慌てて口元を拭うヨミ。
辺りにはヨミが噴き出した酒が霧のように立ち込める。
『しかし……いきなりそいつの名前が出たからな……』
「知ってるんですか?」
『うーん……まあ、知ってると言えば知ってるが……』
「会ったこと無いんですか?」
『いや、会った事もあることはあるんだが……』
なんだか微妙な言い回しである。
刀和も不思議そうに首を傾げるのだが、ヨミの方も首を傾げている。
「どういうこと?」
『うーんまあ……会った事も無いし聞いたことも無い』
「……なぜ今更とぼけるの?」
『というか……会った事が無いことになってるし、聞いたことも無いことになってる』
「なんだよそれ……」
変な言葉のやり取りに不思議と感じたが、これ以上言っても無駄だと思った刀和は話題を変えた。
「ひょっとしてあのムー=ミナとかいうクラゲの晶霊将とかかわりがあるの?」
『全くない』
きっぱり断言するヨミ。
『奴らは『敵』だ。絶対に気を許すなよ?』
「えっ? あっ、うん?」
妙な口調にどんどん変な気持になる刀和。
(一体どういうことなんだろ?)
不思議そうな刀和に苦笑するヨミは、その大きな指で刀和を小突く。
「うぉっぷ!」
『そんな詮索ばっかするなよ。恥ずかしくなる』
そう言って笑うヨミとフワフワ宙に浮く刀和。
刀和はくるりと空中で一回転して、元の場所に座る。
「でも……ヨミが『能力』に目覚めないのは僕のせいだから……」
『それは絶対ありえない』
「……えっ?」
厳しいヨミの口調にびっくりする刀和。
おもわずヨミの方を見るが、ヨミの顔は真剣そのものだ。
『誰がそんなこと言った?俺がその間違いを正してやる!』
「わわっ! 落ち着いて! 誰も言ってないから!」
怒るヨミを慌てて止める刀和。
ヨミは中腰になりかけていたが、すぐに座り直す。
『じゃあ、誰がそんなこと言ってるんだ?』
「その……僕がそう思ってるんだ……」
それを聞いて困った顔になるヨミ。
「だって……ヨミはそれまでに最強と言われるだけの実績を積んでるのに、僕はこんな感じだしさ。どう考えても僕が原因じゃないか……」
「……あー……」
言わんとすることがわかったヨミは微妙な顔をする。
尚もぼやく刀和。
「正直辛いんだ……最強の剣士を最弱に変えてしまっていることを……」
『ふふっ……そうだなぁ……』
それを見てほほえましく笑うヨミ。
『前の相棒もそんなこと言ってたな……』
「……えっ?」
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