第150話 剛力


 ヱキトモはそのむさくるしい虎髭に囲まれた口に竹筒をつけてごくごくと酒を飲む。


「しかし、ヨミの相棒は決まってると聞いたが……それはお前さんのことだったとはなぁ……」

「??? 何の話だ? おじき?」

「あ、いえ! そうじゃないです! たまたま僕がなっただけです!」


 慌てて否定する刀和。

 すると面白く無さそうに鼻を鳴らすヱキトモ。


「わしの相棒シュンテンが唯一勝てなかったのがヨミだ。そのヨミがようやく相棒を持ったから、五分の条件で戦えると思ったんだがのぅ……こんなガキとはな」


 それを聞いてムッとする刀和。


「ガキで悪かったですね」

「ガキをガキと言って何が悪い? 違うってんなら男を見せてみろ」


バチバチバチバチ


 睨み合いを始める刀和とヱキトモ。


「ヨミほどの剣士の相棒になっておきながら、女に負けそうになったって聞いたぞ? そんなガキが偉そうにさえずるな」

「……(ギリ)」


 刀和が黙って睨みながら歯ぎしりをする。


(人が気にしてることを!)


 刀和はヨミの能力を引き出せていない事を一番気にしていた。

 

相棒さえ持てば最強なのはヨミ

 

 そう言われ続けていたヨミだが、実際に相棒を持ってみれば、並みの晶霊将程度の実力しか発揮できていない。

 その原因が誰かと言われれば刀和以外に考えられないのだ。


 何しろ、それまでの戦績でヨミはそう言われるだけの実績を重ねてきている。

 ヨミの実力に疑いの余地が無い以上、刀和に問題があるのではと普通は考える。


 瞬とラインが慌てて間に入る。


「ほら、やめなさいって」

「おじき! こう見えてトワは力が凄いんだ! 変な喧嘩は止めてくれ!」


 二人が間に入るのだが、ラインの言葉ににやりと笑うヱキトモ。


「ほう? では見せてもらおうか? 刀和の力とやらを」


 そう言って刀和の手を取るヱキトモ。

 刀和もまたヱキトモの手をガッチリつかむ。


「良いでしょう」


 刀和にしてみれば超低重力で過ごした連中にはそうそう負けないという自負があった。

 ヱキトモにしても、自身の豪勇に自信があったのでそうそう負けるとは思っていない。


トン


 二人同時にふわりと浮いて、そのまま地面へと腹這いになる。

 二人が地面に着地すると同時に……


ガシィ!


 力を入れ始めた!

 その瞬間、全員の目が丸くなった。


「うそ……」

「ばかな……」

「トワが互角?」

「ヱキトモ様が勝てない?」


 両陣営とも驚きが隠せない。


 刀和が強いのは元々の地球の重力が十倍重いからで、高重力下の人間の方が強い。

 だが、ヱキトモもそれと互角の力を見せているのだ。


「くっ……」

「ぐぅ……」


 二人とも顔を真っ赤にして力を入れる。


((こんなに強いのか!))


 刀和は刀和で逆に侮っていたと言える。

 だが、ヱキトモはヱキトモで相手を侮っていた。


(こんなチビデブが強いとは……)


 怪力無双と知られていたヱキトモは今まで腕相撲で負けたことが無い。

 それが、目の前の男には全く勝てないのだ。


「「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」」


 二人して必死でうめき声を上げながら勝負する。


「ヱキトモ様ぁ!」

「トワ頑張れ!」

「もっと手を引っ張って!」

「あと少しです!」


 互いに自分の仲間を応援し始めるギャラリー

 それを見て唖然とするウス上皇。


「あの子は強いな……」

「ええ。なんでもあの子の生まれ故郷では相当な怪力無双の猛者がゴロゴロ居たらしく、あれでも弱い方だったらしいです」

「あれでか! 凄いなぁ!」


 ツツカワの説明に感心するウス上皇。


「ぐぬぬぬ……」


 必死で力を籠める二人。

 だが、少しずつ刀和の方が押され始めた!


「ぐぬぬぬ……」


 地力に差があったのか、じりじりと地面と刀和の手の甲が近付き始める。


「ふぬぬぬぬ(にやり)」


 ヱキトモも勝利を確信してにやりと笑みを浮かべて最後のスパートへと入る。


(ちくしょう! 僕はこんなところでも負けてしまうのか!)


 負けが頭によぎり、暗くなる刀和。


(ちくしょう……)


 悔しくて少しだけ涙が浮かんでしまう刀和。

 それを見てヱキトモが笑う。


「バカが……お前みたいなのが調子に乗るのがダメなんだよ」

「ぐぅぅぅぅ」


 悔しそうに顔を歪めながらも必死で頑張る刀和。

すると、なにやら声が聞こえてきた。


「あらあら。何か面白そうなことやってるわねぇ」


ロリババアことモミジが二人の対決を見て面白そうにわらう。

刀和が負けそうになっているのを見たモミジが黄色い声援を出す。


「がんばれー♪負けてもあたしが慰めてあげるからねぇ♪」


フッ


 一瞬だけ刀和の力が抜ける。

 その瞬間、ヱキトモは勝ちを確信した!


(もらった!)


 最後の踏ん張りを入れるヱキトモ。

 だが、刀和は闘志を燃え上がらせた。


「負けられるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


バンッ!


 刀和の手に火事場の糞力が籠ってヱキトモの手の甲が地面にたたきつけられる!


「ぬわぁ!」


 思わずそのまま転がってしまい、地面から浮き上がってしまうヱキトモ。

 どう見ても勝負は刀和の勝ちだった。

 

「「「「「おおおおっ!!!!」」」」」


 刀和の勝利に歓声が上がる。


「すごい……」

「まさか勝つとは……」

「なんて力だ……」


 口々に感心するギャラリー。

 一方で仏頂面になるモミジ。


「ちぇっ……勝ったらしてあげるって言えば良かった」


 モミジの悔しそうな顔を見て、瞬は下卑た笑みを浮かべた。


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