第151話 苦手なもの
一方、貴賓席では違う話が盛り上がっていた。
「ですので、南の区画の建設を先にしていただきたいのです」
「なるほど。では資材はどのあたりから貰えば良いですか?」
太宰同士の席の周りにある貴賓席の方では、文官達は飲みながら明日からの復興施策の話をしている。
こういった時代でもこれらの話し合いは飲みの席でやる。
基本、この時代の交渉事は会食中に行われることが多い。
武官はただ、命令に従うだけだが、文官はそうはいかない。
効率よく作業が出来るように決めなければいけないことが山ほどある。
宴会中だからと言って気が抜けないのだ。
そんな中、一人だけ刀和達の方を見ている者がいる。
(良いなぁ……あたいもあっちに行きたかった……)
目の前のお食事をもそもそ食べるオトが居た。
オトは『軍師』として従軍しているので、どちらかと言えば西海軍の幹部に当たる。
そうなると当然、こういった話し合いに参加することになるのだが……
(輪の中に入れない……)
当り前だが、前からも西海軍には軍師がおり、ちゃんとこういった事務処理を行う人は多い。
また、復興計画を立てるにしても、熟練のベテラン勢が居るので無闇に口を挟むと混乱しかねない。
そして何よりもオトは経験不足なのでわからないことが多い。
(あの婉曲な対応にも意味があるんだろうなぁ……)
ぱっと見では非効率な動きを取ってると思われる部分もあるが、往々にしてそういった部分は必要だったりする。
それは理屈ではなく経験でしかわからないのだ。
(実戦と理論は違うからなぁ……)
そう思いながら、この復興計画の話し合いの中心人物の顔を見る。
神経質そうなチョビ髭のおじさんが一人一人に細かい話をしている。
ウス上皇の四天王の一人 モチナガ=トーカである。
敏腕官吏として名を馳せた人物でやりくり名人である。
モチナガは太宰府に左遷されたドーム=スガヤマの後に太政大臣として政治を振るった。
ウス上皇の財布を担う人物で彼のお陰で大幅な支出が制限されたと言われている。
ただし……
(官僚の人員を削減した故に追い出された……)
リストラを敢行した際に恨みを大いに買ってしまった。
確かに圧迫した財政を助けるには必要なリストラではあった。
だが、既存の権益を持っていた側にとっては大いに厳しい対応だった。
(モチナガの施政はウス上皇の統治を揺るがせてしまった……)
善政と言えば善政だろう。
だが、それ故に追い出される側にはたまったものではない。
そして、追い出された側は大人しくはしてなかった。
(タカツカサ、コノエのウス上皇の後見人がそのまま敵に回った)
結果、禅譲を余儀なくされ、ウス上皇はそのままこちらへと移った。
(そして追い出したのはトキ=タカツカサとイシュー=コノエの二人……)
トキ=タカツカサとイシュー=コノエの二人は皇都ヤオエに残って今上神皇の元で辣腕を振るっている。
そして、一番の問題はこの二人で、がっつり私服を肥やす佞臣悪吏である。
そしてこの二人がキーマンになっている。
(カンメイ様とエーエン様が戦えば二人はカンメイ様の側に立つ……)
二人とも実務能力自体は卓越している。
敵に回すのは厄介だが、カンメイの外戚となっているのはこの二人である。
そして、この西海軍の最大の弱点として『宮廷内の暗闘』にすこぶる弱い。
(せめて、ウス上皇がこちらに加わって頂ければ心強いんだけど……)
モチナガの管理能力とヱキトモの武力。
この二つは大きなアドバンテージとなるだろう。
それにもう一つ、西海軍には問題がある。
(元々、西海から補給となると遠すぎるんだよなぁ……)
軍はただ存在するだけで消費する。
東西の猛者が集う今回の戦いは長期戦の可能性もあり、そうなると、補給路の確保も必要になる。
(南海からなら、海一つ越えるだけで送れるし、最悪の場合には讃岐に拠点を持てる)
色んな意味で南海の助力は必要になるのだ。
(何とか加わってくれないかなぁ……)
そう考えてウス上皇とツツカワ親王の様子を窺うオトだが……
(上手くいって無さそう……)
悪い関係にはなってないようだが、良くも悪くも「普通」のようだ。
当然、理由もなく助けることは無い。
(難しいよなぁ……)
いつものモリモリヘアの頭をコリコリかいて悩むオト。
すると目の前に竹筒がにゅっと現れた。
「飲んでる?」
竹筒を差しだしたのはオトと同じようなモリモリヘアの若い娘だった。
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