第149話 豪快


 一方、刀和達はちょっと困ったことになっていた。


「さあ、飲めぃ! 」

「だから僕は未成年ですってば! 」


 髭面の無骨なおっさんが酒筒を片手に刀和を追いかけまわす。

慌てて逃げ回る刀和だが、あっさりと捕まる。

 

「さあ、飲めぃ! 」

「うぐぐぐぐ……」


 むりやり飲まされる刀和。

 だが、すぐに変なことに気付く。


(うん? )


 こくこくこくこく……


 喉がしっかりと動く。

 それをじーっと見つめる髭面の男。


「ちゃーんと飲んどるようじゃの!」


 嬉しそうに笑う髭面のおっさん。


「ぷはっ!」

「がははははっ! 良い飲みっぷりだったぞ小僧! さぁ次はだれだぁ!」


 そう言って次のターゲットへと向かうおっさん。

 解放された刀和はふらふらと瞬の元へ移動する。


「大丈夫?」

「うん。裏技使ったから」


 そう言ってこっそり舌出して笑う刀和。


「英吾と一緒に練習したよ『喉鳴らし』」

「祭りには必須だったからねぇ……」


 しみじみ苦笑する瞬。

 未成年の飲酒はダメなのだが、そこはお祭り。

 酔った大人が飲ませてしまうことも多々ある。

 そこで、こっそりやるのが『喉鳴らし』である。


 唇や舌で筒の穴を塞いで、喉だけをごくごく動かして飲んだふりをする。


「定期的に現れるからね。古屋形コール」

「あれ始まると距離置かないと巻き込まれるからなぁ」


 さらっと宴会テクニックを披露する刀和。

 色々言われるところもあるが、こういった宴会テクニックを学べるのもお祭りの良い所である。

 刀和とて、こういった場は得意じゃないが、世の中は甘くない。

 必ず出る必要があるのだ。

 問題は如何に断るかではなく、如何にうまく振舞うかである。

 ただ、刀和は不思議そうに首を傾げる。


「でも、あれ、甘酒みたいだったよ?」

「そうなの?」

「うん。あれなら飲んでも大丈夫だと思う」


 忘れがちだが、昔の酒は超薄い。

 今の酒と基準が違い、アルコール度数が極端に少ないのだ。

 だから相当飲まないと人によっては酔わない。

 というわけで未成年が飲んでも大丈夫な酒だと思って欲しい。

 ちなみにこの世界の酒は栄養ドリンクのアルコール度数と同じ1%なので問題ない。


「どうした? 飲まないか?」


 ラインが竹筒と酒樽を持ってくる。

 おもわず身構える刀和だが、ラインはひらひら手を振る。


「わかったから! もうスードはやらないから!」

「本当に頼むよ?」

「大丈夫ダイジョブ」


 そう言って刀和に酒を渡すライン。

 二人とも恐る恐る飲んでみるが……


「あれ?本当に薄い」

「これぐらいなら飲めるね」


 二人ともほっとして酒を普通に飲んだ。

 ラインが不思議そうにする。


「これぐらいならって……いつもは直で飲めてるのか?」

「直って……ひょっとして水で薄めてるの?」

「当たり前だろ」


 ラインが不思議そうにする。


「直飲みなんてお偉いさんか酒豪のどちらかぐらいしか飲まないぞ?」


 酒は保存食という意味合いの方が強く、水を溜め置くと腐ってしまうのでその保存の意味合いが強い。

 だから水で薄めて飲んでいるのだ。


「それに甘いから甘酒って感じだし」

「そうそう。白く濁ってるし」

「まあ、確かに甘いけど……辛い酒があるみたいな言い方だな」

「「あるよ」」

「へぇ! そんなもんがこの世にあるんだ!」


 感心するライン。

 清酒が主流になった今では考えられないが大昔はマッコリのような甘い酒が多かったのだ。

 ちなみに二人が飲んでいるのはその酒をさらに薄めているので日本の法律上は酒ではない。


「そんな酒があるなら一度は飲んでみたいな……作り方は?」

「それは流石に……」

「じゃあ、どこにあるんだ? そう言えば二人ともちょっと変な感じだけどどこに住んでいたんだ?」


 ラインに言われて一気に冷める二人。

 

((そういや言ったらダメなんだった……))


 素直に説明すると刀和と瞬は『地獄である地上の人間』とされてしまう。

 実際には少し違うのだが、この世界でその言い訳は通用しないだろう。

 言われて困り果てる二人に訝しむライン。

 すると……


むんずっ


 ラインの頭を掴む毛むくじゃらの大きな手が現れた。


「同僚を虐めるとは感心せんなライン」

「お、おじき!」


 一瞬で冷や汗ダラダラになるライン。


 ラインの後ろからふわりと大男が現れた。

 身長2mはありそうな巨躯をしており、筋肉は隆々と膨らんでいる。

 腕や胸、脛は毛むくじゃらで如何にも男らしい。

 顔もイメージに逆らうこと無く、虎髭のむさくるしい顔をしている。


「紹介してくれんか? わしはその子がひじょーに気になるんじゃが?」


 おどけながら言っているが目は笑っていない。

 ラインは慌てて言った。


「しょ、紹介するよ! こっちはシュンであのアカシっていう晶霊の相棒で、こっちはトワ。あの黄衣の剣士ヨミの相棒になった奴だ」

「ほう……」


 面白がるように虎髭をしごく大男。


「トワ! 紹介するよ! こちらがあのシュンテンの相棒のヱキトモで俺のおじきだ」

「よろしくな若いの!」

「よ、よろしくお願いします」


 そう言って刀和は深々と頭を下げた。



 登場人物紹介


 ヱキトモ=セーワ


 名前の由来の源為朝。

 珍しい二重能力の持ち主でそれ故にヨルノース最強の晶霊将の一人と言われている。

 毛むくじゃらの大男ってキャラが昔に比べると減ったって気がしません?

 たまにはそういうむさくるしいキャラも大事だなって思います。


 それと、繰り返し説明しますがここのお酒は日本国の法律上は酒じゃないです。

 アルコールがちょっぴり入っているだけです。


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