第144話 ウス上皇


 イヨ国庁は西海太宰府とほぼ同等程度の広さがあった。

 常備軍こそ太宰府軍よりも少ないものの、ただの国庁が太宰府と同程度の大きさはおかしいと刀和が感じた。


「なんで国庁なのに太宰府と同じ規模なんだろう? 」

「それはイヨ国が裕福な国だからさ」


 オトが説明してくれる。


「南海は西海と畿内を結ぶ交易の中心でもあるし、山陽、西海、畿内、東海に隣接してるから交易で栄えているんだ。特にイヨ国はセト大河もあるから海の幸にも恵まれているし、食糧事情も良かったからね」

「なるほど」


 要は地方の大都市よりも東京の一区の方が裕福なパターンである。

 これほどの格差は無い物の、やはり多少の差は出来てしまうのだ。

 とはいえ、いいことばかりではない。

 現に裕福さゆえに真っ先に襲われているのだから。

 所々に傷が残る国庁を見て痛ましい気持ちになる刀和。

 

「……ここが襲われたとき、男は全て殺されて死体を捨てられて、高官の娘や女官は全て丸裸にされて凌辱されたって言われてるんだ」

「・・・・・・・」


 オトの言葉に痛ましさのあまりに顔を歪ませる刀和。


 そうこうしている内に奥の謁見の間に辿り着く。

 それを見て刀和はきょとんとした。


(……えっ? )


 ボロボロのままなのだ。

 今まで通った廊下の方が綺麗なぐらいである。


(普通は客間を整えるのに……)


 人を迎え入れるのにそれ相応の態度を示さなくてはならない。

 それが難しいのはわかっているが、それにしてももう少しやりようがあるだろう。


 そんな謁見の間には一騎の晶霊が床に座って待っていた。

 雄々しい褐色の肌をした晶霊で机に肘を乗せてゆったりとしている。


 晶霊の前には晶霊用の机が置かれており、そこには50歳ぐらいのおじさんが椅子に座っている。

 

 そのおじさんはみずらを結っており、おじさんのみずらは前の二つを網状に紐で縛った綜型みずらだ。


 全員がその人たちの前まで来るとシュンテンが声を上げる。


『タトク上帥、ウス上皇、お連れいたしました』

『ご苦労』


 そう言って座っていた晶霊が立ち上がった。

 するとツツカワ親王がホーリ大毅と共に膝をついて頭を下げる。


『お久しぶりですタトク上帥』

『ホーリも元気そうだな』

 

 そう言って話し始めて横へと移動する。

 すると机の上のおじさんにツツカワ親王が拝礼のためにスライディング土下座をした。

 すると、慌てておじさんが立ち上がって駆け寄る。


「これツツカワ。もうそんなことをしなくても良いのだぞ? 」

「しかし、伯父上。礼を失して下の者に示しが付きません」


 そう言ってこちらも話しを始めた。


(優しそうなおじさんだな)


 刀和は穏やかなウス上皇の様子にホッとする。

 何分悪い噂しか聞かなかったので何が起きるかわかりかねたのだ。


 しばらく話していたのだが、ツツカワが本題に切り出す。


「伯父上。それで我々は何をすれば宜しいのですか? 」

「おお、そうじゃった。モチナガ。皆さんに詳しく説明してくれ」

「畏まりました」


 今度は神経質そうなおじさんの方が前へ進み出る。

 さきほどシュンテンをたしなめていた晶霊士の方で、菖蒲色の着流しを着ている。

 茶色い肌に黒いラインが入った晶霊で晶霊も人間もやや神経質そうな顔をしている。



「みなさんこちらへ。詳しい説明は私とアクサフが行います」

『よろしく』


 そう言って彼らは支援の説明を始めた。



 人物紹介


 モチナガ=トーカ


 トーカ家の出身でウス上皇時代に辣腕を振るった宰相。

 だが、その執政の苛烈さゆえに周囲の反発を招いた。

 藤原頼長がモデル。



 アクサフ


 モチナガの相棒で神経質な晶霊。

 その細かい性格ゆえに、都市設計などの土木工事が得意な反面、戦闘には強くない。

 茶色の肌に黒のラインが入った姿で菖蒲色の着流しを着ている。


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