第143話 一触即発


 その晶霊は他の者に比べて明らかに一回りも二回りも大きな体躯をしていた。

 ヨミやトーノのように歴戦の古強者の風格が滲み出ており、今でも現役と一目でわかるほどで、今までに見たことも無い威厳が備わっていた。


 白い着流しに暗褐色のマントを着けており、それが彼の威風に追い風をもたらしている。


 そんな晶霊が仁王立ちで一行を迎えたのだから、全員の顔が自然に引き締まる。


『あらあら』


 嬉しそうにナイシノスが扇で顔を隠す。

 舌なめずりをしているのを瞬は見逃さなかった。


(……どっちの意味で? )


 性格的に戦闘的なのか性欲的なのか今一つ判別がつきがたい。

 

ズン……


 全員がヒョウ柄の偉丈夫の数十m手前まで来た時点で行軍を停止する。

 そこでホーリ大毅が前へ出てきた。

 

『西海大毅ホーリ! 南海への救援に参った! 南海大毅タトク殿へのお通しいただきたい!』


 そう叫ぶホーリ大毅。

 だが、ヒョウ柄の偉丈夫は……


『・・・・・・・・・・・・』


 腕組みしたまま黙ったままだった。


(うん? )


 オトの目が険しくなる。


(……救援要請に応じたのに受け入れようとしない? )


 今回の救援要請は南海の方からだ。

 それなのに通そうとしないのはどういう意味か?


(やはり罠か……)


 事前の打ち合わせ通り、全ての晶霊士の人間が晶霊のお腹の辺りへと移動する。

 奇襲されても対応できるように、危険があればすぐに乗れるようにと変えるのだ。


(だが、まだ早い)


 単に無作法なだけというパターンもある。

 どこの世界にも乱暴者は居るのだ。

 なんとはなしにオトがちらりと刀和の方を見ると……


(あ、あれ? )


 刀和は普通にヨミの肩の上に乗っていた。

 事前の打ち合わせはきちんとしていたのにだ。


(何で準備を……うん? )


 そこでオトが気付いた。

 ヒョウ柄の偉丈夫の隣にいる晶霊が困った顔になっている。


(これはひょっとして……)


 よくあるパターンで『上司の命令に逆らう部下が勝手に契約を破断にする』というのがある。

 気に入らない相手と手を組むときに部下同士が喧嘩をするのは多々あるのだ。

 

 もう片方は文官の相棒なのはあきらかで、戦闘オンリーの戦士ではない。

 必要だからと割り切れている総合職と『やってられるか!』と邪魔をする現場。


『しゅ、シュンテン殿! ちゃんとしないと駄目ですぞ! 』


 隣の晶霊がそう言うのをオトは聞き逃さない。

 スッと手を挙げて臨戦態勢を解くように合図する。


フワワワ


 お腹の辺りに待機した晶霊士たちが次々と肩の位置に戻る。

 緊迫した空気が少し緩やかになった。


『………チっ』


 少しだけ舌打ちをするヒョウ柄の偉丈夫。

 すると今度はホーリ大毅のみが前へと進み出る。


『シュンテン殿。どうかタトク上帥にお目通りしていただけませんか? 』

『……わかった』


 隣の晶霊がほっと胸をなでおろす。

 どうやら気苦労が多い様だ。


『よく来てくれた西海軍。われらは歓迎する』


 それだけ言ってイヨ国庁へと入っていった。

 ヨミはぼやく。


『シュンテンの奴め……相変わらずめんどくせー性格してんな』

『お前にだけは言われたくないと思うぞ』


 トーノは苦笑しながらヨミにツッコミを入れた。



人物紹介


 シュンテン


 源為朝をモデルにしており、イメージは豹アザラシ。

 ヒョウ柄の模様を持ち、白い着流しと暗褐色のマントを着ている。

名前の由来は瞬天という琉球王朝の王

 源為朝の子供が瞬天になったという伝説がある。

 あからさまな嘘伝説だが、そこは突っ込むのは野暮というものです。


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