第111話 老練の知恵
ギョードンと中に居るウマカイの二人は歯ぎしりをしていた。
ぎりりり……
ギョードンの前には大剣を盾に隠れるヨミとトーノが居る。
何とか後ろにまわろうとするがヨミは巧みに大剣を盾にして後ろを取らせない。
(こいつらさえ来なければ! )
(ハミ様の計画が台無しだ! )
二人がハミから聞いていたのはツツカワ親王の後釜に政敵のカイエン親王側の太宰が来るのでその時に蜂起して倒せと言う話だった。
最近、エーエンとカイエンによる継承問題が起きていたので、その延長線上にあるとウマカイも考えていた。
だが、バカ息子が太宰府で起こした誘拐が原因で、逆にツツカワ親王に反逆するように見えたのだ。
本来は慌てて弁明すればどうにでもなった問題だろう。
だが、彼らが突っ込んできたことで、もはや言い逃れが出来なくなった。
彼らが勝てば必ず『良いように』弁明されてしまい、ウマカイは反逆者になる。
一方でウマカイたちが勝てば『彼らが勝手に勘違いしただけ』と言い訳できる。
ウマカイにとって最良の選択とは彼らを打ち破って弁明することである。
元々、ハミ姫によって行った徴兵なので弁明はいかようにも聞くだろう。
だが、彼らが勝てばそれで終わりである。
(必ず勝つぞ! )
(おう! )
そう言って気合を入れなおす二人だが、ヨミ達の方でも動きがあった。
二人とも黒い大剣に隠れたまま、まっすぐこちらに向かってきた!
(ヨミか! )
『とまれぇ! 』
ドゴゴゴゴゴ!!!
気弾をガンガン飛ばして動きを止めようとするギョードン。
一発一発がハンマーで殴るほどの威力があるので相当な圧力だろう。
目に見えてこっちへ来る速度が遅くなる。
だが、その歩み自体は止まらない!
少しずつだが、前へと出ている。
(もう少し! )
必死で押さえつけようとするギョードンだが、ある動作を見逃さなかった。
大剣の持ち主が持ち手を変えたのである。
それを見てほくそ笑むギョードン。
(あの距離で踏み込むつもりか! )
まだまだかなりの距離がある。
彼らの居る場所から踏み込んでも辛うじて届く程度だろうが、ちょっと体を逸らすだけで簡単に避けられる。
(ギョードン! わざと圧を落とせ! 突っ込んだところで撃つぞ! )
(わかった! )
ドゴゴッ! ドゴゴッ!
わざとらしく気弾の攻撃を減らして、彼らが踏み込みやすくするギョードン。
すると、大剣に隠れていない足に力がこもった!
(今だ! 撃ち漏らすな! )
(ああ! )
全神経を集中してヨミの頭がある部分を狙うギョードン!
タンッ!
黒い大剣の持ち主が踏み込んで跳躍した!
『死ねぇ! 』
ギョードンは叫んで渾身の気弾を撃つ!
気弾は勢いよく飛んでいき……
あっさりと剣士の横を通過する!
(なっ! )
(にっ! )
剣士は斜め前に跳躍しただけで、今だに大剣をかざしていた。
完全にノーダメージである。
一瞬の虚を突かれたギョードンだが、すぐに気を取り直す!
(距離的にはそんなに変わらん! )
(やっちまえギョードン! )
そう言って攻撃を仕掛けようとした瞬間!
ピカッ!
眩い光が目に入って目が眩むギョードン!
(くっ! )
ほんの一瞬だけ動がき止まってしまう。
(何が起きたっ! )
(くそっ! )
二人して光が飛んできた方向を見てみる。
そこにはニヤニヤと笑っているヨミがぼんやりと見えた。
『アウルが少なくても、こういうことは出来るんだぜ? 』
遥か遠くの位置で体を屈めて手を掲げるヨミを見て凍り付く二人。
そしてウマカイは気付いた。
(持ち手を変えた時! )
(ヨミは右腕しかない! )
初歩的な事を間違えたことに気付く二人。
常識的に左腕に持ち替えたのを当たり前に考えてしまった。
そして左腕があるのは……
((じゃあ、こっちは? ))
慌ててそちらを振り向くが、そこには誰も居ない。
『……えっ? 』
戦場にあるまじき呆けた声を出すギョードン。
(呆けるな! )
ボワァ!
一瞬でアウルを全身に纏って防御するウマカイ。
アウルは数少ない中の人間でも操れる部分である。
そしてアウルが大幅に増える拡張型はアウルを纏うだけでもかなりの防御力を持つ。
(これで不意打ちでも致命傷は負うことがないはず! )
そう考えてアウルを防御に全振りして集中するウマカイだが、そのお腹に何か冷たい物が通る。
(何が……)
それを考えるだけの時間はウマカイには無かった。
何故なら、自身の胴を両断されたからだ。
ブシャァぁァァァ!!!!
胴から血煙を上げるギョードン。
そして胴の断面からは二つに分かたれたウマカイが出てきた。
それを見て一息つけるトーノ。
『ふぅ……なんて切れ味だ……』
無窮須臾を手にマジマジと刃を見るトーノ。
そんなトーノにスタスタと近寄るヨミ。
『無窮須臾は恐ろしく薄い上に摩擦が働かないからな。アウルの防御は上手い事逃げるんだわ』
アウルの防御とは一言で言えば『粘性の高いゲル状』の物を身に纏うようなものである。
それ自体はそれほど大きな防御力ではない。
だが、薄くて摩擦が少ない物には効果がない。
『壊れない上にアウルの防御が効かないとは……まことに優れた剣だな』
『良いだろう? 』
『そうだな。ありがとう。この贈り物は感謝する』
『なにさらっとパクろうとしてんだよ馬鹿! 』
『くれるんじゃなかったのか? 』
『誰がやるか馬鹿! 』
そう言って分捕るヨミ。
まあ、分捕ると言っても元からヨミのものなんだが……
とはいえ、強敵を倒した所で一息つく二人。
『あとはあっちだけだな? 』
『手伝わなくても大丈夫だと思うが……』
のんびり寛ぐ二人に急に叫び声が聞こえた。
「気を付けて! もう一人居ます! 」
『うん? もう一人? 』
トーノがのんびりとした声を上げるがすぐにその顔が歪む!
『ぐっ……がぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 』
苦悶の表情を浮かべてそのまま崩れ落ちるトーノ。
『なんだぁ? 』
ヨミはすぐに辺りを警戒して注意深く探る。
先ほどまで敵がギョードンとウルメの二人しかいないと確認していたからだ。
(どこから現れた……)
(何者だ……俺ら二人に殺気を感じさせないだと? )
驚く刀和と会話しながら辺りを探るヨミだがすぐに誰が攻撃したかわかった。
青く輝く長い髪をたなびかせた透明感のある綺麗なクラゲ型女の女晶霊がこちらに微笑んでいた。
柔和な笑みを浮かべて、優し気な顔でこちらを見ている。
『ご機嫌麗しゅうございます。黄衣の剣士ヨミ様……』
にこやかに……そしてほのか上気した顔でヨミに熱い視線を送るクラゲ晶霊。
『あなたの益荒男ぶりに惚れ惚れいたしました……是非ともあなたと合体させていただきたいのです……』
『おまえは……! 』
ヨミの顔が恐怖で引き攣った!
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