第112話 恥さらし
一方、アカシたちはと言えば……
ガキィン!
再び三人がウルメに吹っ飛ばされる!
『何度やっても無駄るん! 諦めて降伏するん! 』
やや疲れ気味の声で叫ぶウルメ。
『くそう! 』
『なんてやつ……』
『あんな馬鹿に……』
トヨタマとタマヨリが悔しそうに立ち上がる!
だが、アカシは立ち上がろうとしてすぐに膝をついた。
『はぁ……はぁ……』
『お姉さま! 』
『アカシは休んでて! あいつは私たちが何とかするから! 』
『ごめん……』
そう言って完全に座り込むアカシ。
これ以上の戦いは難しいと二人は感じていた。
だが、アカシは別の事に苦しんでいた。
(体が熱い! )
(だ、大丈夫!? )
中に居る瞬も不安そうに尋ねるが、瞬自身もあまり大丈夫ではない。
軽減されているとは言え、瞬にはまだトラウマの残り香が残っている。
それほど精神的に余裕はない。
そんなアカシとは裏腹にウルメは三人に怒鳴りつける。
『早く投降するるん! 』
そう言って槍を振り回すウルメ。
何度も三人とやり合ってるのにまだまだ元気そうだ。
『なんであんなに強いの……』
トヨタマが悔しそうに呟く。
確かに勝てない相手である。
試合で勝ったことが一回も無い相手に渋面になるトヨタマ。
『全く! なんであんな馬鹿があんなに強いんですの! 』
タマヨリも槍を構えながら愚痴る。
実際、何度やっても弾かれるので勝てそうにない。
(何であいつに勝てないのかしら? )
必死で考えるトヨタマだが、オトが訝し気に声を上げる。
(なあ、トヨタマ。本当に今まで試合に勝てなかったのか? )
(そうよ……悔しいけど……)
オトはトヨタマが訓練していた時代を知らない。
オトと相棒を組んでからは太宰府に来るまでに訓練に参加していないし、来てもウルメはサボってばかりいるのでお手合わせしていない。
そんなトヨタマにあきれ声を出すオト。
(あのさ……あいつ……自分から攻撃してこねーぞ? )
(……えっ? )
言われて気が付くトヨタマ。
確かに今までこちらからしか攻撃していない。
(それとさっきから吹っ飛ばされてばかりいるけど……攻撃は出来てないぞ? )
確かに三人同時の攻撃すらも上手く捌くほどの腕前である。
ぶっちゃけ、もっとうまく立ち回れるはずなのにそうしない。
(確か、試合って転ばされたら負けなんだよな? )
(そうよ…………えっ? )
言われて気付くトヨタマ。
確かにウルメとは『試合』しかしていない。
そして最近は特にサボりがちで試合もろくにしていない。
つまり……
(あいつ……相手を転ばすことに特化してるだけなんじゃないか? )
柔よく剛を制すと言えば聞こえはいいだろう。
だが、実戦においては必ずしも良いことではない。
巧みな技巧より百本の弓矢の方が強いこともある。
(ちょっと弓を射かけて見て)
(わかった)
トヨタマは落ちていた弓矢を拾ってウルメに構える。
するとたちどころに顔色を青ざめるウルメ。
『そ、それは卑怯るん! 』
慌てて右往左往するウルメ。
そんなウルメに容赦なく矢を放つトヨタマ。
ブスッ
呆気なくウルメの肩に当たる。
するとウルメが顔を大きくゆがめる!
『痛い! 痛いるん! 助けてるん! 』
馬鹿馬鹿しいほど子供っぽく泣きわめくウルメ。
先ほどまでの余裕が嘘のように簡単にやられる。
それを見て心底呆れるトヨタマ。
(さ、三人がかりだから、たかをくくって肉弾戦に挑んだのが間違いだったわ……)
(どーりで都の武道会にもいかないわけだ……)
あきれ声のオト。
西海周辺で戦う分には気付かれにくかっただろう。
さらに言えば戦になってもトドメを他の者に任せれば良いだけで、戦えないほどではない。
だが、武道会に行けば一対一なのですぐにバレる。
実際、西海太宰府の人間はほぼ全員が知っていた。
晶霊たちもウルメが全然勝てないから、不貞腐れて訓練しなくなったのを知っていた。
知らないのはその経緯を聞き逃したこの二人と唾棄するほど嫌っていたタマヨリだけである。
本当にキライな奴の情報は、誰も知ろうとしない。
『こ、こんな馬鹿だったなんて……』
ウルメと自分に呆れかえるタマヨリ。
『……どんなに嫌いな奴でも情報は知っておかないと駄目なのね……』
アカシも呆れかえる。
アカシはトヨタマよりも太宰府に長く居たが全然交流が無かったし、言い寄ってきたのが不快だったので話そうともしなかったのだ。
だが、これは往々にして良くあることである。
生きていく上でコミュニケーションが大事なのはこういった細かい情報を知り合うことにある。
嫌いな奴ともそこそこ話は出来なければならない。
そうでないとこんな目に遭う。
何事も都合よく世の中は出来ていないのだ。
プスプスプス
『痛いぃぃぃぃ!!! 助けてぇぇぇぇぇ!!! 』
今までの恨みと言わんばかりに矢を射かけるトヨタマによって針鼠のようになるウルメ。
するとウルメの腹からむにょんとヒロツグが出てきた。
「ひぃぃぃ!!!! 」
全力で泳いで逃げだすヒロツグ。
だが、その体を掴む者が居た!
『ヒロツグ! 助けてるん! 』
「はなせぇぇぇぇ!!! 」
ウルメの手から必死で逃げようとするヒロツグとヒロツグを逃がすまいと必死で掴むウルメ。
それを見て苦い顔になるトヨタマ。
(ああはなりたくないわね……)
(ほんと……)
オトも渋面で答える。
命惜しさの仲間割れは晶霊士にとって最大の恥とされる。
アカシが瞬を外に出したのは逃がすためだが、周りは命惜しさに差し出したと考えたから恥としていたのだ。
タマヨリが冷え冷えとした顔でウルメの前に出る。
『安心しなさい。二人とも地獄送ってあげますわ』
『「嫌だァァァァァァ!!!!! 」』
バシュッ! ズミュッ!
槍でウルメの首を飛ばしてから、ヒロツグを槍の石突で潰すタマヨリ。
ぶしゅぅぅぅう
首から血煙を上げるウルメの体はそのまま崩れ落ち、上半身が潰れたヒロツグの死体が血煙と共に宙を漂う。
『終わりましたわね……』
ほっとするタマヨリ。
だが、すぐに叫び声が聞こえた。
「まだ終わってません! 一番危険な敵が残ってます! 」
『『『えっ! 』』』
慌てて声の方へ振り向く三騎だが、そこにはアミが居た。
「早くヨミに加勢を! 」
『加勢ったって……あの二人に加勢がいる? 』
『私たちが行ったって……』
『ウマカイ相手なら勝つでしょ? 』
そう口々に言ってヨミの方を見て……その顔が凍り付く三騎。
『な……』
呆然とするのも仕方がなく、ヨミが一人で圧倒的に苦戦していた。
地面にはトーノが倒れている。
「あの敵は恐ろしい毒を持つクラゲです! 私たちの相棒もやられました! 」
『『『うそっ! 』』』
慌てて辺りを見渡すと死体に混じって蠢く三騎の晶霊が居た。
「早く救援に! このままでは全滅してしまいます! 」
アミの悲痛な叫び声に三騎は呆然とした。
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