第110話 略奪出来ない略奪者


 一方、ヨミとトーノの戦いは佳境に至っていた。


『ふははははは! どうした? 最強の剣士の名が泣くぞヨミぃぃぃぃ!!!! 』

『ぐぅぅぅ!!!! 』

 

 防戦一方のヨミに気弾を連射するギョードン。


『くそう! どうすればいい! 』


 ヨミほどではないがトーノの方にも気弾が飛んでくるのでこちらも防戦一方だ。

 腹話で苦しそうな声を出すヨミ。


(くぅっ! このままでは負ける……)

(しっかりしてヨミ! )


 苦しそうなヨミに必死で元気づける刀和。

 

(僕にできることがあれば何でもするから! )

(ぐぅぅぅ……よし! 隙を見て一度刀和を腹から出すぞ! )

(腹から出す? )

(ああそうだ! )


 いきなりの提案に怪訝そうな顔をする刀和。

 ヨミは苦しそうに尚も言葉を続ける。


(腹から出たら刀和はアカシの所へ行ってくれ! )

(アカシの所へ? )

(そうだ! それから合体するようにお願いしてくれ! そうすれば勝てる! )

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 一瞬で素に戻る刀和。

 頭が冷静になり、状況が掴めてきた。

 ヨミは尚も苦しそうに腹話で叫ぶ!


(頼む! これしか方法が無いんだ! だからすぐにでもアカシに頼んでくれ! )

(……ひょっとして前みたいに、わざとピンチ演出してない? )

(ぎくぅ! )


 わざとらしい声を聞いて半眼になる刀和。


(本当はトーノと二人なら勝てるんでしょ? )

(違う! 本当だ! 嘘じゃない! 俺を信じてくれ! )

(ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん? )

(わかった。嘘ついてたよ……いいじゃん。ついでに合体しても……)


 あっけなく口を尖らせながら自白するヨミ。

 あきれ声になる刀和。


(そんなにポンポンピンチを演出してたら本当のピンチで誰も信用しなくなるよ? )

(安心しな相棒。俺はそう簡単にピンチにはならねぇ)

(威張ってないで何とかしなよ! )

(へいへい)


 刀和にそう言ってからヨミはギョードンとは少し距離を取り、トーノに近づき何やらごしょごしょ囁く。

 それを聞いてトーノがビックリした顔になる。


『なに? そんなことがあったのか? 』


 なにやら大剣の陰に隠れて話し込む二騎。

 その様子を見て訝し気になるギョードン。


(何の作戦を考えているのだ? )


 ギョードンは考えた。

 相手は最強の剣士である。

 ギョードン自身も西海太宰が来るまではイワイと西海の覇権を競っていたので、十分に戦の経験はある。

 実際、ギョードンは西海で最強の晶霊将の一人でもある。

 だが、そんなギョードンでもヨミの戦いは規格外にある。


(戦場は何でもありとは言え、あそこまで多彩に戦えるものか? )

(それだけ豊富な経験があるんだろうな)


 中のウマカイも神経をとがらせている。

 ウマカイもヨミの能力は過少評価していないし、トーノの能力も過小評価していない。


(やつらは都でも1,2を争う古強者だ。気を付けろギョードン)

(おうさ)


 二人とも暴虐のかぎりを尽くしてはいるが戦に関しては超一流である。

 でなければ晶霊将になれたりはしない。


(我らに授かった『略奪者』の能力は忌み嫌われたが……)

(それ故に我らは強くなった……)


 二人の能力は『略奪者』である。

 奪い取れば取るほど強くなる能力で、その能力故に仲間からも疎まれたものだ。

 だが、いざ、戦になれば敵から奪えば奪うほど強くなっていった。

 こうなると逆に近隣の郡司は恐れて従うようになった。

 何しろ、その標的が自分に向けば全て奪われただけでなく、二人の能力の足しにしかならないのだ。

 危険な郡司だからこそ、先に従うようになった。 


(西海太宰があと少し遅ければやつらの言いなりにはならなかったのに! )

(全くだ。奴等が来てからふたたび我らの不遇が始まった……)


 上手く使えばヨルノースの覇権すら狙える能力だが、西海太宰が穏やかな統治をおこなうことで目に見えて西海は平和になり、再び二人の不遇の時代が始まった。


 略奪者の弱点は『与えると効力が下がる』点である。

 拡張型の弱点は『条件』を『相反する』と半減するのだ。

 

 そのせいで色んな制約に苦しめられることになる。

 二人の場合は一切の『恩賞』が与えられなくなる。

 何かを与えるとその分効力が薄れる。


 そうなると今度は『最初から』戦利品を持つことすら厳しくなる。

 何しろ戦利品を自分の手に纏めてしまうと恩賞の分だけ大幅に下がる。

 そうなると部下が言う事聞かなくなるので、逆に部下に先に取らせてから自分の分を取らなくてはならない。

 要は『部下から奪う』という形を取ることになるのだ。


 そうなると、部下も手柄を隠して、あげられるものだけを見せる。

 結局は『全取り』することが出来ない。


 略奪者なのに手柄の大部分を部下に与えることになる。

 能力故に真逆の対応を迫られることもあるのだ。


(ようやく俺たちの時代が来ると思ったのに! )

(全く口惜しい限りだ! )


 二人は悔しそうに歯ぎしりした。


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