第109話 忍び寄る敵
一方でラインのお付きは全員屋敷の雑魚を相手にしていたが……
『どうやら一通り片付いたようだな』
シマンの一言にホッとするゲンジツナ。
『では皆さまを加勢するとしましょうか』
『おいらが全部倒してやる! 』
ぶんぶんと斧を振り回すカイドウマル。
シマンが山肌の方を見てみる。
『大丈夫でしょう? ウブメがちゃんと援護……』
援護していると言いかけてその言葉がピタリと止まる。
山肌でウブメが倒れているのだ。
『ウブメ! 』
慌ててウブメの元へ走ろうとするシマンだが、何かに足を取られた!
ズシャァ!
派手に転がるシマン。
一方、シマンの様子がおかしいことに気付いたゲンジツナが叫ぶ。
『どうされたシマン殿! 』
慌てて駆け寄ろうとするが、突然後ろから声がかかった。
『大丈夫よ。転んだだけだから』
『なっ!!! 』
驚きながらも声がした後ろを切りつけるゲンジツナ!
だが、刀は何もない空を切った!
そして……
『ちょっと大人しくしててね』
そんな声を聞くと同時にゲンジツナの動きがピタリと止まる。
『く……か……』
かちゃり
乾いた音を立てて持っていた刀を落とすゲンジツナ。
それを見てシマンは立ち上がった!
『貴様! 一体何者だ! 』
現れたのは青く輝く髪に透明感のある体をした女晶霊だった。
綺麗に光を通して輝くその姿は見る者を唸らせるものがあったが、強者一人を無力化したとなれば立派な脅威である。
女晶霊はアジサイの着流しを着て、ふふふっと悪戯っぽく笑う。
『大丈夫よ。体が痺れているだけ……向こうの彼女もね? 』
そう言って山肌で倒れているウブメの姿を親指で指す謎の女晶霊。
その後ろではくねくねと触手が蠢いている。
『あなたたちは殺すなって言われてるから、動かなければ何もしないわよ? 』
そう言ってにっこり笑う女晶霊。
だが、逆にシマンはいきり立った!
「ほざけ! そんなこと信用できるか! 」
バシュン!
そう言ってアウルを吹かして女晶霊に向かって行くシマン!
(毒針で刺した……こいつはクラゲ型だな! )
クラゲ型は毒針の触手を持つ。
毒針の種類は様々だが、どうやら痺れさせる能力らしい。
ぼーっと突っ立っているだけの女晶霊に一撃を加えんと大鎌を振りかぶるシマン!
『死ねぇ! 』
叫びながら大鎌を振るうシマン!
だがその時だった!
ごっ!
顔に何かが当たって、その勢いは消え失せる!
(一体何が……)
くらくらする頭のまま大鎌を振るうが当然ながら空を切る。
そして何にあたったのかわかった。
晶霊の頭ほどもある岩だった。
(岩……)
(なんで……)
シマンと中に居るサダカゲが不思議そうにするが、その時にはクラゲ晶霊は目の前に来ていた。
『もーらい♪ 』
ぷす
女晶霊の背中から伸びた触手がシマンの体に刺さり、毒が注入される!
すると中で大きな変化が起きた。
(いぎぃぁぁぁぁぁっ!!! )
(シマン! しっかりしろ! )
サダカゲが今までに聞いたことも無い絶叫を上げるシマン。
腹話では聞こえるのに声にはなっていない!
(これは単純に痺れているだけでは無いのか! )
(んぎぎぎぎぎぎぃ! )
恐ろしい苦悶の声を上げるシマン。
(なんて毒だ! ここまでの激痛を与えるとは! )
(痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!!)
苦悶の声を上げる相棒にただただ、見守るしかないサダカゲ。
(もういい! 休めシマン! これ以上は無理だ! )
(すまぬ……)
そう言って倒れるシマン。
でろん
弛緩したシマンからにゅるりと出るサダカゲ。
すると目の前にはゲンジツナから出てきたアミがもう来ていた。
いつもの愛嬌のある狸顔を悔しそうに歪ませながらアミは尋ねた。
「大丈夫? 」
「俺はな……」
見れば辺りに人影は一切無く、残っているのは戦っている晶霊たちだけだった。
辛そうに肩を落とすアミ。
「ゲンジツナは恐ろしいほどの絶叫を上げていたわ……」
「シマンもだ……」
二人揃って眉を顰めてカイドウマルの方を見る。
のこったカイドウマルは斧を振り回していたが……
『ぐ……がぁ……』
あっけなく触手にやられて倒れこむ。
「なんて強さだ……」
突然現れた晶霊の強さに震えるサダカゲ。
するとサダカゲに気付いた女晶霊がにっこり笑う。
『大丈夫よ。一週間もすれば元に戻るから』
そう言って嬉しそうにニコニコと笑いかけてから……ヨミ達とアカシ達の戦いを観戦し始めた。
それを聞いて凍り付く二人。
「あの激痛を……」
「一週間も……」
地獄に等しい拷問を食らった相棒を心配そうに二人は見つめた。
そして、異常な行動ばかりとる謎の晶霊に恐怖した。
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