第101話 懇願
一方でウマカイの屋敷では門前でおおいに揉めていた。
『お願い! シュンを返してあげて! 』
さめざめと泣きながら門番晶霊に懇願するアカシ。
一方、アカシの懇願に門番晶霊たちは困り顔だ。
『おい、どうする? 』
『どうするったって……ウマカイ殿は返す気は無いんだろう? 』
対応に困り果てる二人の晶霊。
すると、屋敷の奥から一人の晶霊が現れた。
『お前達! 何をやってる! 』
『『ギョードン様! 』』
壮年の晶霊がスタスタと歩いてきた。
ウマカイの相棒にしてこの土地の校尉でもあるギョードンである。
ギョードンはトビウオ型の晶霊で筋骨たくましい晶霊でもある。
そのギョードンが現れたことで姿勢を正す門番晶霊。
『この女が先ほどの女を返せと……』
『ふむ……』
そう言ってマジマジとアカシの方を見るギョードン。
すると威厳を持って言った。
『美しき方よ。彼女はウマカイ殿に気に入られた。ここで幸せに過ごすことになる。返すわけにはいかぬ』
『そこを何とか! お願いします! 』
そのまま土下座してまで頼み込むアカシ。
すると、ギョードンがにやりと笑う。
『うーん……そうですなぁ……愛しい人の頼みならわたくしも考えなくも無いですなぁ……』
そう言って好色そうな笑みを浮かべてアカシを見る。
それを聞いてビクンと体を震わせるアカシ。
『そうですなぁ……一度でも合体した相手の頼みなら考えなくも無いですなぁ……』
何度も言うが、アカシは晶霊としては美人である。
それもかなりの美女にあたる。
言われたことの意味を反芻し、唇をかみしめるアカシ。
『いかがですかな? あなたほどの美しい方なら私の第8の妻に相応しい』
さらっと酷いことを言っているが、晶霊は『終婚』という風習があり、結婚が普通に終わることがあるのだ。
とはいえ、それを含めても八回はやり過ぎで、ギョードンが適当過ぎる証でもある。
『いかがですかな? 』
そう言っていやらしい目でギョードンがアカシを見つめていると後ろからドスドスという足音が聞こえてきた。
『あ~! アカシだぁ! アカシが本当に来てくれたるん! 』
瞬をさらった張本人であるウルメがやってきたのだ。
晶物と呼ばれる動物の魚のような生き物をお菓子のようにかじりながら現れた。
ボロボロと食べかすがこぼれて汚い。
『へへへへ……アカシは僕のお嫁さんになりに来たんでしょ? 』
気持ち悪く恥ずかしそうに照れ笑いするウルメ。
すると、それを聞いてギョードンが怒る。
『こりゃウルメ。この美人はわしのものだ。おまえはその辺の女と合体していろ! 』
『ぶぅ~! パパばっかりずるいるん! 』
そう言ってアカシの手を引っ張るウルメ。
『アカシは僕のなの~! 』
『ちょっ! 待って! 』
無理矢理引きずろうとするウルメに止めようとするアカシ。
だが、そんなウルメの手を引っ張るギョードン。
『こりゃ息子よ。お前にはこれほどの美女はもったいない。わしが貰ってやろう』
『ぶぅ~! アカシは僕のなの! 』
そう言って口喧嘩を始める二人。
しまいにはアカシの両手を引っ張り始める!
『この子はわしのじゃ! 』
『僕の! 』
『ちょっ! やめっ! お願いだから放して! 』
親子で醜い取り合いを始めたその時だった!
どげしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
ギョードンとウルメの二人が何者かに蹴飛ばされて吹っ飛ぶ!
『『『アカシと合体するのはお前じゃねぇ! 』』』
二人を蹴飛ばしたヨミ、トーノ、タマヨリの三人が大声で叫ぶ。
そう言ってからトーノが大声で叫ぶ。
『この俺だ! 』
『いや、お前じゃないだろ! 俺に決まってんだろ! 』
『むさくるしい爺どもは年の差を考えなさい! わたくしに決まってますわ! 』
口々に自分が合体すると言い張る三人。
『いや、性別の差の方が大事だろ? 』
『うむ。愛があれば年の差なんて関係ないからな』
『おめぇは上過ぎるから俺ぐらいがちょうどいいんだよ! 』
『おめぇも十分年上すぎんだろが! 』
『あなたたち何考えてるんですか! わたくしが一番に決まってますわ! 』
しまいには喧嘩を始めた。
すると、門番晶霊が我に返って声を上げた!
『敵襲! 敵襲だぁ! 』
それが戦闘開始の合図となった。
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